14 / 23
14
しおりを挟む14
王の居る執務室に続く廊下を、早足で向かう。
途中で文官や、女官に頭を下げられても、今回ばかりは手を軽く上げて通り過ぎる。
執務室の扉の前に立つ近衛達が、俺を見て静かに扉を開け、前室にいる侍従に連絡をし、
「今、謁見が終わった所ですので、どうぞお入りになって下さい。」
侍従が執務室の扉を開けたので、中に入っていくと、兄上である陛下と、ルーの父上で宰相であるナーヴァス公爵が居た。
「どうした?ライ。」
「今、大丈夫ですか?」
兄上が、俺をライと呼ぶ時はプライベートなので、宰相が、
「私は、席を外しますね。」
「いや、宰相もいてくれ。ルーの事だ。」
「あぁ、お聞きになりましたか。」
「今、聞いた。だから、俺も付いて行こうかと、思ってる。」
「「はっ?」」
兄上と、宰相の声が重なる。
「まて、まてまてまて。ライ、何言ってるんだ?付いて行く?話が見えないんだが」
まだ、兄上はルーの留学の事は、聞いてないのか?
俺が、宰相の方を見ると、
「今から、陛下には話をしようと思ってたんですが。」
「ん?ルーがどうかしたのか?」
「いえ、ルーカスが医師を目指したいと言い出したものですから。」
「なっ!ルーが?何故?」
「まぁ、ルーカスなりに色々考えていたみたいなんですが、やっと自分が出来る事を見つけたみたいでして、帝国に勉強の為に留学を決めたんです。」
「ほぅ、そうなのか。ルーがねぇ。しかし身体の方は、大丈夫なのか?」
「えぇ、快方に向かっているみたいで、そちらは問題ないらしいです。親としては、心配ですがね。」
「そうか。そうか。それは良かった。が留学となると、また心配ではあるな。で?ライ。付いて行くとは?」
「あ、いや、試験の為に帝国に行くのに付いて行ければと。」
「ふっ、なるほど。ルーが心配か?」
「あー、ん。そうだ。心配で、何も手につかない。」
「まぁ、ライの気持ちもわからない事ではないが。んー、宰相。どうだ?」
「殿下、ありがとうございます。ルーカスを心配して頂きまして。ですが、ルーカスはもう成人になりました。自立する時期なんだと思っています。寂しいですが。親としても、ルーカスを応援してやりたいと思います。ですので、試験にはルーカスを1人で行かせてやりたいのですが?」
「・・・・・」
そう言われて、返す言葉がない。
その気持ちもわかる。
わかるのだが・・・・
ルーに会えないのが、辛すぎる。
どうしたらいいのか。
本当の事を言えば、留学だって一緒に住めたらいい、とか、考えてはいるが、それは無理だと承知してる。
だから、せめて試験の時には一緒にいてやりたい。
いや、俺が一緒に居たいんだ。
すると、兄上が
「なぁ、宰相。いや、ルーの父として話をするが、ルーにとって初めての場所は不安だろう。せめて試験の時くらいは、心の安定の為に近しい者がいる方が試験も、緊張せずに受けられると思うのだが。どうだろう、考えて見てくれないか?」
いいぞ!兄上!!
「・・・そうですね。わかりました。殿下ルーカスをよろしくお願いします。」
「ありがとう。すまない。俺の我儘だ。」
「いえ、殿下がルーカスの事を大切にしてくれている事は、嬉しいですから。殿下聞いても宜しいですか?」
「ん?何だ?」
「殿下は、ルーカスの事をどう思っていらっしゃるのでしょうか?」
「~っ!あ、うん。えっと、なぁ、はっきり言うぞ!俺は、ルーの事を愛してる。恋愛的な意味で!結婚したいくらいに、愛してる。」
「・・・やはり、そうですか。」
「いや、俺の一方通行だからな。今は、まだ伝える気はないから。」
「はっ?どうしてです?」
「今は、ルーが、やっと見つけた事で頑張っているから。俺が伝えた事によって、違う事に悩みを持たせるのは、ルーの負担になるかもしれないだろ?だから、今は医師になる事だけを考えて、頑張ってもらいたいんだ。」
「ふふっ、ありがとうございます。そこまで、ルーカスの事を考えて下さっていたのですね。幸せ者ですねルーカスは。」
宰相は、嬉しそうに頷く。
俺は、拒否されない事に安堵の溜め息を吐く。
それからは、日程の調整や公務の内容に合わせ、兄上と宰相が負担してくれる事となり、この恩は必ず倍にして返すと心の中で誓った俺だった。
ルーの試験の日まで、俺は仕事に追われてルーに会えない日々が続いたのだった。
そんなルーに会えない日々が終わり、試験に向かう日がやってきた。
皆に見送られて、帝国へ出発した。
これからは、ルーと一緒にいれる日々に俺は、幸せを噛み締めるのだった。
42
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる