【完結】どうも、使い魔の人間です。~魔族しかいない世界でモフモフ魔族に溺愛されてます~

胡蝶乃夢

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番外編.ハッピー・ハロウィン(3/3)

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 さっきまであったはずの大皿のご馳走やスイーツ・タワーのお菓子が忽然と消えてなくなっていたのだ。
 大食いと言えばと考え、みんなが信じられないといった表情でブラッドに視線を向ける。

「いやいや、ワシではないぞ! いくら食道楽とはいえ、そこまで食い意地は張っとらんわ!!」
「だよね。あれだけの量を一人で食べきれるはずもないし……」
「じゃろう? ワシだって限度はあるからのう」

 それもそうなのだ。みんながお腹いっぱいになっても少し余るくらいには用意しておいたのだから。
 それが跡形もなく消えてなくなってしまっていることに、一同が困惑し、ざわついている。

「ふふふふ……驚いてるね……」

 僕達の困惑する様子を見てか、どこからか子供達のクスクスと笑う声が聞こえてくる。
 リュウが何かの気配を察してバッと振り返り、みんながつられて視線を向けると、そこには見知らぬ子供達の姿があった。

「あはは……見つかっちゃった……あははは」

 僕から見ると、子供達は仮装らしい仮装はしておらず、人間の姿をしている。

「王冠はいただいたよ。ボクがスイーツ・キングだ……きゃはは」
「くふふふふ……また一緒に遊ぼうねー……バイバーイ……」

 楽しげに笑う子供達は僕達に手を振って、ふわりと浮かび上がっていく。
 そして、ぼんやりと白く発光する体が透け、空気に溶けるように消えていった。

「「「!!?」」」

 一同が息を呑んでいた中、堰を切ったようにリュウが悲鳴を上げる。

「~~~~っ! で、で、で、でたでござるーーーーっ!!」

 絶叫したリュウは卒倒し、パタリと倒れてしまった。

「……今の幽霊だよね? 初めて見たよ」

 僕が言葉をこぼすと、唖然としていたノヴァも頷いて言う。

「俺もあんなのは初めて見た。マナトに似ていたな……あれが、人間の幽霊か」
「ハロウィンに先祖の魂が会いに来るって言うのは、本当だったんだね……なんか、不思議な感じがする」

 幽霊や人外のものだからといって、嫌な感じはしない。むしろ、僕は嬉しい気持ちがわいてくる。

「ハロウィン・パーティー、一緒に楽しんでくれたんだって思ったら、なんだか嬉しいね」

 自然と笑顔になって言えば、ノヴァも頷いて微笑んでくれる。

「そうだな。ハロウィン・パーティーは大成功と言っていいだろう。あとは……あいつらをなんとかしないとな?」

 指差された会場に視線を向けると、人間の幽霊を見て子供達が大はしゃぎし、慌てふためいたモフモフおばけが右往左往し、それに驚いたリュウがまた失神したりと、大混乱になっている。

 てんやわんやの末、僕達は何とかみんなを落ち着かせ、どこか不思議な気配を残すハロウィン・パーティーは幕を閉じたのだった。


 ◆


 失神してしまったリュウを居城の客室へと寝かしつけ、パーティーの参加者が帰るのを見送った後、イブは夜風に当たろうと、庭園へと訪れた。

 明るい月明かりが照らす庭園で、花壇に植えられた王が好きだった花に顔を寄せ、芳しい香りに包まれる。
 胸いっぱいに香りを吸い込み、イブは昔を懐かしんで物思いにふけた。

(こんなに賑やかで楽しいパーティーは、王が生きていた頃以来ですね……若かりし頃の王に連れられて行ったお祭りも、皆で盛大に祝った王の誕生祭も、本当に楽しかった……)

 イブはノスタルジックな想いに浸り、また、ハロウィンには先祖の霊や悪霊がやってくるのだと言っていたマナトの言葉を思い出し、切なくも悲しい気持ちになっていく。
 
(もう一度、王に会えるのなら……魂を奪いに来た悪霊でもかまわない……けれど、王は決してわたくしの元には来てくださらないでしょうね……王とは共に年を取れなかった、化け物のわたくしには……)

