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本編
104.暗黒色を持つ者と呪いの魔鉱石
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黒狼王子が扉の中に入ると、他者の侵入を拒むように扉が独りでに閉ざされる。
同時に側壁に埋めこまれた照明がぼんやりと灯り、明かりが点々と螺旋階段の底へと誘い導いていく。
薄暗く底冷えする石造りの螺旋階段を下へ下へと降りていき、黒狼王子は地下深くへと潜っていった。
最下層の奥には、暗闇に紛れる漆黒の大きな扉が聳え立っていた。
訪れる者を戒める為か、扉には荒れ狂う悍ましい獣の姿が刻印され、地獄の門を思わせる恐ろしい造形をしていた。
『暗黒色を持つ者』だけが開く事のできる扉――否、扉に触れ生き長らえる事ができる唯一の存在が『暗黒色を持つ者』なのだ。
獣人としての能力の高い王族であったとしても、他の者であったならここまで深く潜って来る事はできない。
深ければ深い程、呪いの魔鉱石から発せられる瘴気は濃くなる。
大概の者は闇に呪われれば、身体が蝕まれ、精神が崩壊し、死に至ってしまう。
闇に呪われても、かろうじて耐える事ができるのが、暗黒色を持つ者だけなのだ。
だがそれも、悪魔に狂わされるまでの一時の間でしかないのではあるが。
黒狼王子が扉に触れると、何者をも拒むかに思えた堅牢な扉がおのずと口を開く。
扉が開かれた途端、眩しい光が黒狼王子を包み込み、やけに明るく広大な空間へと景色が映り変わる。
そこは、昼夜問わず真っ白い光に包まれた空間。
暗黒の悪魔を封印した黒狼石が厳重に保管される地下霊堂。
黒狼王子が歩み進む先には、黒々とした瘴気を放つ巨大な魔鉱石が鎮座していた。
幾重にも強力な光の封印が施されているというのに、それでも尚も黒狼石からは禍々しい暗黒の闇が漏れ続けている。
『――おかえり、暗黒の愛し子――』
どこからともなく聞こえる独特な声が黒狼王子に囁きかけた。
すると、黒狼王子の身体に纏わり付いていた影が這い出てきて、黒狼石から漏れ出る闇と混ざり合い一つになっていく。
不定形の闇はうねうねと人の形を模っていき、真っ黒な人影を作る。
人影の形は定まらず、年齢も性別も様々な姿形に絶えず変形していく。
無邪気な幼子のように、妖艶な悪女のように、狡猾な老獪のように、獰猛な野獣のように、人影は笑う。
『――きゃははは――ふふふふ――くくくく――かかかか――』
人影は辺りを漂う闇を渡り歩き、黒狼王子の周りを忙しなく動き回る。
『――また沢山吞み込んできたね――ああ、堪らない――なんて綺麗な暗黒色だろう――恐怖に絶望、苦痛に後悔、憎悪に狂乱――全部何もかもがぐちゃぐちゃに混ざり合い溶け合って一つになって――はあ、堪らない――最高に美しい暗黒色――』
恍惚として歓喜する人影は黒狼王子に擦り寄りしなだれかかる。
『――さすがは暗黒の愛し子――もっともっと沢山吞み込んでしまおう――敵対国の勢力だけとは言わず――君を恐れ遠ざける者達も全て――君に仇なす者達は全て一様に――この世界の全てを暗黒色にして、君が世界の全てになるんだ――』
人影の言葉は決して高圧的ではない。その筈なのに、じわりじわりと浸み込んで洗脳されていきそうな、そんな不気味な響きがあった。
黒狼王子は動き回る人影には構わず、真っ直ぐに黒狼石を見据えて告げる。
「他の者からどう思われようが、俺の真意には関係ない。お前達の言うこの世界の色にも興味はない」
揺るがぬ金色の眼差しが不動の決意を示し、黒狼王子は暗黒の悪魔に命じる。
