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本編
46.チョコチップ・アイス
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そして――
【パクリ】
――キラキラと美味しそうな右腕を、僕は口に含んでしまった。
(!?!?!?)
僕は自分がしてしまっている事に、その味に、激震が走り驚倒する。
(うわあぁぁぁぁぁぁ!! 美味しいぃぃぃぃぃぃ!?)
そこへ、湯を持って戻って来たチョコミントが現れる。
「新しい湯、持って来た」
「ぶひぃっ!?」
背後からの声に驚いて、僕はぼよんっと飛び跳ねて父親から離れた。
チョコミントは見ていなかったのか、挙動不審な僕を見て訝しげな顔をする。
「なんだ? どうした?」
「……え、あ……いや、えぇ……うわぁ……あうぅ……」
何をどう言ったらいいのか分からなくて僕が慌てふためいていると、奥の方から呻く声が聞こえてくる。
「……うぅ……う……ん……」
「……父さん? ……」
僕とチョコミントは声のした方へ、父親の方へと目を向ける。
父親の姿を見て、はたと気が付いた。
(……あれ、さっきのキラキラが無い? あれれ、幻覚でも見てた?? 白昼夢でも見てたのかな、僕??? ……)
よくよく見ると、父親の右腕はキラキラなどしていない。
なんともなっていなく、無事にそこにあった。
そして、昏々と眠り続けていた父親は、重く閉ざしていた瞼をゆっくりと開いた。
「……んぅ…………あ……あ、れ? ……」
父親はふらふらとしながら身体を起こし、腕を動かしたり、手を開閉させたりと、身体を動かして何かを確かめている。
「……身体が、楽だ……動ける? …………腕が、手が……動く!? ……」
「……父さん! ……」
チョコミントが呼びかけると、父親は息子の方に振り向き微笑んだ。
そして、息子に向けて両腕を広げて見せる。
「あぁ、チョコミント……おいで……」
「……父さん! ……父さんっ! ……」
チョコミントは父親の腕の中に飛び込んで抱き着いた。
「……お、俺……父さんが、もう目を覚まさないんじゃないかって……ずっと、怖かったんだ…………母さん、みたいに……このまま、死んじゃうんじゃ、ないかって……ずっと、ずっと、怖くてっ…………良かった……良かったぁ……」
「……うん、うん……一人で大変な思いをさせてしまって、すまなかったな……よく頑張ってくれたな……ありがとうな……」
親子は涙を流しながら、感動の抱擁を交わし合っている。
感動的なその光景を見て、僕も思わず涙ぐんで鼻を啜ってしまう。
「…………ぐすん」
鼻を啜る音に父親が気付いて、僕を見てきょとんとした顔をする。
「…………どちら様かな?」
「あ……どうも、お邪魔してます」
「……えっと、ラズベリーだよ。飯作るのが、すごい美味いんだ! 父さんの飯も作ってくれたんだ!!」
チョコミントが泣き濡れていた目を拭いつつ、僕を一生懸命に紹介してくれる。
(親子の感動の場面に水差しちゃった……なんか、空気が読めない子みたいになっちゃって、ごめんね……ぐすん)
父親は人懐っこそうな優しい笑顔で僕に微笑みかけてくれる。
その優しい笑顔が、チョコミントの笑顔に似ているなと思った。
「そうか、チョコミントの友達か。ありがとうな」
僕は『友達』と言う言葉を聞いて、今世で友達と言えるような存在がいなかっただけに、何だか面映ゆい気持ちになる。
「いや、それほどでも……あの、ご飯温め直すね。皆で食べよう」
うどんを温め直して、皆で仲良く食卓を囲む。
湯気を立てるうどんを見て、父親は興味深げに僕に質問する。
「これは見た事のない料理だな、異国の料理なのかな?」
「白い麺はうどんっていうんですよ。消化に良い食べ物なので、身体に優しいですよ。無理しないで食べれるだけ食べてくださいね」
