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騎士隊長と黒髪の青年
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騎士団の隊服に着替えさせられ、騎士団の宿舎へと案内されている莉人はアシュレイの後ろを歩きながら、心の中で大きな溜息を吐いた。
27歳のサラリーマンがこの格好はねぇだろ····
白を基調とした隊服はモデルのようなイケメンが着れば様になるのだろうが、とても自分に着こなせるとは思えない。
スラックスにワイシャツでいいと言ってみたが、あっさり却下されてしまった。自室や休みの日などは着なくていいようだが、この隊服で日々過ごすのは苦痛だ。
そして、なにより重い····。
これを着てさっさと自分の前を歩いていく隊長様に遅れない様について行くだけで息が切れそうだ。
いい加減、休ませてくれねえかな····
王城からこの宿舎までも遠かったが、宿舎内も鍛錬場や食堂、途中で自室にも案内されたが、自分がどこをどう歩いているかなど分からないくらい広い。疲労の溜まってる躰にはしんどかった。
迷子になる自信しかねぇよ······
二度目の溜息を吐いた時、アシュレイの足が止まった。
「ここが第一騎士団の執務室だ」
部屋の中には中央にテーブルとソファー、その奥には書類に埋もれたデスクが1つ置かれているといったシンプルなものだった。
「隊長~、他の隊の連中からうちに黒髪美人が入ってズルいって煩いんスけど、どうなってんですか?」
ドアが勢いよく開けられ、明るいオレンジの少し癖のある髪を束ねた青年が入ってきた。
「ルーク、扉を勢いよく開けるな。また壊す気か?」
アシュレイに睨まれ、ルークは
「悪ぃ、悪ぃ」
と、あまり悪怯れる様子もなく笑っている。
「アシュレイ、殿下からの呼び出しで何があったんですか?」
ルークの後ろから、続いて3人の騎士が部屋へと入って来ると、流れるような銀色の長い髪を肩口で緩く紙紐で結んだ青年が問いかけた。
一瞬、女性かと思ってしまうほど中性的な綺麗な顔立ちをしているが、やはり騎士というだけあって引き締まった躰つきである事が隊服を着ていてもわかる。
そんな彼と莉人は視線が合った。
「彼は·····」
「グレース、今から説明する。彼は聖女様召喚の際に巻き込まれ、一緒にこの世界へ来てしまった·····」
言葉を途切れさせたアシュレイは莉人を見る。
ん?
········ああ、俺、名乗ってなかったか
「高梨莉人。莉人だ」
「彼はうちの第一騎士団で預かる事になった」
そしてアシュレイは莉人に向かって、
「リヒト、彼がうちの副隊長のグレースだ。第一騎士団は少し特殊で俺を含め5人しかいない。少数の部隊だが、剣や魔法に優れた者が集められている。さっき煩く入ってきた奴がルーク。そこの一番体格の良い奴がクラウス」
寡黙そうな男がペコリと頭を下げた。
「その隣がうちの最年少のリディオだ」
小柄な少年はじっと莉人を見ている。その瞳に僅かに敵意のようなものを感じるのは気の所為だろか·····。
「へえ····確かに黒髪美人だ」
ルークが近づき、ジロジロと人の顔を見た後、不意に腰を掴んだ。
「ちょっ······」
「華奢····っていうより細すぎねえ?お前、ちゃんと食ってんの?」
残業の毎日で夕食などまともに食べているわけない。
「あ ───······酒とつまみくらいか?」
「そんなんで剣とか使えるのかよ」
「剣って·····そんなもの使った事ねえよ······」
そんなものを振り回した日には銃刀法違反で捕まってしまう。
「魔法は?」
「使えるわけないだろ」
ルークはまじまじと見つめた。
「お前····よく死なずに生きてこれたな」
「········」
もう説明するのも面倒で莉人は黙っていた。
「ルーク、彼はこの世界とは違う世界から来ているんですよ?我々とは違う事も多いでしょうから、あまり困らせてはいけませんよ」