「だが、この長きに渡る紛争を終結させる為には絶対的な脅威が必要だ。暗黒の力が不可欠なんだ。故に、お前の力を全て俺に寄こせ」
黒狼王子の言葉を聞いて人影は押し黙り、辺りがしんと静まり返った。
一瞬の静寂の後、ぞわぞわぞわと闇が騒めきだし、人影が暗黒微笑を浮かべて笑いだす。
『――くくく――あはは――うふふ――ひひひ――ああ、素晴らしいな――そうだ、暗黒の力こそが世界を統べる力なんだ――やはり、暗黒の愛し子は僕をよく理解し、僕を受け入れてくれる――愛しい、愛しい――可愛い暗黒の愛し子――』
闇と人影は狂喜乱舞しながら黒狼王子の周りを飛び回り騒ぎ立てる。
『――ああ、でも可哀想に――暗黒の力を駆使する為、僕の分身を宿しているだけでも、毒に蝕まれ命が削られ続けているというのに――それでも、君は尚も王国の為、人々の為に己が身を投げうつんだね――なんて尊い暗黒色だろうか――』
人影は憐れみ慈しみつつも、黒狼王子の自己犠牲を賛美する。
『――はあ、愛おしく狂おしい――気高く慈愛に溢れた君が、孤独で可哀想な君が、愛おしくて堪らない――そんな君の苦悩と悲哀が、狂おしくて堪らない――君の身も心も魂でさえも、全てが暗黒色に染まるその時が、待ち遠しくて堪らないよ――』
辺りを飛び回り漂っていた闇がまた人の形を模っていき、黒狼王子の周囲に複数の人影を作る。
真っ黒い人影は、かつての『暗黒色を持つ者』の成れの果ての姿だ。
年齢も性別も様々な人影達は、交互にまたは同時に黒狼王子に語りかける。
『――君がどんなに苦悩を耐え抜き、功績を上げたとしても――それでも、君は僕等と同じ恐怖と憎悪の対象に成り果てる――やがては、僕等と同じくその命を絶たれてしまうんだ――』
『――どんなに尽くしても、どんなに願っても、最後に残ったのは暗黒色の闇だけだった――暗黒色だけが受け止めてくれる――理解し、慈しみ、愛してくれる――』
『――だから、全てを暗黒色にしよう――苦しい事も、悲しい事も、辛い事も、全て暗黒色が包み込んでくれる――暗黒色だけが救いを与えてくれるんだから――』
『――何もかも暗黒色にしてしまおう――そうすれば、僕等は一つになれる――恐れも寂しさも、怒りも虚しさも、生も死も――境界無く、全てが一つになれるんだ――』
『『『――さあ、この世界を暗黒色にしよう――』』』
暗黒色を尊崇する暗黒の亡霊と称される人影は、狂い闇に落ちて暗黒の悪魔と同化してしまった歴代の『暗黒色を持つ者』達だった。
人影達が語り聞かせる中、黒狼王子は黒狼石に向かい言い放つ。
「亡者の御託はいい。暗黒の力の使い方は理解した。早く全ての力を俺に寄こせ」
黒狼王子の言葉を聞いて人影達は不気味に笑い、形を崩し溶けて混ざり合い一つの闇の塊に集束していく。
『――ギャギャギャ――アハハハハ――カッカッカッ――クフフフフ――』
闇の塊は一人の形を模って、黒狼王子の前に立ち、甘く優しい声で囁きかける。
『――もちろん、君が望むままに力を与えてあげる――君の望みは何だって叶えてあげる――君が真に望むものだって――』
黒一色であったはずの人影が色付いていき、黒狼王子はその姿に目を見開く。
『――僕はダークが大好きだよ――』
その姿は、その声は、その言葉は、黒狼王子の記憶する白豚王子そのものだった。
目の前にいる白豚王子は、黒狼王子の記憶にはない表情を浮かべ、可憐に微笑んで見せる。
『――僕はダークを一人になんてしないよ――これからは、ずっとずっと、ダークと一緒にいるんだ――もう、ダークの側を離れたりしないからね――君が側に居てくれたら、僕は他に何も要らない――大好きだよ、ダーク――』
突然、現れた白豚王子の姿を目にして黒狼王子は絶句した。
見た事のない表情に、望んでしまっていた言葉に、黒狼王子は息を呑む――
「…………ふ、ははは」
――白豚王子に成りすました悪魔の言葉を聞いて、黒狼王子は笑った。
同時に側壁に埋めこまれた照明がぼんやりと灯り、明かりが点々と螺旋階段の底へと誘い導いていく。
薄暗く底冷えする石造りの螺旋階段を下へ下へと降りていき、黒狼王子は地下深くへと潜っていった。
最下層の奥には、暗闇に紛れる漆黒の大きな扉が聳え立っていた。
訪れる者を戒める為か、扉には荒れ狂う悍ましい獣の姿が刻印され、地獄の門を思わせる恐ろしい造形をしていた。
『暗黒色を持つ者』だけが開く事のできる扉――否、扉に触れ生き長らえる事ができる唯一の存在が『暗黒色を持つ者』なのだ。
獣人としての能力の高い王族であったとしても、他の者であったならここまで深く潜って来る事はできない。
深ければ深い程、呪いの魔鉱石から発せられる瘴気は濃くなる。
大概の者は闇に呪われれば、身体が蝕まれ、精神が崩壊し、死に至ってしまう。
闇に呪われても、かろうじて耐える事ができるのが、暗黒色を持つ者だけなのだ。
だがそれも、悪魔に狂わされるまでの一時の間でしかないのではあるが。
黒狼王子が扉に触れると、何者をも拒むかに思えた堅牢な扉がおのずと口を開く。
扉が開かれた途端、眩しい光が黒狼王子を包み込み、やけに明るく広大な空間へと景色が映り変わる。
そこは、昼夜問わず真っ白い光に包まれた空間。
暗黒の悪魔を封印した黒狼石が厳重に保管される地下霊堂。
黒狼王子が歩み進む先には、黒々とした瘴気を放つ巨大な魔鉱石が鎮座していた。
幾重にも強力な光の封印が施されているというのに、それでも尚も黒狼石からは禍々しい暗黒の闇が漏れ続けている。
『――おかえり、暗黒の愛し子――』
どこからともなく聞こえる独特な声が黒狼王子に囁きかけた。
すると、黒狼王子の身体に纏わり付いていた影が這い出てきて、黒狼石から漏れ出る闇と混ざり合い一つになっていく。
不定形の闇はうねうねと人の形を模っていき、真っ黒な人影を作る。
人影の形は定まらず、年齢も性別も様々な姿形に絶えず変形していく。
無邪気な幼子のように、妖艶な悪女のように、狡猾な老獪のように、獰猛な野獣のように、人影は笑う。
『――きゃははは――ふふふふ――くくくく――かかかか――』
人影は辺りを漂う闇を渡り歩き、黒狼王子の周りを忙しなく動き回る。
『――また沢山吞み込んできたね――ああ、堪らない――なんて綺麗な暗黒色だろう――恐怖に絶望、苦痛に後悔、憎悪に狂乱――全部何もかもがぐちゃぐちゃに混ざり合い溶け合って一つになって――はあ、堪らない――最高に美しい暗黒色――』
恍惚として歓喜する人影は黒狼王子に擦り寄りしなだれかかる。
『――さすがは暗黒の愛し子――もっともっと沢山吞み込んでしまおう――敵対国の勢力だけとは言わず――君を恐れ遠ざける者達も全て――君に仇なす者達は全て一様に――この世界の全てを暗黒色にして、君が世界の全てになるんだ――』
人影の言葉は決して高圧的ではない。その筈なのに、じわりじわりと浸み込んで洗脳されていきそうな、そんな不気味な響きがあった。
黒狼王子は動き回る人影には構わず、真っ直ぐに黒狼石を見据えて告げる。
「他の者からどう思われようが、俺の真意には関係ない。お前達の言うこの世界の色にも興味はない」
揺るがぬ金色の眼差しが不動の決意を示し、黒狼王子は暗黒の悪魔に命じる。
「だが、この長きに渡る紛争を終結させる為には絶対的な脅威が必要だ。暗黒の力が不可欠なんだ。故に、お前の力を全て俺に寄こせ」
黒狼王子の言葉を聞いて人影は押し黙り、辺りがしんと静まり返った。
一瞬の静寂の後、ぞわぞわぞわと闇が騒めきだし、人影が暗黒微笑を浮かべて笑いだす。
『――くくく――あはは――うふふ――ひひひ――ああ、素晴らしいな――そうだ、暗黒の力こそが世界を統べる力なんだ――やはり、暗黒の愛し子は僕をよく理解し、僕を受け入れてくれる――愛しい、愛しい――可愛い暗黒の愛し子――』
闇と人影は狂喜乱舞しながら黒狼王子の周りを飛び回り騒ぎ立てる。
『――ああ、でも可哀想に――暗黒の力を駆使する為、僕の分身を宿しているだけでも、毒に蝕まれ命が削られ続けているというのに――それでも、君は尚も王国の為、人々の為に己が身を投げうつんだね――なんて尊い暗黒色だろうか――』
人影は憐れみ慈しみつつも、黒狼王子の自己犠牲を賛美する。
『――はあ、愛おしく狂おしい――気高く慈愛に溢れた君が、孤独で可哀想な君が、愛おしくて堪らない――そんな君の苦悩と悲哀が、狂おしくて堪らない――君の身も心も魂でさえも、全てが暗黒色に染まるその時が、待ち遠しくて堪らないよ――』
辺りを飛び回り漂っていた闇がまた人の形を模っていき、黒狼王子の周囲に複数の人影を作る。
真っ黒い人影は、かつての『暗黒色を持つ者』の成れの果ての姿だ。
年齢も性別も様々な人影達は、交互にまたは同時に黒狼王子に語りかける。
『――君がどんなに苦悩を耐え抜き、功績を上げたとしても――それでも、君は僕等と同じ恐怖と憎悪の対象に成り果てる――やがては、僕等と同じくその命を絶たれてしまうんだ――』
『――どんなに尽くしても、どんなに願っても、最後に残ったのは暗黒色の闇だけだった――暗黒色だけが受け止めてくれる――理解し、慈しみ、愛してくれる――』
『――だから、全てを暗黒色にしよう――苦しい事も、悲しい事も、辛い事も、全て暗黒色が包み込んでくれる――暗黒色だけが救いを与えてくれるんだから――』
『――何もかも暗黒色にしてしまおう――そうすれば、僕等は一つになれる――恐れも寂しさも、怒りも虚しさも、生も死も――境界無く、全てが一つになれるんだ――』
『『『――さあ、この世界を暗黒色にしよう――』』』
暗黒色を尊崇する暗黒の亡霊と称される人影は、狂い闇に落ちて暗黒の悪魔と同化してしまった歴代の『暗黒色を持つ者』達だった。
人影達が語り聞かせる中、黒狼王子は黒狼石に向かい言い放つ。
「亡者の御託はいい。暗黒の力の使い方は理解した。早く全ての力を俺に寄こせ」
黒狼王子の言葉を聞いて人影達は不気味に笑い、形を崩し溶けて混ざり合い一つの闇の塊に集束していく。
『――ギャギャギャ――アハハハハ――カッカッカッ――クフフフフ――』
闇の塊は一人の形を模って、黒狼王子の前に立ち、甘く優しい声で囁きかける。
『――もちろん、君が望むままに力を与えてあげる――君の望みは何だって叶えてあげる――君が真に望むものだって――』
黒一色であったはずの人影が色付いていき、黒狼王子はその姿に目を見開く。
『――僕はダークが大好きだよ――』
その姿は、その声は、その言葉は、黒狼王子の記憶する白豚王子そのものだった。
目の前にいる白豚王子は、黒狼王子の記憶にはない表情を浮かべ、可憐に微笑んで見せる。
『――僕はダークを一人になんてしないよ――これからは、ずっとずっと、ダークと一緒にいるんだ――もう、ダークの側を離れたりしないからね――君が側に居てくれたら、僕は他に何も要らない――大好きだよ、ダーク――』
突然、現れた白豚王子の姿を目にして黒狼王子は絶句した。
見た事のない表情に、望んでしまっていた言葉に、黒狼王子は息を呑む――
「…………ふ、ははは」
――白豚王子に成りすました悪魔の言葉を聞いて、黒狼王子は笑った。
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