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第一章 勇者ああああと妹
1-3 勇者の使命
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音、光、全てを遮断する重厚な壁に囲われた空間の中、その異様な光景は誰が見たとしても茫然と立ち尽くしてしまうだろう。
ここはパプライラの王城の中でも、限られた者しか入ることの許されない聖域。儀式の間と言われる巨大な部屋である。
楕円や直線。ところどころに太陽や月、星を模した図形が描かれた円形の空間の中、壁際に円を描くようにぎっしりと白いローブの老人たちが立ち並んでいる。彼らは一人ずつ、中央に佇む今回の儀式の主役へと呪文を投げかける。
「108……吉光の日より生まれし者よ」
「109……宿命を背負いし光の落とし子よ」
「110……神塔の示す光の体現者よ」
言葉が紡がれるとともにまた、彼らが持つ杖に光が灯り、そして消える。その現象が起こるにつれて、中央にいる者の周りに光が溢れだす。
既に何周しただろうか。永遠に終わらぬとも感じさせる詠唱儀式は遂に999を成したところで、旅の始まりを祈る最終段階へと移行していた。
「我は神塔シティより来訪せし、パプライラ王国に使える魔導を極めた大魔術師。神の血を受け継ぎし者。我が名はブランダム・C・グラムである」
声はどこからか響いてくる。円形に並ぶ老人たちの中からではない。まるで神が降臨したかのように、心の中へと直接語り掛けてくる声がそこにはあった。
いままで俯き、跪いていた中心の青年はその無表情の顔を上げた。
天井の意図的に作られた隙間から差し込む、柔らかでいてひときわ明るい光。その神々しい光景に見惚れる者はこの空間に一人もおらず、その厳かであって神聖な空気の中にて、勇者に続きローブの老人らも一斉に頭を上げた。
「汝の道は既に二十年前に示されている。吉光と凶影とともに生まれた二人のうちの一人。すなわち光の戦士」
言葉は続く。勇者へと運命を告げる言葉。
皆の視線が集まると、徐々に光が流体と化したように動き出し、光を十字架のように変形させていく。
否、十字架のように見えたそれは刀身、鍔、柄であった。
光の剣。まさに勇者にふさわしい武具。
「汝に問う。己が宿命と対峙し、自らの命に代えてでも仇敵を倒す覚悟があるか」
瞬間、弱く風が起こる。誰もいなかった筈のその場所に、突然ローブの青年が現れたのだ。
そう、彼こそ魔術師ブランダム。この国、この世界で最高位の、神の血を継ぐ魔術師である。
魔術師は問いを投げかける。それは命がけで戦わなければならないという警告か、それとも死しても敵を倒せという契約か。
「……チッ」
舌打ち。それを誰がしたのかは彼の魔術師のみが気づいていた。
魔術師も少し驚いていた。それは神聖な儀式の最中にそのような行動をとったからではない。勇者にそのような感情はないと思っていたからだ。
「……覚悟はできているようだ」
気を取り直し、旅立ちの儀式はブランダムの言葉によって終わりを迎えようとしていた。
「剣を取れ! その剣は汝の肉体のために鍛えられたもの。そして彼の漆黒皇帝を倒し、世界に平和と安寧をもたらすことを誓え!」
「……」
勇者は答えない。その感情のないはずの顔は、今だけは苛立ちに満ちているようにも感じさせる。まるでこの儀式が時間の無駄だとでも言うように。
だが勇者が何も口にしない程度で儀式は中断したりしない。彼は立ち上がり、両手で強く剣を握りしめる。
「誓いは交わされた! 初めに示された方角は北! 進め、勇者よ!」
その魔術師の言葉とともに、周りの老魔術師たちは跪く。そして勇者は、その言葉が終わりきると同時に急くように歩みを始める。
「汝の名はああああ。吉光の戦士、勇者ああああよ!」
魔術師は遂に名を告げる。
ああああ。それが勇者の名前。
勇者は外の光が漏れ出す巨大な扉に手をかける。
ゆっくりと光に包まれるその姿は、まるで神の加護を一身に受けているかのような神々しさである。
扉が開ききったその瞬間、彼の旅は始まった。
その結末は絶望か希望か。それはまだ誰にもわからない。
幸せな未来を祈ることしかできない老魔術師たちは、ただただ彼の背中を見つめるだけであった。
「さて、私も行きますか」
