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第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり
3-5 私の好きな食べ物
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巨大な空間にカツカツとヒールの音が鳴り響く。
この恐ろしく豪華で長い廊下を走るのは、貴族ではなく二人の庶民。そして今、舞踏会が開催されるであろう場所の扉の前まで来た。
「本当にバレないですかね……」
「こういうとこには自分のことしか見てないひねくれ女しかいないから大丈夫よ」
いつも通りの悪口で返答を返される。よし、調子は上々だ!
私たちはしれっと中に入る。幸い扉は開かれたままになっていたので、変に視線を受けることもなかった。
見渡せば三六〇度、ドレス、タキシード、ドレス、タキシード、ドレス、タキシード。
皆がやがやと食事を楽しんでいるようだ。良かった。正直、舞踏会での踊り方なんて全く分からないし、それに気づいた辺りからかなり緊張していた。でも油断は禁物。始まる前に早くお兄ちゃんを見つけて帰らなきゃ。
私は計画通りにヒリアさんに目配せをする。彼女は直ぐに状況を整理すると、こちらに指示を下す。
「シャル、ワタクシはあちらの方へ行ってきますわよ? オホホ」
「……は、はい」
すごく違和感を感じる喋り方……あれなら黙っていた方が自然なのではないか。
まずは手分けをして探し回るようだ。私はヒリアさんとは逆の方向へと歩き出す。
各テーブルでは男女が上品な仕草で料理を味わっている。卓上には、大きいお皿の真ん中にポツンと可愛らしいお肉が乗っていたり、まるで芸術品かのような装飾や構造をしたスイーツまであり、非常に食べることを躊躇われるものばかりが並んでいた。しかしそれらからは食欲をそそる旨味を纏った香りが漂ってくるため、お腹が鳴ってしまわないかを常に心配してしまう。
それにしてもお兄ちゃんは見当たらない。
あの銀色の鎧が目立たないということは、当然お兄ちゃんもタキシードか何かを着ているのだろう。
しかしお兄ちゃんには長髪を後ろで結んでいるという特徴もある。見たところ髪の長い人は女の人だけなので目立ちそうなものなのだが……もしかして潜入のために髪を切ったとか?
様々な憶測を立てながら人込みを巡り歩く。
すると、先ほど城門の前で罵ってきた貴族の姉妹を見つけた。
彼女らは私の顔を知っている。あまり近づかないようにしよう。
このことをヒリアさんにも報告しようと考えたが、生憎彼女の姿は見当たらない。割と遠くに離れてしまっているようだ。
私は姉妹に見つからないように回り道をする。
しかし大体のテーブルは見回ったが、お兄ちゃんは居なかった。もしかしたらヒリアさんの方で見つけたかもしれない。
担当のテーブルはあと一つ。誰かに怪しまれず、且つ誰にも話しかけられないように注意しながら歩く。
珍しいことに、最後のテーブルには誰の姿もなかった。
ちょうどいい、歩き疲れたので少し休憩でもしていこう。
本来私にとっては少し高めのテーブルでも、今はヒールのおかげでちょうどいい高さになっている。
周りを警戒しながら、恐る恐る覗くように見てみると……
「苺だ!!!!」
とっても美味しそうな苺がバスケットを模したような入れ物に入っていた。その中には林檎やキウイフルーツ、マスカットなども入っていたが、私はその中から苺だけを両手に一つづつ取る。
そう、私は苺が世界で一番好きな食べ物なのだ! しかもこれは高級品種っぽい!
お兄ちゃんを探していることなどお構いなしに片手の一つを頬張る。するとすぐに甘さと酸っぱさが顔中の神経へと伝達され……
「……んんーおいしいぃいぃいー!」
僅かながらに残っている理性で張り上げそうな声を抑える。
上がった広角は今日中に元通りになるかどうか。きっと私は一生分の幸せを使い切ったような顔をしていることだろう。
「そうですねーとっても美味しいです!」
「でしょでしょ! まだまだいっぱいあるから一緒に食べましょ?」
こんなにおいしい苺はそうそう食べることができないだろう。
折角だからと隣で食べている人にもいっぱい勧める…………隣の人?
