とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~

冬兎

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第一章 お嬢様の塩

第十一話 異世界に轟く飲みコール

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 ポートランドまでは馬車で二日の道のりだった。

 冒険者の登録自体はどこのギルド支部でも問題がない為、ポートランドのギルド支部で行うこととお嬢様と決めていた。

 ルミナス王国の国王、かつ冒険者ギルドのトップであるギルド議長である陛下から『ギルドへ紹介状を書こうか?』と気を遣ってもらったがお嬢様が丁重にお断りしていた。地力を付けるための旅で最初から誰かを頼る訳にはいかないということだろう。

 陛下もそれを分かっていながらの発言だったのか、優しく微笑むとそれ以上は何も言ってこなかった。

 道中、小さな宿場町で一泊しだ。宿は同室ではあるが、当然そんな色っぽいものではない。

 お嬢様の護衛を兼ねている以上、部屋を分ける訳にはいかない。当然旦那様も承知の上である...最後まで納得はしていなさそうだったが...。

 ポートランドのギルドは支部といっても王都に次ぐ規模の建物とのことで、三階建ての堂々たる石造りだった。ルミナス王国にあるギルド自体、陛下の影響もあり立派なものが多いのかもしれない。

 ギルドの扉を開けた途端に酒と汗の匂いが混ざった独特の空気が流れ込んできた。

「うわぁ……! これが冒険者ギルド……!」

 感じたことのない雰囲気にお嬢様が早速目を輝かせている。

 ちなみに、俺は執事服ではなく動きやすい冒険者風の服装に着替えている。お嬢様も普段のドレスではなく旅に適した簡素な服だ。

 が――どれだけ服装を変えようとも、お嬢様の立ち居振る舞いからは育ちの良さが滲み出る。

 案の定、ギルド内の冒険者たちが一斉にこちらを見た。視線が痛い。

「お嬢様、さっさと受付を済ませてしまいましょう」
「あいよー」

 俺がお嬢様の後ろを歩く。この時点で、周囲はお嬢様と俺の主従関係を理解したはずだがこればっかりは仕方ない。

 貴族の子息が従者付きで冒険者になる、という事自体はそんな珍しくもない。ただし、大抵の場合が箔を付けたり冒険者しか入れない禁則地への入場のための登録だったりで、真剣に冒険者をやっている連中からすれば面白いわけがないだろう。

 それを知っていた俺はさっさと登録を済ませてこの場を立ち去ろうと考えた訳だ。

 受付嬢が営業スマイルを浮かべる。

「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「冒険者登録を宜しくぅ!」
「かしこまりました。こちらの書類にご記入ください」

 テンション高目のお嬢様が書類を受け取りペンを走らせる。

 続いて俺も同様に書類を受け取った。

 名前、年齢、得意な武器、魔法の適性――

 淡々と記入していく。

「はい、できました!」

 お嬢様が書類を提出する。

「ありがとうございます。それでは、ギルドカードをお作りしますので少々お待ちください」

 受付嬢が奥へ引っ込む。

 待っている間、お嬢様は周囲をキョロキョロと見回している。

「ねえクラウス、あそこの掲示板見て! 依頼がいっぱい!」
「ええ、そのようですね」
「どんな依頼があるのかな~」

 無邪気に掲示板に近づくお嬢様、一歩後ろに続く俺。

 お嬢様の無邪気さが冒険者たちにとっては馬鹿にされていると感じたのかもしれない。目に見えて周囲の冒険者たちの先程以上に冷たくなっていった。

 ……面倒なことにならなければいいがーと思ったがすぐに俺の不安は的中する。

 掲示板を眺めていると、酒臭い男が近づいてきた。

「よお、お嬢ちゃん」

 ベテラン風の冒険者だ。傷だらけの顔、鍛え上げられた体。

「ん? おっちゃんどうしたの?」

 お嬢様が振り返る。ちなみにお嬢様自身、もう貴族ではなく冒険者のつもりになっているので口調からは貴族令嬢を全く感じられない。むしろいつもより酷いかもしれない。

「貴族のお嬢様が冒険者ごっこか? ここは遊び場じゃねえぞ」
「ごっこじゃないですぅー。ちゃんと冒険者になるんですぅrー」
「はっ、笑わせんな。お前みたいな温室育ちが務まるわけねえだろ」

 男が嘲笑いながらさらにお嬢様に近づく。

「お嬢様から離れろ」

 お嬢様まであと3歩、といったところで俺が間に入る。

「あん? 従者風情が偉そうに――」

 俺の胸倉を掴もうとした男の手を取り、瞬時に関節を極める
 幼少期から親父に叩き込まれてきた一番基本的な技だ。

「――ぐあっ!?」

 痛みに立っていられず思わず男がうつ伏せに倒れ込む。周囲が静まり返る。

「……な、何が起こったんだ?」
「あのダリオが一瞬で……?」

 ざわめきが広がる。ダリオと呼ばれる男の仲間らしき冒険者たちがわらわらと集まり始めた。

「おい、てめえ!」
「ダリオに何しやがった!」

 十人ほどの冒険者たちが俺を囲む。
 それ以外にも友好的といえない視線を向けてくる冒険者たちが遠巻きにこちらの様子を伺っているのがわかる。完全にアウェイな状態だ、まさに一触即発だ。