 涙がこぼれないようにと、気丈に月を見上げる紫紺の瞳には、揺らめく滲んだ満月が浮かんでいた。

『………、………』 

 イブは名を呼ばれた気がして、立ち上がり振り返った。
 月明かりに照らされたガゼボの前、白くぼんやりと揺れる人影が現れる。
 その姿は儚く、それでいてどこか懐かしい気配を纏っていた。

「そんな……まさか……っ……」

 滲んでぼやけた視界でも、イブにはそれが誰なのかわかった。
 間違えるはずもない。誰よりも何よりも想い続けていた人が、そこに立っているのだから。
 瞬きを繰り返せば、その姿が鮮明になり、若かりし頃の精悍な王の姿が紫紺の瞳に映る。

『……イブ……』

 王がイブの名を呼んだ。
 願っていたことが本当になった。
 王はイブの元へとやって来てくれたのだ。

「! ……王……っ……、……」

 イブは高ぶる感情に息が詰まり、言葉が紡げない。
 涙を堪えて震えるイブは、命も魂も、何もかも捧げていいと思った。
 しかし、そんなイブを何故か悲しげな眼差しで見つめ、王は呟くように言う。

『……イブ……すまなかった……』

 王の精悍な頬を涙が伝い落ちていく。

「!? ……王よ……何故、泣いているのです?」

 戸惑い問いかけるイブに、王は涙をこぼしながら語りだす。

『……わたしは己が憎い。どんなに呪っても呪い足りないほどに……君を深く傷つけてしまった、己が許せない……』

 王は悔恨に表情を歪ませ、されど切ない眼差しでイブを見つめる。

『本当は会わせる顔などなかった。決して許されることではない……けれど、一目だけでも会いたかった……』
「……っ……」

 王が会いたいと望んでくれていたのだと、イブはその言葉だけでもう何も望まない。
 胸がいっぱいで言葉が出てこず、自分を責める王にイブはただ首を横に振って見せ、涙がパラパラと煌めいて散る。

『君には知っておいて欲しかったんだ。死に際に狂いわたしが吐いてしまった言葉は、本心ではない、嘘偽りだと……君はいつでも、わたしの最愛の人だった。誰よりも可愛い、わたしのイブだ』

 そう言いながら王は膝を突き、両腕を広げて見せた。
 それは、いつも王の元に駆けていくイブを抱きしめるためにしていた仕草だ。

「王……王っ……」

 イブは駆け出し、王の腕の中に飛び込んでいく。
 王はイブを優しく抱きとめ、横抱きに抱えて座り直すと、昔の思い出と同じようにイブの頭を撫で、愛情深い仕草で頬を寄せて囁くのだ。

『わたしの可愛い、可愛いイブ……』
「うっ、うう、うわぁぁぁぁ――」

 抑えきれない想いが溢れ、イブは涙が決壊して王に泣き縋った。
 想い続けてきた人との再会の喜びと、長い年月の孤独が混ざり合い、止めどなく涙が溢れだす。

 長い長い時を経ても忘れることなどできなかった、最愛の王だからこそ、その一言に深く傷つき、苦しんできたのだ。
 だが、その傷を癒すことができるのもまた、最愛の王に他ならなかった。

 満月の光に照らされる、思い出の花が咲き誇る庭園で、王はイブの傷が癒され涙が止まるまで優しく抱きしめ、愛を囁き続けたのだった。

『どうか知っておいて欲しい。わたしが心からイブの幸福を願っているということを……それを伝えたかったんだ』

 言い残すように告げた王の姿が薄れはじめ、イブは手を伸ばして王を掴み叫ぶ。

「許しません!」

 紫紺の瞳を潤ませるイブは強い眼差しで王を見上げ、切に訴える。

「わたくしは王にとって可愛いのでしょう? ならば、わたくしの我儘を聞いてください! 来年も再来年もその次も、これからもずっとずっと、わたくしが死ぬまで会いに来てください!! それが王への罰です……」

