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第10話
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物心ついた頃には、僕を取り巻く世界は苦痛と不快なものに溢れていた。
王家でただ一人だけ色が違い、光に弱い体質で生まれてきた僕は『欠陥者』と呼ばれ、肉親からですら疎まれ蔑ろにされていたのだ。
誰も僕の面倒を見ようとはしない。顧みることも慮ることもしない。
ただそこにいるだけで、手間のかかる無能な王子として扱われる。
世界は光で眩しすぎて、僕には痛みを伴う苦痛でしかない。
苦痛に喘ぐ僕の姿を見れば、大抵の者が鬱陶しがり避けるか、侮蔑して『欠陥者』と嗤うかのどちらかだった。
色の違う特異な姿を見られることが怖くなって、蔑んで嘲笑してくる人の視線が怖くなって、逃げ込んだ先の庭園ですら強い日差しに苦しめられる。
僕は一生このまま、苦しみながら生きるしかないのかと絶望していた――そんな時、優しい影が僕を包んだ。
人影を見上げた僕は、本当に天使が降りて来たのかと思った。
緩く波打つ黒髪、透き通る白い肌、何より美しいのは宝石の如く光り輝く赤い瞳だった。その瞳が僕を心配そうに見つめている。
キラキラ光り輝くものが苦痛ではなく、美しく温かいものだと感じたのは、これが初めてだった。
その日から、僕の世界は変わっていった。
将来は、家族同然に国と民を慈愛する国母になるのだと夢を語った彼女は、僕のことも家族同然に大切にしてくれた。
家族とは心が温かくなるものなのだと、僕は彼女に教わったのだ。
忙しい時間を縫って彼女は僕に会いに来て、勉強を教えてくれた。
おかげで、僕は『欠陥者』の無能王子ではなく、有能王子になっていった。
称賛されるほどに成長できたのは、彼女が喜んでくれるのが嬉しくて、続けているうちにそうなっただけなのだが。
特段、魔術構築が得意だった僕は、魔術師としての類稀な才能があったようだ。
周囲が僕の才能に気づいて王宮での扱いが激変する一方、彼女への周囲の対応も変わっていった。
王太子の婚約者であった彼女は、兄上の望む通りの『理想の淑女』になろうと、本来の姿を隠してまで尽くすようになっていった。
どんなに服装を地味にして姿形を変えてみても、揺るがない芯のある心や、凛とした立ち振る舞いや姿勢は隠しようがない。
僕の目にはいつも、誰よりも美しく、光り輝いて映っていたのだ。
僕は彼女に憧れていた。彼女のようになりたいと思っていた。
憧憬はしだいに恋慕へと変化していった。
恋心だと気づいたのはいつからだっただろうか。
恋情を自覚したところで、始めから終わっていたのだが。
彼女は王太子である兄上の婚約者で、僕の義理の姉になる人なのだ。
それに、彼女の夢は国母になることなのだから、邪魔はしたくない。
将来、国母となる彼女を支えられる偉大な魔術師になるため、僕は長年の彼女への恋心を押し殺して、魔術技能の発展した先進国へと留学した。
すべては、少しでも彼女の役に立ちたい、その一心だった。
僕は異例の速さで難解な魔術構築を解読し、習得していった。
習得した成果も形にできつつあり、もうすぐ帰国できると、彼女の元へ胸を張って会いに行けると、そう思っていた――そんな矢先、国からの報せを受けて、僕は動転しながら大至急帰国した。
間に合わなかった。僕は間に合わなかったのだ。
僕が向かっている間に、彼女は冤罪で処刑されてしまっていたのだ。
彼女の亡骸を抱きしめ、離れてしまったことを後悔し、僕は絶望した。
心の底から愚かな者達を憎み、愚かな己自身を恨み、国を世界を呪った。
憤怒の衝動のままに国を滅ぼそうかとも思ったが、そうしたところで彼女は生き返らない。
それに、僕が手を下さずとも、この国はいずれ滅ぶ。