 俺が周囲の様子を伺いつつ、さてどうしたものかと考えていると、今度はお嬢様が慌てて間に割って入ってくる。

「ちょ、待って待って! 喧嘩とかダサくない? 取りあえず飲も?」

 ニコニコ笑顔で両手を広げる。

「「「……は?」」」

 俺も冒険者たちも困惑。えー....と、もしかしたら聞き間違えたかもしれん。

「だから、飲もうって! ほら、ギルド内に飲み屋もあるんでしょ?」

 ...聞き間違いではないようだ。お嬢様が既にカウンターに向かって歩き出している。

「マスター! エール樽一つ! あとつまみも適当に!」
「え、ああ……はい」

 様子を見ていた酒場のマスターが戸惑いながらも慌ただしく準備を始める。

 お嬢様がテーブルに酒を並べ始めた。

「とりまみんな飲もー! ね?」

 あまりに想像だにしない現象に巻き込まれ、何が起こっているのか理解できない冒険者...と俺。

「え? あ、いや、でも―
「いいからいいから! せっかくだし!」

 お嬢様が冒険者たちの手を引っ張ってテーブルに座らせ、何が何だかわからぬまま飲み会が始まった。

 一体何が起きているのだ...。



 十分後———

「飲めないエルフにエールジョッキ! ぐぐっと~!ぐぐっと~!」
「「「「「ぐぐっと~!ぐぐっと~!」」」」」

 お嬢様が高らかに叫び、冒険者たちが合いの手を入れる。テーブルの中央では合いの手に合わせてダリオがジョッキを煽っていく。

「飲めないドワーフにワインボトル~! ぐぐっと~!ぐぐっと~!」
「「「「「ぐぐっと~!ぐぐっと~!」」」」」

 次はドワーフの冒険者がボトルを一気飲みする。

「筋肉バカにはプロテイン割り! ぐぐっと~!ぐぐっと~!」
「「「「「ぐぐっと~!ぐぐっと~!」」」」」

 筋骨隆々の戦士がプロテイン割りと思われる飲み物を煽る。

「スライム倒してポーション! ぐぐっと~!ぐぐっと~!」
「「「「「ぐぐっと~!ぐぐっと~!」」」」」

 若い冒険者がポーションを一気飲みする。

「勇者の称号ブレイバー! ぐぐっと~!ぐぐっと~!」
「「「「「ぐぐっと~!ぐぐっと~!」」」」」

 その場にいる全員がジョッキを掲げ腹を抱えて笑い転げている。

「・・・・・・」

 俺はそれを遠くから眺めている。

「(……俺は一体何を見せられているのだろう)」

 最初は気まずかった空気が、お嬢様の圧倒的なコミュニケーション能力で一気に温まりギルド内が一丸となって盛り上がっている。

「ダリオっち、さっきの話の続き聞かせてよ!」

 お嬢様がダリオの隣に座る。

「ああ、あれか。あの時な、俺はオークの群れに囲まれてよ――」
「マジで!? それでどうしたの!?」
「剣一本で切り抜けた。仲間が到着するまで持ちこたえたんだ」
「すご! マジすごい! 超やば杉謙信じゃん!」

 目を輝かせるお嬢様に対し、ダリオが照れくさそうに笑う。

「ま、まあ、冒険者なら当たり前のことだけどな」
「当たり前じゃないよ! すごいことだよ!」

 お嬢様が次々とテーブルを回り、冒険者たちの武勇伝を聞いて回る。

「そっちのマッチョさんはどんな依頼をこなしたん?」
「おう俺か? 俺はゴブリンの巣を単独で潰したことがある」

「単独!? マジで!?」
「ああ、まあな」
「激熱じゃん! ねえ、詳しく聞かせて!」

 冒険者が嬉しそうに話し始める。

 お嬢様が「ヤバッ」「すごい!」「マジで!?」「それエモい!」を連発しながら、全員の話を引き出していく。

 気づけば――

「お嬢ちゃん、こっちも来いよ!」
「お嬢ちゃん、ほら飲め飲め!」

 呼び方が変わっていき…

「姐さん、こっちの話も聞いてくださいよ!」
「姐さん、もう一杯どうっすか!」

 いつの間にか立場すら逆転していた。
 筋骨隆々な荒くれ者どもがお嬢様の周囲に集まり、自分の話をお嬢様に褒めてもらおうと必死である。

 旦那様が見たら卒倒しそうな景観である。

「姐さん、あんた本当にすげえよ!」

 ダリオがお嬢様の肩を叩く。

「最初は貴族のお嬢様の冷やかしかと思ったけど全然違うな! あんたは立派な冒険者だ!」
「あんがと、ダリオっち!」

 お嬢様が満面の笑みを浮かべると冒険者たちがさらに歓声を上げ、ギルド全体が祝祭のような雰囲気になっている。

 その光景をただ呆然と眺めていた俺に受付嬢がこっそり俺に近づいてくる。

「あの……お連れ様、すごい方ですね」
「……ええ、まあ」
「こんな短時間でギルド中の冒険者を味方につけるなんて……初めて見ました」
「そうですか」

 受付嬢が感心したように呟く。

 俺も同感である。
 分かっていたつもりだったがお嬢様のコミュニケーション能力は異常だ。荒くれ者たちがたった数刻でまるで飼い猫のように懐いてしまっている。

 これはお嬢様の”激運”と同様に生まれ持った才能なのかもしれない。

 お嬢様は、どこに行っても人を惹きつける。それが、このお方の真骨頂なのだろう。

「姐さん、もう一杯!」
「はいはい、ちょっと待ってね~!」

 お嬢様が笑顔で酒を注いでいく。

 そんな様子を見て改めて俺は気を引き締め直す。

 お嬢様の魅力に群がる人間が善意だけとは限らない。俺はそんな悪意からお嬢様を守る盾になる。

 甘い考えかもしれないが、お嬢様自身がそんな悪意に触れる必要はない。汚れ仕事は俺が全て引き受けるから、お嬢様には今まで通りただただ真っすぐ進んでもらいたい。

 俺は隅のテーブルに腰を下ろし、静かに紅茶を淹れる。

 お嬢様の冒険は、まだ始まったばかりだ。
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