大嫌いな腹黒騎士から兄の代用品として抱き潰される俺の話

胡蝶乃夢

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一話

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「はぁ、はぁ……くそっ、放せ!」
「放したら、また逃げるだろうが」

 暴れて逃げ回り、息を切らせていた俺は、寝台の上で屈強な騎士アルタイルに組み敷かれていた。
 頭の上で両腕が束ねられ、片手で軽々と押さえ込まれている。
 先程まで激しい剣戟けんげきの攻防を繰り広げていたというのに、息を荒げるどころか、汗の一つもかいていない、涼しい顔をしたこの男が心底憎たらしい。

 並みの騎士が相手だったら、俺だって絶対に負けたりはしないのに。
 騎士学院で同い年の幼馴染だったこいつとは、一位二位を争い合う好敵手だった。
 しかし、それはもう昔の話――今や、こいつは王国屈指の剣豪。
 最強の騎士だからといって、敵わないなんて決して思いたくはないが……。

 鍛え上げられた強靭な身体に、無駄に整った顔が腹立たしい。
 銀髪の間から覗く、猛禽類もうきんるい――わしを思わせる金眼が、捕らえた獲物を前にしてえつに浸るように細められる。

「剣技も体格も膂力りょりょくも、俺には敵わないんだ。逃げようとしても無駄だと、そろそろ学んで諦めたらどうだ?」

 こんなやつに押し倒され、見下ろされているなんて屈辱でしかない。
 悔しくて仕方なくて、歯噛みして睨みつける。

「くっ……ふざけるな! 誰が好き好んでなぐさみものになんてなるか!!」
「お前が勝ったら婚約破棄してやるが、負けたら一晩好きにしていいという約束だろ。お前は負けたんだ。逃がすつもりもない。早く観念して俺のものになれ、レグルス」

 そう言って不敵に笑う口元が近づいてきて、口づけられると察し、俺は顔を背けて断固拒否する。
 そんなささやかな抵抗をせせら笑い、アルタイルはそのまま頬に口づけて軽く音を立てた。

 それから、顔を背けたことで目の前にさらされた俺の耳を見て、耳元の髪をいて後ろに流し、後頭部に手を添える。
 頭を固定されてまさかと思えば、耳朶じだにふっと吐息がかかり、熱い舌が這わされた。

「ひ、やぁっ! なんっ、やめ……耳なんて、舐めるな……汚いっ……」
「前後で洗浄魔法をかけているんだから、汚くなんてないだろ。俺はお前が汗臭いくらいの方が興奮するけどな」
「なん、て……変態、ひぁっ!」

 耳の内側まで舐められ、ビクリと身体が震える。
 ぬるついた分厚い舌にねぶられ、直に響くクチクチという水音に背筋が粟立つ。
 もう綺麗か汚いかなんてどうでもいい。
 ゾクゾクとした痺れが全身に響くような感覚に、居ても立ってもいられなくなって、身をよじって頭を振る。

「やめ、ろっ!」
「耳もそんなに感じるのか、どこもかしこも敏感だな」
「くぅ……か、感じてなんかないっ! 気色悪くて総毛立ってるだけだ!」

 耳元でささやかれるだけで身震いしてしまう俺の否定を聞き流し、アルタイルは服の前を開き、続いて首筋に舌をわせ、吸いつきながら下へと降りていく。
 少し薄くなっていた所有印を上書きするように強く吸い上げ、チリッとした痛みが走る。

「っ……やめろ、痕をつけるな……あっ……」
「どうせ、着替えも入浴も自分でして、人に見せることはないんだろ」

 身体中にそんな印を残されているせいで、恥ずかしくて人前で服なんか脱げない。
 胸元どころか、首元の出る服が着られなくなってしまったのに。
 誰のせいだと思っているのか、簡単に言ってくれるこいつが恨めしい。

「この野郎……貴様のせいで、こっちはいい迷惑をしているんだ! いい加減、痕を残すのやめっ……おい!!」

 俺の恨み言など素知らぬ顔で、アルタイルは鬱血痕うっけつこんを増やしつつ、服の中に手を滑り込ませ、片手で器用に脱がせていく。
 直接、肌に触れられる感覚にわななき、思わず声が出そうになるが、奥歯を噛み締めて耐え忍ぶ。

「くっ……、……」

 大袈裟おおげさに反応して、また感じてるだの敏感だのと揶揄からかわれるのはしゃくだ。

 あらかた脱がし終えると、アルタイルは上体を起こし、改めて俺を見据えた。
 上気して薄っすらと肌を赤く染め、震えて荒い息を吐いている、あられもない俺の裸体を眺め、見惚れるような表情を浮かべて呟く。

「綺麗だな……この身体を抱けると思うと、いつも堪らなくたかぶる」

 高揚して微笑むアルタイルの瞳に映っているのが、俺ではないことはわかっている。
 太陽みたいな金髪に青天みたいな碧眼へきがん。同じ色彩を持つ、背丈も同じくらいの、よく似た顔の人物――兄と重ねられていることを俺は知っていた。
 アルタイルが本当に欲しているのは、俺ではなく――兄なのだと。

 だけど、王国の王太子である兄を手に入れることは許されない。
 だから、容姿の似ている俺を手頃な代用品にし、欲望のはけ口としてこうして憂さ晴らししているのだ。
 婚約者として娶る気でいるのも、兄の代わりに慰みものにするつもりでいるから……。

 かつては好敵手で親友だとも思っていた相手から、こんな扱いを受けるなんて思ってもいなかった。
 考えれば考えるほど、惨めで情けなくて、ひどく胸が痛む。
 どうしようもなく悲しくなって、気を抜いたら泣きそうになる。
 だから、考えないようにしているのに……。
 なのに、そんな熱っぽい目で見つめられたら、嫌でもまざまざと思い知らされる。
 見ていられなくて顔を背け、潤みそうになる目をきつく閉ざし、時間が過ぎていくのをただただ待つ。

「……っ!」

 不意に大きな手の平が胸の中心から下腹まで滑り落ちていき、腹を撫でられて強張こわばる。
 呪文が唱えられ、身体の内部にまで洗浄魔法がかけられ、抱く準備がされていく。
 身体の外側から内側まで、精密で高度な魔法をかけるなんて、卓越した魔法技術をこれ見よがしに披露される。
 剣術の腕前だけではない、最強騎士たるゆえんを見せつけられ、毎度毎度、不愉快極まりない。

 洗浄を終えた後も、筋肉が張って割れた腹に指を滑らせ、無意味に撫で回してくる。
 鍛えているとはいえ、アルタイルと比較したら細身で貧相に見えるだろうに、そんな腹を撫で回して何が楽しいのか。
 抵抗せずに大人しくしていると、両腕を押さえ込んでいた手が放される。

「?」

 そろりと目を開けて見れば、俺の少し厚みのある胸板を、アルタイルの両手が揉みしだく。

「んあっ!」

 つい声を上げてしまい、慌てて自由になった片手で口を塞ぎ、もう片方で制止しようと腕を掴む。
 だが、アルタイルはそんな抵抗などものともせず、もてあそぶ手を止めない。

「ん……っ、……ぅ……」

 胸を揉みしだかれ、開いた指の間で挟まれた乳首が硬くなってくると、乳輪ごと摘まれてクニクニとこねられる。
 芯を持った乳首が指の腹で押し潰されて擦られ、刺激で立ち上がれば、指先で弾かれてビクンと身体が跳ねた。

「っ! ふぅ……ん……」

 声を必死に抑えていても、いじられるたびに背筋に痺れが走り、鼻を抜ける甘ったるい吐息が漏れてしまう。

「ふっ……ん、んっ……」

 カリカリと爪先で弄くられて赤くなってきたそこに、アルタイルの薄く開いた口が近づいてくる。
 舌を伸ばしてねっとりと乳輪を舐め回され、大きく開いた口に吸いつかれた。

「あっ!」

 ジンジンと敏感になった乳首を前歯と下唇の間で甘噛みされ、尖らせた舌先でねぶられれば、強すぎる刺激に身体が痺れ、反射的にビクビクと震えてしまう。

「はっ……ふぅ……ん、は……んっ……」

 憎たらしいやつにいいようにされて、男なのに胸を弄られて息が上がるなんて、屈辱的すぎて目眩がする。
 見れば、テラテラと濡れた乳首がまれ、吸いつかれてチュプチュプと卑猥ひわいな音を立てられる。
 羞恥心しゅうちしんといたたまれなさで、頭がおかしくなりそうだ。

「ふっ、ん……柔くもない、男の乳など吸って、っ……何がいいんだっ……この変態、野郎……あっ、痛っ!」

 俺の言葉がかんさわったのか、歯型が残るくらい強く乳輪を噛まれ、一際強く吸い上げられて口が離される。

 嗜虐心しぎゃくしんにじませた金眼が俺を見下ろし――

「この期に及んで、女を抱くことを考えているとは……まだ、隣国の王女に婿入りできる気でいるのか? 滑稽こっけいで笑えるな」

 ――アルタイルは苛立ちを隠さない低い声で呟き、嘲笑った。
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