「少し味見したけど、すごく美味かった!」
「ほうほう、それは楽しみだな」
「それじゃ、温かいうちに食べよう……いただきます」
僕が手を合わせて『いただきます』をすると、親子がきょとんとした顔で僕を見ている。
今世は誰かと一緒に食事をする事がなかったので、浮かれてつい前世の習慣が出てしまった。
この王国には『いただきます』の文化が無いので、異国の文化だと思ったのだろう、親子は顔を見合わせてから僕の真似をして見せる。
「「いただきます」」
皆で仲良く温かいうどんを頬張り食べ始める。
(うんうん、我ながら上出来♪ つるつるもちもちでうまうま~♪)
僕が自画自賛でうどんを啜り舌鼓を打っていると、親子が硬直する。
「「……っ……」」
「?」
固まって動かなくなってしまった親子を不思議に思い、目を向けた僕は吃驚する。
親子は口元を押さえて苦しげな表情を浮かべ、呻き声を上げて涙を流していたのだから。
「……ぅぐっ……ふぐっ……うぅ……」
「……ふ……うぅ……ぅあぁ……」
「ど、ど、ど、どうしたの!?」
何故そんなに苦しそうにしながら泣いているのか、僕には分からない。
(何か食べて不味い物でも入っていただろうか? 否、そんな物は入れてない筈だし、壊滅的に口に合わなかったんだろうか? まさかここで謎の強制力の『飯マズ属性』が発動してしまったのか!?)
僕がパニックになっておろおろしていると、親子が呟く。
「……こ、こんな……こんなに、美味いもの……食べた事ない……」
「……う、美味い! ……美味すぎる!! ……」
「お、お、お、美味しかったの!?」
動転していた僕は一気に脱力した。
「な、なんだ、良かった……ビックリした……もう、驚かさないでよ……」
ホッと一安心して僕が笑うと、親子は暗黒微笑に驚いてビクッとして慌てて謝る。
「驚かせてすまんな!」
「ビックリさせてごめんな!」
「え、あ、うん…………いや、怒ってないよ?」
父親は涙ぐみ、しみじみと噛みしめるようにして言う。
「……本当に美味いんだ。もう、だいぶ長い間、味も何も感じなくなっていたのに、これはとても美味いと感じる。とても温かくて、身体に染み込むようで、優しい味がする。癒されていくようだ……」
「確かに、そんな感じがする。身体がポカポカしてあったかい、痛かったのも吹き飛ぶくらい、美味い……」
「そっか、良かった。沢山作ったから、いっぱい食べてね」
親子は「美味い、美味い」と感涙しながら、頬張りどんどん食べてくれる。
(歓んでもらえて、すごく嬉しい……皆で一緒に食べるの、やっぱり楽しいな……)
「……うん、僕も美味しい……」
初めての誰かと一緒の食卓は嬉しくて楽しくて、僕もちょっと涙ぐんでしまう。
作り置き用に沢山作った筈のうどんまで親子は平らげてしまって、その見事な食べっぷりに僕は驚いたのだった。
◆
『水と癒しの精霊よ、我が魔力を以てこの者の傷を癒せ。【治癒回復】』
気休め程度だけどと回復魔法をかけていて、僕は親子の顔色が随分良くなっている事に気が付く。
チョコミントは薄っすらとあった青痣や擦傷の跡が見当たらなくなっている。
僕の回復魔法じゃそんなに効果は無い筈だし、あれだけ沢山食べられるだけの体力があると回復も早いのだろうかと、子供の回復力ってすごいなと感心していた。
父親の顔色も血色がよくなり、黒ずんで窪み落ちていた目元は張りを取り戻している。
白っぽいクリーム色の髪に、潤い光りを宿した目はチョコミントと同じ焦げ茶色だった。
鼻の辺りに散ったソバカスもチョコミントとお揃いのようだ。
「言い遅れたが、チョコミントの父のチョコチップだ。よろしくな、ラズベリー」
そう言って白い歯を見せて笑う優しい笑顔は、やっぱりチョコミントに似ている。
