健気な公爵令息は、王弟殿下に溺愛される。

りさあゆ

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王の居る執務室に続く廊下を、早足で向かう。
途中で文官や、女官に頭を下げられても、今回ばかりは手を軽く上げて通り過ぎる。

執務室の扉の前に立つ近衛達が、俺を見て静かに扉を開け、前室にいる侍従に連絡をし、
「今、謁見が終わった所ですので、どうぞお入りになって下さい。」
侍従が執務室の扉を開けたので、中に入っていくと、兄上である陛下と、ルーの父上で宰相であるナーヴァス公爵が居た。

「どうした?ライ。」
「今、大丈夫ですか?」
兄上が、俺をライと呼ぶ時はプライベートなので、宰相が、

「私は、席を外しますね。」
「いや、宰相もいてくれ。ルーの事だ。」
「あぁ、お聞きになりましたか。」
「今、聞いた。だから、俺も付いて行こうかと、思ってる。」

  「「はっ?」」

兄上と、宰相の声が重なる。

「まて、まてまてまて。ライ、何言ってるんだ?付いて行く?話が見えないんだが」

まだ、兄上はルーの留学の事は、聞いてないのか?
俺が、宰相の方を見ると、

「今から、陛下には話をしようと思ってたんですが。」

「ん?ルーがどうかしたのか?」
「いえ、ルーカスが医師を目指したいと言い出したものですから。」
「なっ!ルーが?何故?」
「まぁ、ルーカスなりに色々考えていたみたいなんですが、やっと自分が出来る事を見つけたみたいでして、帝国に勉強の為に留学を決めたんです。」
「ほぅ、そうなのか。ルーがねぇ。しかし身体の方は、大丈夫なのか?」
「えぇ、快方に向かっているみたいで、そちらは問題ないらしいです。親としては、心配ですがね。」
「そうか。そうか。それは良かった。が留学となると、また心配ではあるな。で?ライ。付いて行くとは?」

「あ、いや、試験の為に帝国に行くのに付いて行ければと。」
「ふっ、なるほど。ルーが心配か?」
「あー、ん。そうだ。心配で、何も手につかない。」
「まぁ、ライの気持ちもわからない事ではないが。んー、宰相。どうだ?」

「殿下、ありがとうございます。ルーカスを心配して頂きまして。ですが、ルーカスはもう成人になりました。自立する時期なんだと思っています。寂しいですが。親としても、ルーカスを応援してやりたいと思います。ですので、試験にはルーカスを1人で行かせてやりたいのですが?」

「・・・・・」

そう言われて、返す言葉がない。
その気持ちもわかる。
わかるのだが・・・・
ルーに会えないのが、辛すぎる。
どうしたらいいのか。
本当の事を言えば、留学だって一緒に住めたらいい、とか、考えてはいるが、それは無理だと承知してる。
だから、せめて試験の時には一緒にいてやりたい。
いや、俺が一緒に居たいんだ。

すると、兄上が

「なぁ、宰相。いや、ルーの父として話をするが、ルーにとって初めての場所は不安だろう。せめて試験の時くらいは、心の安定の為に近しい者がいる方が試験も、緊張せずに受けられると思うのだが。どうだろう、考えて見てくれないか?」

いいぞ!兄上!!

「・・・そうですね。わかりました。殿下ルーカスをよろしくお願いします。」

「ありがとう。すまない。俺の我儘だ。」
「いえ、殿下がルーカスの事を大切にしてくれている事は、嬉しいですから。殿下聞いても宜しいですか?」
「ん?何だ?」
「殿下は、ルーカスの事をどう思っていらっしゃるのでしょうか?」
「~っ!あ、うん。えっと、なぁ、はっきり言うぞ!俺は、ルーの事を愛してる。恋愛的な意味で!結婚したいくらいに、愛してる。」

「・・・やはり、そうですか。」
「いや、俺の一方通行だからな。今は、まだ伝える気はないから。」
「はっ?どうしてです?」
「今は、ルーが、やっと見つけた事で頑張っているから。俺が伝えた事によって、違う事に悩みを持たせるのは、ルーの負担になるかもしれないだろ?だから、今は医師になる事だけを考えて、頑張ってもらいたいんだ。」
「ふふっ、ありがとうございます。そこまで、ルーカスの事を考えて下さっていたのですね。幸せ者ですねルーカスは。」

宰相は、嬉しそうに頷く。
俺は、拒否されない事に安堵の溜め息を吐く。

それからは、日程の調整や公務の内容に合わせ、兄上と宰相が負担してくれる事となり、この恩は必ず倍にして返すと心の中で誓った俺だった。

ルーの試験の日まで、俺は仕事に追われてルーに会えない日々が続いたのだった。
そんなルーに会えない日々が終わり、試験に向かう日がやってきた。

皆に見送られて、帝国へ出発した。
これからは、ルーと一緒にいれる日々に俺は、幸せを噛み締めるのだった。
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