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第一章 勇者ああああと妹
1-8 もう一つの旅立ち
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青空は赤と黒へと変わり、その光景は正にこの世の終わりと言えるほどの異常であった。
「――ハァッ!!!!」
斬。
やがて地上にも訪れた、その闇と瘴気。それに襲われた人々は、ドミノ崩しの容量で倒れていった。
「――ッ!?」
守。
そんな敗北と絶望の結末を迎えた城下町にてただ一人、血眼になりながら剣を振るう大男があった。
彼はパプライラ王国騎士団の中でも名誉ある最高の地位を持つ男。最も、国が滅びた今の状況で、そんな名誉に価値など毛ほどもありはしないが。
「うぁぁあああ――――!!!!!!」
終。
怒りを宿したその大剣は、憎き最後の敵を両断した。
彼の名は、ゴドー・トゥリース。このパプライラの国を愛し、命を変えてでも守らねばならない者。
だが何故、彼はいま生きているのだろうか。我が国が滅びたというのに、何故。
「――――ッ!!」
その現状こそ、彼の怒りの最大の要因であった。
自らを殴りつける。役目を果たせず生き残る己に、今何のために生きているんだと。
だが、これは自分でも言っていたことだ。どうせみんな死ぬ。最後の審判が訪れた時、皇国に歯向かった全ての国の住人は息絶えるのだ。
とっくに承知していたことなのに何故、こんなにも悲しく、憎らしいのだろう。
結局のところ、そういうことだ。自分の心の中の奥底で、最後にはみんなが救われるなんて、デウス・エクス・マキナなんてものが現れるなんて甘い考えをしていた自分がいたからだ。終わりを信じ切れていなかったから。
「……俺は!!!!」
なんて無責任な団長なんだと、自分を責め立てる。そんな甘い考えさえなければ、この国を救えたかもしれなかったというのに。
そうやって立ち尽くす彼の背後から、まがまがしい呻き声が発せられた。
「ァァァァァァァァ……」
振り向けば、そこにあったのは無尽蔵の魔物たち。援軍か、はたまた瘴気に晒された狂獣か。
彼は何も言わずに大剣を構える。だがそれは戦士としての癖が出ただけであって、その顔は何もかもを投げ出した諦めを表していた。
「……」
ここで挑んだところで何が変わるでもない、自分が死に、魔物が数匹死ぬか死なないかの差だ。
瞬間、山のようであったその光景は濁流へと変じた。圧倒的な物量で押し寄せる魔物たち。それは自分の無価値の構えを無意味にするほどの破壊的な力。
体だけは反応した。だが頭は動かない。既に意識は真白へと包まれている。
そこは天国の入り口か。慕ってくれていた部下、我が王、妻、子供たち。走馬灯のようにも見えたし、自らに手を振って迎えに来た天使のようにも見えた。
「俺も……今行くからな」
短く呟く。このまま優しく終わりを迎えよう。
「いいえ、まだだ」
それは彼の背後から聞こえた声だった。非常に生々しく、妄想ではなく現実から発せられた声。それが誰の声かはすぐに理解できた。
「ブランダム!?」
すると真白の意識だと思えたものが突然破裂し、美しい爆発とともに光の粒子となって弾けた。
目の前に現れたのは、先ほどの赤黒い破滅的な風景。パプライラの城下町であった。
急いでに振り向くと、そこには白いローブの魔術師、ブランダム・C・グラムの姿があった。
「今のは私が倒した。そしてゴドー、お前には生きてやらねばならないことがある」
「おい!! そうじゃないだろ!!」
自分がやらねばならないこと。そんなことは今の彼には関係なく、魔術師に対してどうしても聞かなくてはいけないことがあった。
「どうしてだ!! あんな魔物の大軍を倒せる力を持っておきながら何故、戦いに参加しなかった!!」
それは質問というよりも、怒鳴りつけるという言葉の方があっていた。彼は反射的に魔術師のことを責め立てていた。