名前まで似ていて、本当によく似た者親子なんだと思い、僕は微笑ましくなった。
「ふふふ。うん、よろしくね」
親子の話を聞くと、元々は農夫なのだと言う。
度重なる天災で不作が続き、資金が底をついて仕方なくできた借金が徐々に膨れていった。
流行り病で母親まで倒れてしまい、その薬代の為にと借金は更に膨れ上がり、とうとう土地を売り払う羽目になってしまった。
農夫としてやっていけなくなり、結局は母親も病が治らないまま亡くなってしまった。
土魔法を得意としていたチョコチップは、仕方なく鉱夫として働くようになったのだ。
そこで、土地を買い戻す資金の為にと危険だと分かっていながら、高額で取引されていた『魔鉱石』に手を出してしまった。
「魔鉱石?」
「魔力を含む不思議な鉱石だ」
「高位貴族が高額で買い求めているんだ」
魔鉱石はまだ解明されていない点が多い。
物によっては人体への悪影響を与える危険な物も多々ある。
だが、何故か高額で取引される物でもあった。
僕は魔鉱石の話を聞いて不思議に思った。
(触るだけで身体が蝕まれるような危険な物、そんな怖い物集めてどうするんだろう? 高額で取引されるなんて、何か利用価値があるのかな?)
チョコチップは魔鉱石に触れ過ぎてしまったのだ。
魔鉱石の悪影響で徐々に身体が蝕まれていき、腕が動かなくなり、手が動かなくなり、魔力循環もできなくなって、魔法も使えなくなってしまった。
『魔法の使えない者は人にあらず』の出来損ないに、落ちこぼれに、成り下がってしまったのだ。
こうして、親子は貧民に落ちてしまったのだった。
「資金を手に入れて土地を買い戻せさえすれば、元の生活を取り戻せるとやっきになってしまったんだ。いくら金になるからといって、魔鉱石なんかに手を出すものじゃなかった…………チョコミントが支えてくれたおかげで、こうして回復できたのは正に奇跡だ。もうチョコミントを一人残すような事はしない。やっぱり地道が一番! また心機一転してやっていこうな!!」
チョコチップが己に言い聞かせるように、チョコミントを励ますようにそう言う。
しかし、チョコミントは魔鉱石の話を聞いて考え込み、ぼそりと呟く。
「魔鉱石が手に入れば、金になるのか……魔鉱石があれば、また……」
「チョコミント、駄目だぞ! 魔鉱石には絶対に手を出すな、いいな!!」
チョコチップは厳しく息子に言い聞かせる。優しい父親が怒るとちょっと怖い。
チョコミントは頷くようにして俯いたが、僕にはやっぱり何か考え込んでいるように見える。
「………………」
僕がじっとチョコミントを見つめていると、視線に気付いたのか顔を上げて言う。
「そう言えば、もうだいぶ暗くなってきたけど大丈夫か? 家まで送る」
「え、あ、うん」
送られては身元がバレてしまうと焦った僕は、早々に帰る事にした。
それでも、なんだかんだ言ってチョコミントは中央広場までは送り届けてくれた。
「ここまででいいよ。もう一人で帰れるから」
「そうか、じゃあ…………ありがとう……本当に、ありがとう……」
チョコミントは僕にお礼を言って、悲しそうな顔をして俯いてしまう。
その目は潤んでいて、涙が零れないように堪えているようにも見えた。
貧民街の子供と裕福な家の子供、本来ならば生きる世界が違うのだろう。
家までは送らせない事もあり、もう会う事も無いと思ったのかもしれない。
「それじゃ、また明日ね」
僕がそう言うと、チョコミントは顔を上げて驚いた顔をしていた。
それから、嬉しそうに目を細めて白い歯を覗かせ、笑った顔を見せてくれる。
「……ああ、また明日……」
(うんうん、やっぱりチョコミントは爽やかに笑った顔が一番似合う、可愛い)
お互いに手を振って別れて、僕は城へと帰って行った。
◆
【パクリ】
――キラキラと美味しそうな右腕を、僕は口に含んでしまった。
(!?!?!?)