グレースが莉人からルークを引き離した。
「ところでアシュレイ、彼をうちの隊で預かるとは、具体的にどうするんです?見たところ戦闘向きでもないようですが·········」
ルークの首根っこを掴んだまま、グレースはアシュレイに問いかける。
「当面の間は部屋にいる時以外は、うちの隊の誰かが彼についてもらうが·····具体には何も決まっていない。取り敢えず、彼の身の安全を最優先に任務にあたってくれ」
「はあ?なんでうちの隊が面倒見るわけ?自分の身も守れないお姫様をお守りする程暇じゃないんだけど」
棘のある言い方でリディオは冷たい視線を莉人に投げかけた。
「リディオ、これは近衛団から回ってきた話しだ」
アシュレイが近衛団の名を口にした途端、その場にいた莉人以外の全員に緊張が走り、空気がピリついた。
「ッ·····あの団長、まだうちを潰すの諦めてないんだ」
黙っていれば可愛らしい美少年で通りそうなリディオの口から舌打ちが漏れ、忌々しそうに呟いた。
使えない新入社員をたらい回しにされてる気分だな·····
と、彼らのやり取りを見ていた莉人はぼんやり考えていた。
自分がお姫様呼ばわりされた事や、ここは腕のたつ騎士団がいる宿舎だろ?そんな中で大の大人が護衛されないといけないのか?と言いたい事はあるのだが、頭がうまく働かない。
部屋の中は明るい筈なのに、なんだか暗く感じる。
そういえば俺、ずっと残業続きで疲れが溜まってるうえに、深夜の帰宅中にここに連れてこられたけど、今何時だよ····散々、歩かされたし····
頭の芯から痺れるような眠気に、莉人は一瞬、目眩を感じた。
·····マジで限界かも·········
「リヒト?」
異変を感じ取ったアシュレイは莉人に声をかける。そして彼の青ざめた顔色を見るなり、
「リヒト!!」
名を叫んで駆け寄るのと同時に、莉人は意識を手放し崩れ落ちた。
27歳のサラリーマンがこの格好はねぇだろ····
白を基調とした隊服はモデルのようなイケメンが着れば様になるのだろうが、とても自分に着こなせるとは思えない。
スラックスにワイシャツでいいと言ってみたが、あっさり却下されてしまった。自室や休みの日などは着なくていいようだが、この隊服で日々過ごすのは苦痛だ。
そして、なにより重い····。
これを着てさっさと自分の前を歩いていく隊長様に遅れない様について行くだけで息が切れそうだ。
いい加減、休ませてくれねえかな····
王城からこの宿舎までも遠かったが、宿舎内も鍛錬場や食堂、途中で自室にも案内されたが、自分がどこをどう歩いているかなど分からないくらい広い。疲労の溜まってる躰にはしんどかった。
迷子になる自信しかねぇよ······
二度目の溜息を吐いた時、アシュレイの足が止まった。
「ここが第一騎士団の執務室だ」
部屋の中には中央にテーブルとソファー、その奥には書類に埋もれたデスクが1つ置かれているといったシンプルなものだった。
「隊長~、他の隊の連中からうちに黒髪美人が入ってズルいって煩いんスけど、どうなってんですか?」
ドアが勢いよく開けられ、明るいオレンジの少し癖のある髪を束ねた青年が入ってきた。
「ルーク、扉を勢いよく開けるな。また壊す気か?」
アシュレイに睨まれ、ルークは
「悪ぃ、悪ぃ」
と、あまり悪怯れる様子もなく笑っている。
「アシュレイ、殿下からの呼び出しで何があったんですか?」
ルークの後ろから、続いて3人の騎士が部屋へと入って来ると、流れるような銀色の長い髪を肩口で緩く紙紐で結んだ青年が問いかけた。
一瞬、女性かと思ってしまうほど中性的な綺麗な顔立ちをしているが、やはり騎士というだけあって引き締まった躰つきである事が隊服を着ていてもわかる。
そんな彼と莉人は視線が合った。
「彼は·····」
「グレース、今から説明する。彼は聖女様召喚の際に巻き込まれ、一緒にこの世界へ来てしまった·····」
言葉を途切れさせたアシュレイは莉人を見る。
ん?