僕は彼女を生き返らせる方法を探し続けた。
彼女の死など、僕には受け入れられるはずがないのだから。
◆
王家でただ一人だけ色が違い、光に弱い体質で生まれてきた僕は『欠陥者』と呼ばれ、肉親からですら疎まれ蔑ろにされていたのだ。
誰も僕の面倒を見ようとはしない。顧みることも慮ることもしない。
ただそこにいるだけで、手間のかかる無能な王子として扱われる。
世界は光で眩しすぎて、僕には痛みを伴う苦痛でしかない。
苦痛に喘ぐ僕の姿を見れば、大抵の者が鬱陶しがり避けるか、侮蔑して『欠陥者』と嗤うかのどちらかだった。
色の違う特異な姿を見られることが怖くなって、蔑んで嘲笑してくる人の視線が怖くなって、逃げ込んだ先の庭園ですら強い日差しに苦しめられる。
僕は一生このまま、苦しみながら生きるしかないのかと絶望していた――そんな時、優しい影が僕を包んだ。
人影を見上げた僕は、本当に天使が降りて来たのかと思った。
緩く波打つ黒髪、透き通る白い肌、何より美しいのは宝石の如く光り輝く赤い瞳だった。その瞳が僕を心配そうに見つめている。
キラキラ光り輝くものが苦痛ではなく、美しく温かいものだと感じたのは、これが初めてだった。
その日から、僕の世界は変わっていった。
将来は、家族同然に国と民を慈愛する国母になるのだと夢を語った彼女は、僕のことも家族同然に大切にしてくれた。
家族とは心が温かくなるものなのだと、僕は彼女に教わったのだ。
忙しい時間を縫って彼女は僕に会いに来て、勉強を教えてくれた。
おかげで、僕は『欠陥者』の無能王子ではなく、有能王子になっていった。
称賛されるほどに成長できたのは、彼女が喜んでくれるのが嬉しくて、続けているうちにそうなっただけなのだが。
特段、魔術構築が得意だった僕は、魔術師としての類稀な才能があったようだ。
周囲が僕の才能に気づいて王宮での扱いが激変する一方、彼女への周囲の対応も変わっていった。
王太子の婚約者であった彼女は、兄上の望む通りの『理想の淑女』になろうと、本来の姿を隠してまで尽くすようになっていった。
どんなに服装を地味にして姿形を変えてみても、揺るがない芯のある心や、凛とした立ち振る舞いや姿勢は隠しようがない。
僕の目にはいつも、誰よりも美しく、光り輝いて映っていたのだ。
僕は彼女に憧れていた。彼女のようになりたいと思っていた。
憧憬はしだいに恋慕へと変化していった。
恋心だと気づいたのはいつからだっただろうか。
恋情を自覚したところで、始めから終わっていたのだが。
彼女は王太子である兄上の婚約者で、僕の義理の姉になる人なのだ。
それに、彼女の夢は国母になることなのだから、邪魔はしたくない。
将来、国母となる彼女を支えられる偉大な魔術師になるため、僕は長年の彼女への恋心を押し殺して、魔術技能の発展した先進国へと留学した。
すべては、少しでも彼女の役に立ちたい、その一心だった。
僕は異例の速さで難解な魔術構築を解読し、習得していった。
習得した成果も形にできつつあり、もうすぐ帰国できると、彼女の元へ胸を張って会いに行けると、そう思っていた――そんな矢先、国からの報せを受けて、僕は動転しながら大至急帰国した。
間に合わなかった。僕は間に合わなかったのだ。
僕が向かっている間に、彼女は冤罪で処刑されてしまっていたのだ。
彼女の亡骸を抱きしめ、離れてしまったことを後悔し、僕は絶望した。
心の底から愚かな者達を憎み、愚かな己自身を恨み、国を世界を呪った。
憤怒の衝動のままに国を滅ぼそうかとも思ったが、そうしたところで彼女は生き返らない。
それに、僕が手を下さずとも、この国はいずれ滅ぶ。
僕は彼女を生き返らせる方法を探し続けた。
彼女の死など、僕には受け入れられるはずがないのだから。
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