僕は自分がしてしまっている事に、その味に、激震が走り驚倒する。
(うわあぁぁぁぁぁぁ!! 美味しいぃぃぃぃぃぃ!?)
そこへ、湯を持って戻って来たチョコミントが現れる。
「新しい湯、持って来た」
「ぶひぃっ!?」
背後からの声に驚いて、僕はぼよんっと飛び跳ねて父親から離れた。
チョコミントは見ていなかったのか、挙動不審な僕を見て訝しげな顔をする。
「なんだ? どうした?」
「……え、あ……いや、えぇ……うわぁ……あうぅ……」
何をどう言ったらいいのか分からなくて僕が慌てふためいていると、奥の方から呻く声が聞こえてくる。
「……うぅ……う……ん……」
「……父さん? ……」
僕とチョコミントは声のした方へ、父親の方へと目を向ける。
父親の姿を見て、はたと気が付いた。
(……あれ、さっきのキラキラが無い? あれれ、幻覚でも見てた?? 白昼夢でも見てたのかな、僕??? ……)
よくよく見ると、父親の右腕はキラキラなどしていない。
なんともなっていなく、無事にそこにあった。
そして、昏々と眠り続けていた父親は、重く閉ざしていた瞼をゆっくりと開いた。
「……んぅ…………あ……あ、れ? ……」
父親はふらふらとしながら身体を起こし、腕を動かしたり、手を開閉させたりと、身体を動かして何かを確かめている。
「……身体が、楽だ……動ける? …………腕が、手が……動く!? ……」
「……父さん! ……」
チョコミントが呼びかけると、父親は息子の方に振り向き微笑んだ。
そして、息子に向けて両腕を広げて見せる。
「あぁ、チョコミント……おいで……」
「……父さん! ……父さんっ! ……」
チョコミントは父親の腕の中に飛び込んで抱き着いた。
「……お、俺……父さんが、もう目を覚まさないんじゃないかって……ずっと、怖かったんだ…………母さん、みたいに……このまま、死んじゃうんじゃ、ないかって……ずっと、ずっと、怖くてっ…………良かった……良かったぁ……」
「……うん、うん……一人で大変な思いをさせてしまって、すまなかったな……よく頑張ってくれたな……ありがとうな……」
親子は涙を流しながら、感動の抱擁を交わし合っている。
感動的なその光景を見て、僕も思わず涙ぐんで鼻を啜ってしまう。
「…………ぐすん」
鼻を啜る音に父親が気付いて、僕を見てきょとんとした顔をする。
「…………どちら様かな?」
「あ……どうも、お邪魔してます」
「……えっと、ラズベリーだよ。飯作るのが、すごい美味いんだ! 父さんの飯も作ってくれたんだ!!」
チョコミントが泣き濡れていた目を拭いつつ、僕を一生懸命に紹介してくれる。
(親子の感動の場面に水差しちゃった……なんか、空気が読めない子みたいになっちゃって、ごめんね……ぐすん)
父親は人懐っこそうな優しい笑顔で僕に微笑みかけてくれる。
その優しい笑顔が、チョコミントの笑顔に似ているなと思った。
「そうか、チョコミントの友達か。ありがとうな」
僕は『友達』と言う言葉を聞いて、今世で友達と言えるような存在がいなかっただけに、何だか面映ゆい気持ちになる。
「いや、それほどでも……あの、ご飯温め直すね。皆で食べよう」
うどんを温め直して、皆で仲良く食卓を囲む。
湯気を立てるうどんを見て、父親は興味深げに僕に質問する。
「これは見た事のない料理だな、異国の料理なのかな?」
「白い麺はうどんっていうんですよ。消化に良い食べ物なので、身体に優しいですよ。無理しないで食べれるだけ食べてくださいね」
「少し味見したけど、すごく美味かった!」
「ほうほう、それは楽しみだな」
「それじゃ、温かいうちに食べよう……いただきます」
僕が手を合わせて『いただきます』をすると、親子がきょとんとした顔で僕を見ている。
今世は誰かと一緒に食事をする事がなかったので、浮かれてつい前世の習慣が出てしまった。
この王国には『いただきます』の文化が無いので、異国の文化だと思ったのだろう、親子は顔を見合わせてから僕の真似をして見せる。
「「いただきます」」
皆で仲良く温かいうどんを頬張り食べ始める。
(うんうん、我ながら上出来♪ つるつるもちもちでうまうま~♪)
僕が自画自賛でうどんを啜り舌鼓を打っていると、親子が硬直する。
「「……っ……」」
「?」
固まって動かなくなってしまった親子を不思議に思い、目を向けた僕は吃驚する。
親子は口元を押さえて苦しげな表情を浮かべ、呻き声を上げて涙を流していたのだから。
「……ぅぐっ……ふぐっ……うぅ……」
「……ふ……うぅ……ぅあぁ……」
「ど、ど、ど、どうしたの!?」
何故そんなに苦しそうにしながら泣いているのか、僕には分からない。
(何か食べて不味い物でも入っていただろうか? 否、そんな物は入れてない筈だし、壊滅的に口に合わなかったんだろうか? まさかここで謎の強制力の『飯マズ属性』が発動してしまったのか!?)
僕がパニックになっておろおろしていると、親子が呟く。
「……こ、こんな……こんなに、美味いもの……食べた事ない……」
「……う、美味い! ……美味すぎる!! ……」
「お、お、お、美味しかったの!?」
動転していた僕は一気に脱力した。
「な、なんだ、良かった……ビックリした……もう、驚かさないでよ……」
ホッと一安心して僕が笑うと、親子は暗黒微笑に驚いてビクッとして慌てて謝る。
「驚かせてすまんな!」
「ビックリさせてごめんな!」
「え、あ、うん…………いや、怒ってないよ?」
父親は涙ぐみ、しみじみと噛みしめるようにして言う。
「……本当に美味いんだ。もう、だいぶ長い間、味も何も感じなくなっていたのに、これはとても美味いと感じる。とても温かくて、身体に染み込むようで、優しい味がする。癒されていくようだ……」
「確かに、そんな感じがする。身体がポカポカしてあったかい、痛かったのも吹き飛ぶくらい、美味い……」
「そっか、良かった。沢山作ったから、いっぱい食べてね」
親子は「美味い、美味い」と感涙しながら、頬張りどんどん食べてくれる。
(歓んでもらえて、すごく嬉しい……皆で一緒に食べるの、やっぱり楽しいな……)
「……うん、僕も美味しい……」
初めての誰かと一緒の食卓は嬉しくて楽しくて、僕もちょっと涙ぐんでしまう。
作り置き用に沢山作った筈のうどんまで親子は平らげてしまって、その見事な食べっぷりに僕は驚いたのだった。
◆
『水と癒しの精霊よ、我が魔力を以てこの者の傷を癒せ。【治癒回復】』
気休め程度だけどと回復魔法をかけていて、僕は親子の顔色が随分良くなっている事に気が付く。
チョコミントは薄っすらとあった青痣や擦傷の跡が見当たらなくなっている。
僕の回復魔法じゃそんなに効果は無い筈だし、あれだけ沢山食べられるだけの体力があると回復も早いのだろうかと、子供の回復力ってすごいなと感心していた。
父親の顔色も血色がよくなり、黒ずんで窪み落ちていた目元は張りを取り戻している。
白っぽいクリーム色の髪に、潤い光りを宿した目はチョコミントと同じ焦げ茶色だった。
鼻の辺りに散ったソバカスもチョコミントとお揃いのようだ。
「言い遅れたが、チョコミントの父のチョコチップだ。よろしくな、ラズベリー」
そう言って白い歯を見せて笑う優しい笑顔は、やっぱりチョコミントに似ている。
名前まで似ていて、本当によく似た者親子なんだと思い、僕は微笑ましくなった。
「ふふふ。うん、よろしくね」
親子の話を聞くと、元々は農夫なのだと言う。