ゴドーは団長であるが故に騎士団員の状態の把握はいつも行っている。騎士団に属している魔術師も例外ではない。だからこそ、このブランダムという魔術師が戦いに参加できない理由など無いということは知っていたのだ。だがこの魔術師は今のいままで姿を現さなかった。
「……事情がある」
「国民全ての命を犠牲にしてでも他にやるべきことがあったっていうのか!! お前には!!」
彼の怒りは頂点に達していた。今にも殴りかかりそうになったその時、ゴドーは自らの目が光りだす感覚を捉えた。
「!?」
その不可解な現象にゴドーはたじろぎ、バランスを保てなくなった体は倒れ、思い切り尻もちをつく。
「おい! なんだこれは!」
「分かってもらうにはこうした方がいい」
やがて眼球内の光は収まり彼の視界が晴れると、そこにはさらなる異常な光景が広がっていた。
「街が……どうなってるんだ?」
目を開ければ空は青が広がり、街の様子はまるで先ほどから何年もたったように風化し、家々にはツタなどの植物が茂る有様になっていた。
「ゴドー、お前には神の目を与えた。行くぞ、長い話になる」
やりたいことだけ、言いたいことだけをいって魔術師は街を出ようと歩み始める。
「ブランダム! どういうことなのか説明くらいしろ!」
右も左も分からない彼は魔術師に質問することしかできない。
街を出るまでしつこくそんなことを繰り返していると、漸く折れたのか魔術師は回答を少しだけ口にした。
「お前や国民たち、王や国そのものでさえロールを与えられた人形に過ぎない」
「は?」
やっと会話が始まったは良いものの、その内容はあまり理解できるものではなかった。そもそも断片的にしか話してくれないので、最初からゴドーに伝える気など毛頭ないのだろうか。
「そんな決められた未来を進んでいく中で、一つの障害が発生した」
「国が滅びたのも、運命だったとでも言いたいのか」
急にスケールが広がった話の内容に追いつこうとして、何とか頭を働かせながら聞き返す。
その返答に嗚呼と魔術師は短く答える。そんな答えに納得できるわけがなく彼の心に怒りが湧いてくるが、魔術師はお構いなしと話を続ける。
「お前が言うように私には力があり、それを行使する余裕もあった」
「ならどうして何もしなかった!!」
やはりと、そして何故と。咄嗟に怒りが発せられる。だがそれに続けて彼の予想の範疇を越えるような回答が、魔術師の口から伝えられた。
「それをすれば、更なる災厄を招く可能性があったからだ」
更なる災厄、それは一体どれほどの悪逆か。ゴドーが想像を固めるよりも速くに、魔術師はその災厄の規模を示した。
「我らのような者が迂闊に干渉してしまえば、彼の漆黒皇帝が行う最後の審判など赤子の遊びだとでも思えるような事態が起こるかもしれなかった。そして今、それが起こる可能性が発生している。それを阻止するための旅を始めるのだ」
ゴドーは言葉を失った。全く持って手も足も出なかった漆黒皇帝ドラガヌギオスの統べるギオス皇国。そんなものと天と地ほどの差がある脅威が迫ってるのだという。
彼のブランダムに対する憎しみは消えてなどいないが、その言葉を信じるに値する程この魔術師の力は信用していた。
「……俺に何ができるって言うんだ」
そう、そんな脅威と、こんなちっぽけな自分が対峙できるわけがないなんて嫌というほど理解できる。
だがこの魔術師が何の考えもなしに自分に協力を申し立てるようなやつではないということは分かっていた。だからこんな質問をしたのだ。しかし、その魔術師から返ってきた言葉は予想とは違い、とても脆弱で自信の欠けたものだった。
「分からない。これからやろうとしていることは決められた未来を壊すモノとの戦いだ。当然、私たちも運命を覆して進むことになる」
「そうか」
弱々しい回答と、弱々しい返事が交差する。
この魔術師の口ぶりからするに、今まで運命ってものに従って時代は進んできたのだという。だが、今そんなことを知ったところで何も変わりはしない。自分には運命なんて見えなかったし、常に未来は自らの手で切り開いてきた。それをこれからも続けていくだけの話だ。
「ゴドー。なにも力もなしに戦えというわけではない。」
魔術師がそう言うと、その指はゴドーの目を指した。
「今お前の瞳は黄金に輝いている。それは神の目、運命を覆す力の一つだ」
そんな話をしているうちに、二人はいつの間にか街から外の方へと出ていた。
「次の町に着くまで、その目について話そう。力の使い道を」
そういって魔術師は翻し、北へ向けて歩き始める。それを後ろから追いかけながら、ゴドーは質問する。
「……ブランダム。そんな強大な奴を倒せるほどの力を持てるなら、その旅が終わったとき、――――我が国を、元に戻すことはできるか」
ゴドーが口にしたのは、自分自身の渇望する最大の願いであった。そんな神の御業ともいえるような大きな偉業を果たした暁には、そのくらいの願いなど容易いことではないのかと質問する。
すると魔術師は振り返らず、ただ黙々と語った。
「それはできないことだ。――――だが未知なる未来の果てに、お前が……に至ったならば、あるいは…………」
一瞬、歩みを止めた魔術師は質問に対して考え込むようだった。だがそれもすぐに終わり、歩みが再開される。
このとき勇者とその妹とは違うところで、もう一つの旅が始まった。それはブランダム曰く、ロールにはない逸脱した行動だと言うらしい。
人とは違う視点を持った神の血を継ぐ大魔術師ブランダム・C・グラム。
その魔術師を恨みながら自らにしかできない使命に身を置く亡国の団長ゴドー・トゥリース。
彼らは不揃いな歩きをしながらも、今だけは同じ未来を見ていた。
この旅の果てに起こるものは、災厄の回避か。それとも彼の漆黒皇帝の恐怖よりも強大な絶望か。
不意に、ゴドーはあることを思い出して小さく口に出す。
「嬢ちゃんに、言い忘れちまったな……」
冒険の許可が出たこと。それを伝えたらきっとこの上ない笑顔が見れたのだと、その表情が簡単に想像できてしまうくらいに彼女は微笑ましい娘だったと思い返す。
しかし、街と運命を共にしてしまった者たちを思ってもしょうがないと自分に言い聞かせ、彼は魔術師の後ろにてこれからのことを考えながら歩き続けるのであった。
「――ハァッ!!!!」
斬。
やがて地上にも訪れた、その闇と瘴気。それに襲われた人々は、ドミノ崩しの容量で倒れていった。
「――ッ!?」
守。
そんな敗北と絶望の結末を迎えた城下町にてただ一人、血眼になりながら剣を振るう大男があった。
彼はパプライラ王国騎士団の中でも名誉ある最高の地位を持つ男。最も、国が滅びた今の状況で、そんな名誉に価値など毛ほどもありはしないが。
「うぁぁあああ――――!!!!!!」
終。
怒りを宿したその大剣は、憎き最後の敵を両断した。
彼の名は、ゴドー・トゥリース。このパプライラの国を愛し、命を変えてでも守らねばならない者。
だが何故、彼はいま生きているのだろうか。我が国が滅びたというのに、何故。
「――――ッ!!」
その現状こそ、彼の怒りの最大の要因であった。
自らを殴りつける。役目を果たせず生き残る己に、今何のために生きているんだと。
だが、これは自分でも言っていたことだ。どうせみんな死ぬ。最後の審判が訪れた時、皇国に歯向かった全ての国の住人は息絶えるのだ。
とっくに承知していたことなのに何故、こんなにも悲しく、憎らしいのだろう。
結局のところ、そういうことだ。自分の心の中の奥底で、最後にはみんなが救われるなんて、デウス・エクス・マキナなんてものが現れるなんて甘い考えをしていた自分がいたからだ。終わりを信じ切れていなかったから。
「……俺は!!!!」
なんて無責任な団長なんだと、自分を責め立てる。そんな甘い考えさえなければ、この国を救えたかもしれなかったというのに。
そうやって立ち尽くす彼の背後から、まがまがしい呻き声が発せられた。
「ァァァァァァァァ……」
振り向けば、そこにあったのは無尽蔵の魔物たち。援軍か、はたまた瘴気に晒された狂獣か。
彼は何も言わずに大剣を構える。だがそれは戦士としての癖が出ただけであって、その顔は何もかもを投げ出した諦めを表していた。