 王は少し驚いた表情を見せ、柔らかく微笑む。

『イブの罰はいつも可愛くていじらしい……わかった。約束しよう……私の最愛の人、イブ』

 愛おしげにイブの手を取り、王は白い指先に口づけた。
 花がほころぶような可憐な笑顔を見せ、イブも言葉を返す。

「ええ、約束ですよ。わたくしの最愛の王――」

 二人は見つめ合い、透けゆく体で唇を重ね、再会を約束したのだ。


 ◆


 満月の月明かりが綺麗な夜。
 ノヴァと二人で歩いていた帰り道。
 仮装をした子供がパタパタと僕達のところに駆け寄ってくる。

 カボチャのランタンを持って、とんがり帽子にマントを羽織った、魔法使いの格好をした男の子だ。

「トリック・オア・トリート!」

 お菓子をねだり手を差し出してきた男の子に、何か渡そうとポケットをゴソゴソ探ってみるけど、何も見つからない。
 顔を見合わせたノヴァも同じ様子だったので、僕はかがんで男の子に言う。

「ごめんね。手持ちのお菓子は配り切っちゃったみたいで、もう何も持ってないんだ」
「悪いな。また明日、新しい菓子を用意するから、それで勘弁してくれないか?」

「えぇっ?! 今日じゃないとダメだよ! だって今日がハロウィンなんだよ!! 今じゃなきゃ、やだやだやだやだー! 絶対やーだー!!」
「お菓子あげたいんだけど、今は何も持ってないんだよ……ホントにごめんね……」

 男の子は大きな声を出してぐずり、僕達は困り果ててしまう。
 顔を真っ赤にしてプクーッと頬を膨らませる男の子は、僕達を睨んで言い放つ。

「お菓子くれないなら、悪戯するー! これでもくらえー!!」

 こちらに杖を向けて叫んだ途端、魔法のようなものが放たれ――

 ポフンッ!

 ――もくもくとした煙に全身が包まれた。
 煙が晴れると、ノヴァの頭上にはフワフワの黒い三角耳が生え、マントの裾からは長い尻尾が覗いている。

「ノヴァ! ネコ耳と尻尾が生えてるよ……」
「え……はっ!? マナト……お前も、その耳! デカいぞ……いや、ウサ耳か?」

 ノヴァが目を丸くして言うので、僕も自分の耳に手を当てると、いつもの場所に耳がない。

「え? ……えぇえ?!」

 違和感を感じる頭上を触ってみれば、フワフワの長くて大きな黒いウサ耳が生えていたのだ。
 お尻の上の辺りにもモゾモゾとした違和感を感じるので、おそらく尻尾も生えているのだろう。

「ふんっ! これに懲りたら、次はちゃんとお菓子用意しておいてよね!!」

 男の子は荒い鼻息を吐いて言い捨てると、パタパタと空中を駆け上がり、空気に溶けるようにして消えていく。
 ハロウィンに遊びに来た幽霊なのか、魔法使いなのかはわからないけど、僕達は茫然と男の子が消えるのを見守っていた。

「こ……これ、どうしよう?」
「まさか、一生このままなんてことはないよな?」

 悪戯されて、ケモ耳尻尾を生やした僕達は、なんとも言えない表情で視線を交わしたのだった。


 ◆


「変な感じだけど、ちゃんと感覚があって動かせる……このフワフワの耳、本当に僕の耳なんだね」

 自宅へと帰ってきた僕達は、改めて自分の体の変化を確認していた。

「俺の方は耳と尻尾くらいで、他に変わっている様子はないが、お前の方はどうだ?」
「たぶん僕も同じだとは思うんだけど……自分で見えないところはわからないや」

 僕が自分のウサ耳を触っていると、ノヴァがじっと見つめてくるので首を傾げる。

「なーに?」
「俺がネコ耳なのはある意味納得がいくんだが、マナトはなんでウサ耳なんだろうなと思って」
「言われてみれば確かにそうだね……なんでだろう?」

 ノヴァの目がぎこちなく揺れる僕のウサ耳を追って動いている。

「今までは特に動物的な部位に触れてみたいと思ったことはなかったんだが、そのウサ耳を見ていると、モフモフに触りたくなるマナトの気持ちが少しだけわかる気がしてくる」
「ぷふっ」