度重なる天災で不作が続き、資金が底をついて仕方なくできた借金が徐々に膨れていった。
流行り病で母親まで倒れてしまい、その薬代の為にと借金は更に膨れ上がり、とうとう土地を売り払う羽目になってしまった。
農夫としてやっていけなくなり、結局は母親も病が治らないまま亡くなってしまった。
土魔法を得意としていたチョコチップは、仕方なく鉱夫として働くようになったのだ。
そこで、土地を買い戻す資金の為にと危険だと分かっていながら、高額で取引されていた『魔鉱石』に手を出してしまった。
「魔鉱石?」
「魔力を含む不思議な鉱石だ」
「高位貴族が高額で買い求めているんだ」
魔鉱石はまだ解明されていない点が多い。
物によっては人体への悪影響を与える危険な物も多々ある。
だが、何故か高額で取引される物でもあった。
僕は魔鉱石の話を聞いて不思議に思った。
(触るだけで身体が蝕まれるような危険な物、そんな怖い物集めてどうするんだろう? 高額で取引されるなんて、何か利用価値があるのかな?)
チョコチップは魔鉱石に触れ過ぎてしまったのだ。
魔鉱石の悪影響で徐々に身体が蝕まれていき、腕が動かなくなり、手が動かなくなり、魔力循環もできなくなって、魔法も使えなくなってしまった。
『魔法の使えない者は人にあらず』の出来損ないに、落ちこぼれに、成り下がってしまったのだ。
こうして、親子は貧民に落ちてしまったのだった。
「資金を手に入れて土地を買い戻せさえすれば、元の生活を取り戻せるとやっきになってしまったんだ。いくら金になるからといって、魔鉱石なんかに手を出すものじゃなかった…………チョコミントが支えてくれたおかげで、こうして回復できたのは正に奇跡だ。もうチョコミントを一人残すような事はしない。やっぱり地道が一番! また心機一転してやっていこうな!!」
チョコチップが己に言い聞かせるように、チョコミントを励ますようにそう言う。
しかし、チョコミントは魔鉱石の話を聞いて考え込み、ぼそりと呟く。
「魔鉱石が手に入れば、金になるのか……魔鉱石があれば、また……」
「チョコミント、駄目だぞ! 魔鉱石には絶対に手を出すな、いいな!!」
チョコチップは厳しく息子に言い聞かせる。優しい父親が怒るとちょっと怖い。
チョコミントは頷くようにして俯いたが、僕にはやっぱり何か考え込んでいるように見える。
「………………」
僕がじっとチョコミントを見つめていると、視線に気付いたのか顔を上げて言う。
「そう言えば、もうだいぶ暗くなってきたけど大丈夫か? 家まで送る」
「え、あ、うん」
送られては身元がバレてしまうと焦った僕は、早々に帰る事にした。
それでも、なんだかんだ言ってチョコミントは中央広場までは送り届けてくれた。
「ここまででいいよ。もう一人で帰れるから」
「そうか、じゃあ…………ありがとう……本当に、ありがとう……」
チョコミントは僕にお礼を言って、悲しそうな顔をして俯いてしまう。
その目は潤んでいて、涙が零れないように堪えているようにも見えた。
貧民街の子供と裕福な家の子供、本来ならば生きる世界が違うのだろう。
家までは送らせない事もあり、もう会う事も無いと思ったのかもしれない。
「それじゃ、また明日ね」
僕がそう言うと、チョコミントは顔を上げて驚いた顔をしていた。
それから、嬉しそうに目を細めて白い歯を覗かせ、笑った顔を見せてくれる。
「……ああ、また明日……」
(うんうん、やっぱりチョコミントは爽やかに笑った顔が一番似合う、可愛い)
お互いに手を振って別れて、僕は城へと帰って行った。
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