その中でただ一人、ブランダムという魔術師だけは違う表情をしていた。絶望と希望、さらにその先をも見通しているような表情を浮かべると、いつの間にかその姿は、朝日が昇りきった後の霧のように綺麗に消え去っていた。
ここはパプライラの王城の中でも、限られた者しか入ることの許されない聖域。儀式の間と言われる巨大な部屋である。
楕円や直線。ところどころに太陽や月、星を模した図形が描かれた円形の空間の中、壁際に円を描くようにぎっしりと白いローブの老人たちが立ち並んでいる。彼らは一人ずつ、中央に佇む今回の儀式の主役へと呪文を投げかける。
「108……吉光の日より生まれし者よ」
「109……宿命を背負いし光の落とし子よ」
「110……神塔の示す光の体現者よ」
言葉が紡がれるとともにまた、彼らが持つ杖に光が灯り、そして消える。その現象が起こるにつれて、中央にいる者の周りに光が溢れだす。
既に何周しただろうか。永遠に終わらぬとも感じさせる詠唱儀式は遂に999を成したところで、旅の始まりを祈る最終段階へと移行していた。
「我は神塔シティより来訪せし、パプライラ王国に使える魔導を極めた大魔術師。神の血を受け継ぎし者。我が名はブランダム・C・グラムである」
声はどこからか響いてくる。円形に並ぶ老人たちの中からではない。まるで神が降臨したかのように、心の中へと直接語り掛けてくる声がそこにはあった。
いままで俯き、跪いていた中心の青年はその無表情の顔を上げた。
天井の意図的に作られた隙間から差し込む、柔らかでいてひときわ明るい光。その神々しい光景に見惚れる者はこの空間に一人もおらず、その厳かであって神聖な空気の中にて、勇者に続きローブの老人らも一斉に頭を上げた。
「汝の道は既に二十年前に示されている。吉光と凶影とともに生まれた二人のうちの一人。すなわち光の戦士」
言葉は続く。勇者へと運命を告げる言葉。
皆の視線が集まると、徐々に光が流体と化したように動き出し、光を十字架のように変形させていく。
否、十字架のように見えたそれは刀身、鍔、柄であった。
光の剣。まさに勇者にふさわしい武具。
「汝に問う。己が宿命と対峙し、自らの命に代えてでも仇敵を倒す覚悟があるか」
瞬間、弱く風が起こる。誰もいなかった筈のその場所に、突然ローブの青年が現れたのだ。
そう、彼こそ魔術師ブランダム。この国、この世界で最高位の、神の血を継ぐ魔術師である。
魔術師は問いを投げかける。それは命がけで戦わなければならないという警告か、それとも死しても敵を倒せという契約か。
「……チッ」
舌打ち。それを誰がしたのかは彼の魔術師のみが気づいていた。
魔術師も少し驚いていた。それは神聖な儀式の最中にそのような行動をとったからではない。勇者にそのような感情はないと思っていたからだ。
「……覚悟はできているようだ」
気を取り直し、旅立ちの儀式はブランダムの言葉によって終わりを迎えようとしていた。
「剣を取れ! その剣は汝の肉体のために鍛えられたもの。そして彼の漆黒皇帝を倒し、世界に平和と安寧をもたらすことを誓え!」
「……」
勇者は答えない。その感情のないはずの顔は、今だけは苛立ちに満ちているようにも感じさせる。まるでこの儀式が時間の無駄だとでも言うように。
だが勇者が何も口にしない程度で儀式は中断したりしない。彼は立ち上がり、両手で強く剣を握りしめる。
「誓いは交わされた! 初めに示された方角は北! 進め、勇者よ!」
その魔術師の言葉とともに、周りの老魔術師たちは跪く。そして勇者は、その言葉が終わりきると同時に急くように歩みを始める。
「汝の名はああああ。吉光の戦士、勇者ああああよ!」
魔術師は遂に名を告げる。
ああああ。それが勇者の名前。
勇者は外の光が漏れ出す巨大な扉に手をかける。
ゆっくりと光に包まれるその姿は、まるで神の加護を一身に受けているかのような神々しさである。
扉が開ききったその瞬間、彼の旅は始まった。
その結末は絶望か希望か。それはまだ誰にもわからない。
幸せな未来を祈ることしかできない老魔術師たちは、ただただ彼の背中を見つめるだけであった。
「さて、私も行きますか」
その中でただ一人、ブランダムという魔術師だけは違う表情をしていた。絶望と希望、さらにその先をも見通しているような表情を浮かべると、いつの間にかその姿は、朝日が昇りきった後の霧のように綺麗に消え去っていた。
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