 あまりにも神妙な顔つきで言うものだから、何事かと思ったけど、可愛い欲求に戸惑うノヴァの姿に思わず吹いてしまった。

「あははは。なんだ、触りたかったんだね。いいよ、触ってみて」
「ごくっ……じゃあ、触るぞ」

 ノヴァは唾を呑み込み、そろりと手を伸ばして、僕のフワフワなウサ耳を撫でる。

「あ……自分で触るのとは違って、これなんか変な感じするね……んっ……」

 優しく撫でられているだけなのに、いつもと違う感覚で過敏に感じ、背筋がゾクゾクとして震えてしまう。

「ふぅん……くすぐったくて、ぞわぞわする……ねぇ、ノヴァのモフモフも触りたいな……触らせて?」
 
 上目遣いでお願いすると、ノヴァは頷いて長い尻尾を差し出してくれる。
 スリスリと撫でて滑らかな手触りを楽しんでいれば、ノヴァが熱い吐息をこぼす。

「ふぅ……はぁ……」

 指先が尻尾の付け根に近づくたび、微かにノヴァの体が震えている。

(そう言えば、猫は尻尾の付け根をトントンされると気持ちいいんだよね。性感帯だったかな……)

 尻尾を撫で上げて、付け根を刺激してあげれば、熱っぽい視線で僕を見つめてくる。
 お返しとばかりに、僕のウサ耳の付け根を撫で上げながら、お尻の上に生えたフワフワの尻尾をそっと撫でだす。

「んっ……ふ、ふあぁ……!」

 感じたことがない感覚に声が漏れ、快感に体がビクビクと震え、強い刺激に僕はふと思い出す。

(あ、そうだ。ウサギって人間と同じで、年中発情期な動物なんじゃなかったっけ? きっとこんな反応をしてしまうのは、魔法でウサギになっているせいだよね……)

 僕はノヴァに背中を向けてうつ伏せになるポーズで振り返り、腰を高くしてユラユラと尻尾を揺らして誘う。

「ノヴァ、もう我慢できないよ……一緒に気持ち良くなろう」

 ノヴァはネコ科の猛獣じみた目をギラリと光らせ、僕に飛びついて口づけてくる。
 僕達は動物的な本能のまま求めあい絡み合う。二人で溶け合うような、熱く甘い一夜を過ごしたのだった。


 ◆


 夜が明けて目を覚ますと、僕達の体は元通りに戻っていた。
 ベッドの上でごろごろしながら、来年はどんなハロウィンにしようかなんて話をする。

「来年はもっといっぱいお菓子用意しておかないとね。また悪戯されちゃう」
「悪戯で耳が変わるくらいなら、俺は全然かまわないけどな。むしろ、菓子を多く渡して、リクエストしてみようか?」

 昨日はネコ耳になって焦っていたくせに、冗談めかして言うノヴァに、ちょっと悪戯をしてみることにした。

「ふーん、ノヴァって耳フェチだよねー。エッチの時、よく耳触ったり舐めたりするし……はぁむっ」

 ノヴァの長い耳を口に含んで舐めてみる。

「うわぁっ!? ちょっ、いきなりかぶりついてくるなぁ! こら、マナト!!」
「ふふん。僕だってノヴァの弱いところ知り尽くしてるんだからね? ちゅっ」

 ノヴァの慌てっぷりに気を良くし、勝ち誇った顔でキスしてやる。

「う゛う゛ぅ……挑発したのはお前だからな! こいつめ!! ちゅっちゅっ」
「あはは、くすぐったいよ。ふふふふ……」

 ベッドの上でゴロゴロと転がって抱きすくめられ、キス攻めされて笑ってしまう。
 そんな時は、ノヴァの顔を捕まえて鼻先を擦りつけ、囁いてやるのだ。

「大好きだよ、ノヴァ」
「ああ、俺も好きだ。マナト――」

 こうして、また楽しい思い出が増えていくんだろうなと、愛おしく思うのであった。


 ◆◆◆

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