「……」
ここで挑んだところで何が変わるでもない、自分が死に、魔物が数匹死ぬか死なないかの差だ。
瞬間、山のようであったその光景は濁流へと変じた。圧倒的な物量で押し寄せる魔物たち。それは自分の無価値の構えを無意味にするほどの破壊的な力。
体だけは反応した。だが頭は動かない。既に意識は真白へと包まれている。
そこは天国の入り口か。慕ってくれていた部下、我が王、妻、子供たち。走馬灯のようにも見えたし、自らに手を振って迎えに来た天使のようにも見えた。
「俺も……今行くからな」
短く呟く。このまま優しく終わりを迎えよう。
「いいえ、まだだ」
それは彼の背後から聞こえた声だった。非常に生々しく、妄想ではなく現実から発せられた声。それが誰の声かはすぐに理解できた。
「ブランダム!?」
すると真白の意識だと思えたものが突然破裂し、美しい爆発とともに光の粒子となって弾けた。
目の前に現れたのは、先ほどの赤黒い破滅的な風景。パプライラの城下町であった。
急いでに振り向くと、そこには白いローブの魔術師、ブランダム・C・グラムの姿があった。
「今のは私が倒した。そしてゴドー、お前には生きてやらねばならないことがある」
「おい!! そうじゃないだろ!!」
自分がやらねばならないこと。そんなことは今の彼には関係なく、魔術師に対してどうしても聞かなくてはいけないことがあった。
「どうしてだ!! あんな魔物の大軍を倒せる力を持っておきながら何故、戦いに参加しなかった!!」
それは質問というよりも、怒鳴りつけるという言葉の方があっていた。彼は反射的に魔術師のことを責め立てていた。
ゴドーは団長であるが故に騎士団員の状態の把握はいつも行っている。騎士団に属している魔術師も例外ではない。だからこそ、このブランダムという魔術師が戦いに参加できない理由など無いということは知っていたのだ。だがこの魔術師は今のいままで姿を現さなかった。
「……事情がある」
「国民全ての命を犠牲にしてでも他にやるべきことがあったっていうのか!! お前には!!」
彼の怒りは頂点に達していた。今にも殴りかかりそうになったその時、ゴドーは自らの目が光りだす感覚を捉えた。
「!?」
その不可解な現象にゴドーはたじろぎ、バランスを保てなくなった体は倒れ、思い切り尻もちをつく。
「おい! なんだこれは!」
「分かってもらうにはこうした方がいい」
やがて眼球内の光は収まり彼の視界が晴れると、そこにはさらなる異常な光景が広がっていた。
「街が……どうなってるんだ?」
目を開ければ空は青が広がり、街の様子はまるで先ほどから何年もたったように風化し、家々にはツタなどの植物が茂る有様になっていた。
「ゴドー、お前には神の目を与えた。行くぞ、長い話になる」
やりたいことだけ、言いたいことだけをいって魔術師は街を出ようと歩み始める。
「ブランダム! どういうことなのか説明くらいしろ!」
右も左も分からない彼は魔術師に質問することしかできない。
街を出るまでしつこくそんなことを繰り返していると、漸く折れたのか魔術師は回答を少しだけ口にした。
「お前や国民たち、王や国そのものでさえロールを与えられた人形に過ぎない」
「は?」
やっと会話が始まったは良いものの、その内容はあまり理解できるものではなかった。そもそも断片的にしか話してくれないので、最初からゴドーに伝える気など毛頭ないのだろうか。
「そんな決められた未来を進んでいく中で、一つの障害が発生した」
「国が滅びたのも、運命だったとでも言いたいのか」
急にスケールが広がった話の内容に追いつこうとして、何とか頭を働かせながら聞き返す。
その返答に嗚呼と魔術師は短く答える。そんな答えに納得できるわけがなく彼の心に怒りが湧いてくるが、魔術師はお構いなしと話を続ける。
「お前が言うように私には力があり、それを行使する余裕もあった」
「ならどうして何もしなかった!!」