········ああ、俺、名乗ってなかったか
「高梨莉人。莉人だ」
「彼はうちの第一騎士団で預かる事になった」
そしてアシュレイは莉人に向かって、
「リヒト、彼がうちの副隊長のグレースだ。第一騎士団は少し特殊で俺を含め5人しかいない。少数の部隊だが、剣や魔法に優れた者が集められている。さっき煩く入ってきた奴がルーク。そこの一番体格の良い奴がクラウス」
寡黙そうな男がペコリと頭を下げた。
「その隣がうちの最年少のリディオだ」
小柄な少年はじっと莉人を見ている。その瞳に僅かに敵意のようなものを感じるのは気の所為だろか·····。
「へえ····確かに黒髪美人だ」
ルークが近づき、ジロジロと人の顔を見た後、不意に腰を掴んだ。
「ちょっ······」
「華奢····っていうより細すぎねえ?お前、ちゃんと食ってんの?」
残業の毎日で夕食などまともに食べているわけない。
「あ ───······酒とつまみくらいか?」
「そんなんで剣とか使えるのかよ」
「剣って·····そんなもの使った事ねえよ······」
そんなものを振り回した日には銃刀法違反で捕まってしまう。
「魔法は?」
「使えるわけないだろ」
ルークはまじまじと見つめた。
「お前····よく死なずに生きてこれたな」
「········」
もう説明するのも面倒で莉人は黙っていた。
「ルーク、彼はこの世界とは違う世界から来ているんですよ?我々とは違う事も多いでしょうから、あまり困らせてはいけませんよ」
グレースが莉人からルークを引き離した。
「ところでアシュレイ、彼をうちの隊で預かるとは、具体的にどうするんです?見たところ戦闘向きでもないようですが·········」
ルークの首根っこを掴んだまま、グレースはアシュレイに問いかける。
「当面の間は部屋にいる時以外は、うちの隊の誰かが彼についてもらうが·····具体には何も決まっていない。取り敢えず、彼の身の安全を最優先に任務にあたってくれ」
「はあ?なんでうちの隊が面倒見るわけ?自分の身も守れないお姫様をお守りする程暇じゃないんだけど」
棘のある言い方でリディオは冷たい視線を莉人に投げかけた。
「リディオ、これは近衛団から回ってきた話しだ」
アシュレイが近衛団の名を口にした途端、その場にいた莉人以外の全員に緊張が走り、空気がピリついた。
「ッ·····あの団長、まだうちを潰すの諦めてないんだ」
黙っていれば可愛らしい美少年で通りそうなリディオの口から舌打ちが漏れ、忌々しそうに呟いた。
使えない新入社員をたらい回しにされてる気分だな·····
と、彼らのやり取りを見ていた莉人はぼんやり考えていた。
自分がお姫様呼ばわりされた事や、ここは腕のたつ騎士団がいる宿舎だろ?そんな中で大の大人が護衛されないといけないのか?と言いたい事はあるのだが、頭がうまく働かない。
部屋の中は明るい筈なのに、なんだか暗く感じる。
そういえば俺、ずっと残業続きで疲れが溜まってるうえに、深夜の帰宅中にここに連れてこられたけど、今何時だよ····散々、歩かされたし····
頭の芯から痺れるような眠気に、莉人は一瞬、目眩を感じた。
·····マジで限界かも·········
「リヒト?」
異変を感じ取ったアシュレイは莉人に声をかける。そして彼の青ざめた顔色を見るなり、
「リヒト!!」
名を叫んで駆け寄るのと同時に、莉人は意識を手放し崩れ落ちた。
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