騎士隊長と黒髪の青年

朔弥

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騎士隊長と黒髪の青年

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 ───── やられた

 異世界から来た彼が隊服に着替えるのを待ちながら、アシュレイは不機嫌そうに眉間に皺をよせた。
 彼に何かあれば、護衛を任された第一騎士団隊長である自分が責任を取る事になるだろう。自分一人の責任で済めば良いが、責任の追求のされ方によっては隊全員の首が飛ぶかもしれない。
 彼の護衛を第一騎士団で担うよう進言した近衛団は、何かと第一騎士団を目の敵にしていた。今回の件を利用して、アシュレイを失脚させると同時に隊を潰そうとしてくるだろう。


「ちょっ!これを着るとか無理ですって!もっとシンプルなのにして下さいよ·····」
 先程から着る着ないの押し問答を繰り返している声に、
「いい加減に諦めろ ──·····」
と、視線を向けたアシュレイは、彼の少し恥ずかし気に困った表情に目を奪われた。
 参ったな·····と、目に少しかかる前髪を掻き上げる仕草には艶っぽい色香が漂う。
 騎士のように鍛えられていない躰は華奢で、うなじに流れる漆黒の黒髪は肌の白さを際立たせていた。

 これは·········

 不味い事になった、とアシュレイは額に手を当て当惑した。
 騎士団には当たり前だが男しかいない。魔物討伐に出れば長期的な任務となるし、騎士団の宿舎で多くの時間を費やす若き隊員達の性欲は同じ隊員へと向けられる事は珍しくない。ましてや、この国では同性の婚姻は認められている。

 彼の色香にあてられる奴が何人出てくるか····

 あの華奢な躰では、鍛えられた隊の連中に押さえ込まれれば大した抵抗も出来ないだろう。
 騎士団の中で凌辱されたとなれば、近衛団にとって第一騎士団を弾圧するには格好の餌だ。

 
 ジェラール団長の奴、これも踏まえて騎士団に寄越しやがったな·····
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