「はっ!」
しまった! 人と接触してしまった! でもまだ大丈夫、適当にごまかして何とか切り抜けられる筈!
私はシャルロット・ペロー。ペロー家のお嬢様!
心の中で出来てるかどうかも分からない自己暗示を繰り返した後に、いま話しかけてきた人物の方を向く。
――――かぼちゃの馬車の美少女だった。
「あ」
「あれ、貴女はさっき……」
ダメだ、彼女には先ほどドレスを着ていない姿を見られている。姉妹の方ばかりを気にかけてしまっていて完全に忘れてしまっていた。どうしよう……何とか説得するしかないか、しかしこの子がまともに事情を受け入れてくれるだろうか。最悪の場合、直ぐ係の人に見つかって牢獄に入れられるかも!?
「シャル?」
突然、後ろから声が掛かった。聞きなれた声……ヒリアさんだ。
「お母様」
……という設定なので、そう呼ぶ。
割と年齢も相応なので違和感は無いかもしれない。
しかしヒリアさんはシャルのお母さんという設定なので、私の場合は成長期だから先ほどの王様のように勘違いしてくれるかもしれないが、彼女は下手をしたら直ぐにバレてしまうのでは?
ヒリアさんは私を確認すると、今度は少女の方を向いた。
二人の目線が重なる。その光景は、何故か険悪な雰囲気を纏っているような気がした。
どうしてだろう。運命的に仲が悪いって訳でもなさそうだし、しかもあんなに人が良さそうだった少女は、一瞬だけだが睨みを利かせたようにも見えた。
「……あ」
少女が何かを言おうとした瞬間、周りから歓声が巻き起こった。
ここにある中で最も大きい扉が開かれ、その中から現れた最も煌びやかな服装をした青年が中央まで歩いてくる。
途中で目が合った人物全てに挨拶をして回り、やがて彼は中央のテーブルの前で止まった。
まるで童話に出てくるような整った顔立ちをした青年だった。その透き通った碧眼は、私たちの方を射止めるように見つめていた。
隣の少女は、瞳を輝かせていた。
この恐ろしく豪華で長い廊下を走るのは、貴族ではなく二人の庶民。そして今、舞踏会が開催されるであろう場所の扉の前まで来た。
「本当にバレないですかね……」
「こういうとこには自分のことしか見てないひねくれ女しかいないから大丈夫よ」
いつも通りの悪口で返答を返される。よし、調子は上々だ!
私たちはしれっと中に入る。幸い扉は開かれたままになっていたので、変に視線を受けることもなかった。
見渡せば三六〇度、ドレス、タキシード、ドレス、タキシード、ドレス、タキシード。
皆がやがやと食事を楽しんでいるようだ。良かった。正直、舞踏会での踊り方なんて全く分からないし、それに気づいた辺りからかなり緊張していた。でも油断は禁物。始まる前に早くお兄ちゃんを見つけて帰らなきゃ。
私は計画通りにヒリアさんに目配せをする。彼女は直ぐに状況を整理すると、こちらに指示を下す。
「シャル、ワタクシはあちらの方へ行ってきますわよ? オホホ」
「……は、はい」
すごく違和感を感じる喋り方……あれなら黙っていた方が自然なのではないか。
まずは手分けをして探し回るようだ。私はヒリアさんとは逆の方向へと歩き出す。
各テーブルでは男女が上品な仕草で料理を味わっている。卓上には、大きいお皿の真ん中にポツンと可愛らしいお肉が乗っていたり、まるで芸術品かのような装飾や構造をしたスイーツまであり、非常に食べることを躊躇われるものばかりが並んでいた。しかしそれらからは食欲をそそる旨味を纏った香りが漂ってくるため、お腹が鳴ってしまわないかを常に心配してしまう。
それにしてもお兄ちゃんは見当たらない。
あの銀色の鎧が目立たないということは、当然お兄ちゃんもタキシードか何かを着ているのだろう。
しかしお兄ちゃんには長髪を後ろで結んでいるという特徴もある。見たところ髪の長い人は女の人だけなので目立ちそうなものなのだが……もしかして潜入のために髪を切ったとか?
