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第三章 勇者ああああと壊れた城の灰かぶり

3-11 秋の魔法講演会

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 枯れ葉残る街路樹や、山の嗄れた景色。――今は秋だろうか。

 外の世界では立春であった為、初めは大きく違和感を感じたが、それも慣れてくるほどにこの現状に適応しつつあった。

 落ち葉を踏み鳴らしながらやってきたのは、ガラスの少女が住む大きな屋敷。

 私たちは約束通りエラちゃんの家へと遊びに来ていたのだ。



「であるからして~」

「いーちゃんなんでそんなに畏まってるのさ」

「そこ! 私語は慎みなさい!」

 昨日教科書をいろいろ読んで覚えてきた知識を教授する。きちんと伝わっているかは分からないが、こうしてみると先生というのはなかなかに気持ちがいいものだ……!



「先生、そこはBではないですか?」

 調子に乗りすぎていたのか、すかさずエラちゃんが間違いを指摘する。

「え!? どこどこ? ……あっ、ここね!」

「あら~? いーちゃん大変そうだから手伝ってあげようか~?」

「大丈夫です!」

 ダメだ。このままじゃ全然うまくいかずにヒリアさんにバカにされる未来が待ち受けている……そうだ、少しやり方を変えてみよう!



「じゃあクイズ形式にします! Cランクの火の魔法は?」

「ファイアです!」

「正解!」

 間髪入れずにエラちゃんは答える。というかさっきから全て理解しているような素振りだが、もしかして私より魔法のことを知っているのではないか?



「次! 魔法のランクを一つ上げて発動させるための追加詠唱は何?」

「エルです!」

「正解!」

 なんという不覚! これはもう私が一番学力低い!

 だが次のはとっておきだ……教科書のコラムみたいなところに書いてあった、日常生活で全く役立たないであろう魔法を私は知っている……



「次! 広範囲にわたってヴァンパイア系の魔物を一撃で倒すことができる魔法は!?」

「サン!」

「正解……!」

 突き上げた拳と共に涙が散る……くっ、完全敗北。

「ちなみにサンはEXランクで、しかも魔力をかなり消費するからパーティ人数最低三人以上じゃないと使用を禁止されてるんだよね~救助担当が必要ってことだね~」

「私にも解説させてください!」



 なんだかヒリアさんに全部持っていかれた感じがする……

「いーちゃん嫁いびりだー」

「こ、このこじゅうとめー?」

「エラちゃん!?」

 まさかエラちゃんが私を罵倒するなんて……と思ったがこれは確実にヒリアさんの差し金であろう。

「もう! 私はお兄ちゃんとの交際は認めてませんからね!」

 騒がしい授業は続いていく。きっと、エラちゃんの家族が帰ってくるまで。



 ふと、何処からか視線を感じたような気がした。でも辺りを見渡しても怪しい人はいない。お兄ちゃんはまた何かの調合や整理をしてるし……きっと気のせいかな。



   ・・・・・



 闇に包まれた大きな一室にて、一人の女性が微睡んでいた。

 その部屋には崩れた天井から一筋の光が差し、女の座る玉座を明るく照らす。



「ってことは、私、エラ、いーちゃんの順で頭がいいってことね~」

「はっきり言わないでくださいよ!」

 ――ああ、懐かしい記憶だ。

 女は正面に浮かぶ光の球体を眺めながら思う。内側には、落ち葉の広場で戯れる三人の姿が映っていた。



 ――みんなで勉強頑張りましょう、だったか。

 女は少しばかり微笑み、思い出を頼りに、次に来るであろう台詞を反芻する。

「大丈夫です! みんなで勉強頑張りましょう!」

 その中で起きることを女は全て予測していた――否、記憶していた。

 だが、やがて女は気づく。こんな記憶が存在していたか、と。



「おかしい。なんだこの記憶は、こんなものは無かった」

 ようやく口を開いた彼女は目を見開き、光の中の映像を凝視する。

 彼女はとても不思議な感覚を覚えていた。それはこの映像が自分の記憶であるものだという感覚と、偽の記憶だという感覚が混在している為だ。

 混乱していたため一度思考を落ち着かせ、目を細めつつ、また考え始める。



「また遭難者か? しかしそれなら違和感だけが浮かぶはずだ。これは一体……」

 この不気味な感覚の正体が分からず、玉座に座ったまま眉を寄せて辺りを探る。

 そこには奇妙なものが映った。あまりにも周囲とオーラが違うものがそこにはあった。――こんな、”私の夢の中“にあってはならない異物を発見した。それは、ある一人の男が携えている。

 背中を見せていたその男は突然翻り、女がいる方向へと視線を向けた。
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