やはりと、そして何故と。咄嗟に怒りが発せられる。だがそれに続けて彼の予想の範疇を越えるような回答が、魔術師の口から伝えられた。
「それをすれば、更なる災厄を招く可能性があったからだ」
更なる災厄、それは一体どれほどの悪逆か。ゴドーが想像を固めるよりも速くに、魔術師はその災厄の規模を示した。
「我らのような者が迂闊に干渉してしまえば、彼の漆黒皇帝が行う最後の審判など赤子の遊びだとでも思えるような事態が起こるかもしれなかった。そして今、それが起こる可能性が発生している。それを阻止するための旅を始めるのだ」
ゴドーは言葉を失った。全く持って手も足も出なかった漆黒皇帝ドラガヌギオスの統べるギオス皇国。そんなものと天と地ほどの差がある脅威が迫ってるのだという。
彼のブランダムに対する憎しみは消えてなどいないが、その言葉を信じるに値する程この魔術師の力は信用していた。
「……俺に何ができるって言うんだ」
そう、そんな脅威と、こんなちっぽけな自分が対峙できるわけがないなんて嫌というほど理解できる。
だがこの魔術師が何の考えもなしに自分に協力を申し立てるようなやつではないということは分かっていた。だからこんな質問をしたのだ。しかし、その魔術師から返ってきた言葉は予想とは違い、とても脆弱で自信の欠けたものだった。
「分からない。これからやろうとしていることは決められた未来を壊すモノとの戦いだ。当然、私たちも運命を覆して進むことになる」
「そうか」
弱々しい回答と、弱々しい返事が交差する。
この魔術師の口ぶりからするに、今まで運命ってものに従って時代は進んできたのだという。だが、今そんなことを知ったところで何も変わりはしない。自分には運命なんて見えなかったし、常に未来は自らの手で切り開いてきた。それをこれからも続けていくだけの話だ。
「ゴドー。なにも力もなしに戦えというわけではない。」
魔術師がそう言うと、その指はゴドーの目を指した。
「今お前の瞳は黄金に輝いている。それは神の目、運命を覆す力の一つだ」
そんな話をしているうちに、二人はいつの間にか街から外の方へと出ていた。
「次の町に着くまで、その目について話そう。力の使い道を」
そういって魔術師は翻し、北へ向けて歩き始める。それを後ろから追いかけながら、ゴドーは質問する。
「……ブランダム。そんな強大な奴を倒せるほどの力を持てるなら、その旅が終わったとき、――――我が国を、元に戻すことはできるか」
ゴドーが口にしたのは、自分自身の渇望する最大の願いであった。そんな神の御業ともいえるような大きな偉業を果たした暁には、そのくらいの願いなど容易いことではないのかと質問する。
すると魔術師は振り返らず、ただ黙々と語った。
「それはできないことだ。――――だが未知なる未来の果てに、お前が……に至ったならば、あるいは…………」
一瞬、歩みを止めた魔術師は質問に対して考え込むようだった。だがそれもすぐに終わり、歩みが再開される。
このとき勇者とその妹とは違うところで、もう一つの旅が始まった。それはブランダム曰く、ロールにはない逸脱した行動だと言うらしい。
人とは違う視点を持った神の血を継ぐ大魔術師ブランダム・C・グラム。
その魔術師を恨みながら自らにしかできない使命に身を置く亡国の団長ゴドー・トゥリース。
彼らは不揃いな歩きをしながらも、今だけは同じ未来を見ていた。
この旅の果てに起こるものは、災厄の回避か。それとも彼の漆黒皇帝の恐怖よりも強大な絶望か。
不意に、ゴドーはあることを思い出して小さく口に出す。
「嬢ちゃんに、言い忘れちまったな……」
冒険の許可が出たこと。それを伝えたらきっとこの上ない笑顔が見れたのだと、その表情が簡単に想像できてしまうくらいに彼女は微笑ましい娘だったと思い返す。
しかし、街と運命を共にしてしまった者たちを思ってもしょうがないと自分に言い聞かせ、彼は魔術師の後ろにてこれからのことを考えながら歩き続けるのであった。
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