様々な憶測を立てながら人込みを巡り歩く。
すると、先ほど城門の前で罵ってきた貴族の姉妹を見つけた。
彼女らは私の顔を知っている。あまり近づかないようにしよう。
このことをヒリアさんにも報告しようと考えたが、生憎彼女の姿は見当たらない。割と遠くに離れてしまっているようだ。
私は姉妹に見つからないように回り道をする。
しかし大体のテーブルは見回ったが、お兄ちゃんは居なかった。もしかしたらヒリアさんの方で見つけたかもしれない。
担当のテーブルはあと一つ。誰かに怪しまれず、且つ誰にも話しかけられないように注意しながら歩く。
珍しいことに、最後のテーブルには誰の姿もなかった。
ちょうどいい、歩き疲れたので少し休憩でもしていこう。
本来私にとっては少し高めのテーブルでも、今はヒールのおかげでちょうどいい高さになっている。
周りを警戒しながら、恐る恐る覗くように見てみると……
「苺だ!!!!」
とっても美味しそうな苺がバスケットを模したような入れ物に入っていた。その中には林檎やキウイフルーツ、マスカットなども入っていたが、私はその中から苺だけを両手に一つづつ取る。
そう、私は苺が世界で一番好きな食べ物なのだ! しかもこれは高級品種っぽい!
お兄ちゃんを探していることなどお構いなしに片手の一つを頬張る。するとすぐに甘さと酸っぱさが顔中の神経へと伝達され……
「……んんーおいしいぃいぃいー!」
僅かながらに残っている理性で張り上げそうな声を抑える。
上がった広角は今日中に元通りになるかどうか。きっと私は一生分の幸せを使い切ったような顔をしていることだろう。
「そうですねーとっても美味しいです!」
「でしょでしょ! まだまだいっぱいあるから一緒に食べましょ?」
こんなにおいしい苺はそうそう食べることができないだろう。
折角だからと隣で食べている人にもいっぱい勧める…………隣の人?
「はっ!」
しまった! 人と接触してしまった! でもまだ大丈夫、適当にごまかして何とか切り抜けられる筈!
私はシャルロット・ペロー。ペロー家のお嬢様!
心の中で出来てるかどうかも分からない自己暗示を繰り返した後に、いま話しかけてきた人物の方を向く。
――――かぼちゃの馬車の美少女だった。
「あ」
「あれ、貴女はさっき……」
ダメだ、彼女には先ほどドレスを着ていない姿を見られている。姉妹の方ばかりを気にかけてしまっていて完全に忘れてしまっていた。どうしよう……何とか説得するしかないか、しかしこの子がまともに事情を受け入れてくれるだろうか。最悪の場合、直ぐ係の人に見つかって牢獄に入れられるかも!?
「シャル?」
突然、後ろから声が掛かった。聞きなれた声……ヒリアさんだ。
「お母様」
……という設定なので、そう呼ぶ。
割と年齢も相応なので違和感は無いかもしれない。
しかしヒリアさんはシャルのお母さんという設定なので、私の場合は成長期だから先ほどの王様のように勘違いしてくれるかもしれないが、彼女は下手をしたら直ぐにバレてしまうのでは?
ヒリアさんは私を確認すると、今度は少女の方を向いた。
二人の目線が重なる。その光景は、何故か険悪な雰囲気を纏っているような気がした。
どうしてだろう。運命的に仲が悪いって訳でもなさそうだし、しかもあんなに人が良さそうだった少女は、一瞬だけだが睨みを利かせたようにも見えた。
「……あ」
少女が何かを言おうとした瞬間、周りから歓声が巻き起こった。
ここにある中で最も大きい扉が開かれ、その中から現れた最も煌びやかな服装をした青年が中央まで歩いてくる。
途中で目が合った人物全てに挨拶をして回り、やがて彼は中央のテーブルの前で止まった。
まるで童話に出てくるような整った顔立ちをした青年だった。その透き通った碧眼は、私たちの方を射止めるように見つめていた。
隣の少女は、瞳を輝かせていた。
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