騎士隊長と黒髪の青年

朔弥

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すれ違い (拘束)

 夕食はリディオと取る事が日課となりつつある莉人は、食堂で彼と食事を取っているのだが、その食は殆ど進まず深い溜息ばかりをいていた。
 莉人の前の席で肉料理にフォークを突き立てながら、リディオ少しうんざりした表情で、
「···あのさ、何で喧嘩してんのか知らないけど、さっさと仲直りしてくんない?」
 隊長の殺気が半端じゃないんだよね···と、こちらも溜息を洩らす。
「あの人、鬼だよ!鬼!鍛錬たんれんの量は倍になるし隊長自ら指導してやるって···容赦ないんだよ!」
 とんだとばっちりだ、とジロリと莉人を恨めしそうに見つめた。

 あの日以来、アシュレイと躰を触れ合う事は勿論、殆ど会話も交わしていない。

 アイツがあんな事するから···

 いや、理由はそれだけではないが。莉人はどうすればいいか、考えあぐねていた。
「····リディオはさ···言える?その···あ、愛···」

 ···俺は何を言っているんだ

 莉人は自分で言っていて恥ずかしくなり、手で額を覆った。27にもなって年下の···しかも少年に恋愛相談って···。
「何でもない···忘れてくれ」
 莉人は手をかざしながら言った。そしてテーブルの上に力なく置いた。その右手を見ながら莉人は以前の生活をふと思い出した。右手には何時もスマホが握られ、暇さえあればいじっていた事を。
 莉人はスマホを持つ仕草をした。

 ああ···そうだ
 スマホで相手の顔を見る事なくメッセージが送れたんだった···
 この世界には それがない
 言葉で直接伝えるしかないんだ ───···

 莉人は掌を握りしめた。
 何気なく送っていたメッセージでフォロー出来ていたから、言葉を口にしなくても相手に伝えられていた。口にしなくても伝わるなんて···

 思い上がりもいいところだ

 だからといって、人間そんなに簡単には変われない。言葉で伝えるのが難しいのなら、他の方法を考えるしかない。
 暫く考えていた莉人だが、部屋の机の引き出しにグレースから受け取った給料が使い道もなく眠っている事に気づいた。
「あのさ、買い物に行きたいんだけど、どうすればいい?アシュレイには内緒で」
「え···」
 アシュレイに内緒という言葉にリディオは顔を引き攣らせた。
「頼むから巻き込むなよ!隊長に内緒でとか···無理!俺まだ死にたくないもん!」
「内緒じゃなきゃ意味ないっていうか···」
 喧嘩中の本人にプレゼント買いたいから連れてってなんて間抜けすぎるだろ。
「大体、買い物って?何買いたいんだよ···」
 何だかんだ言いながらも、聞いてくれようとするリディオに、ネックレスなら服の中に隠れるから着けていても邪魔にはならないだろうと考え、装飾品の売っている店に行きたい事を伝えた。
「それならルークに聞いた方がいいよ。アイツ、いつも女の子に贈り物して口説いてるから」
「おい、リディオ。お前いつも先輩を敬えって言ってんだろ。何だよ俺がいつも女口説いてるって」
 いつの間に近くに来ていたのか、ルークはリディオの隣に座った。
「事実だろ!敬えるような先輩になったら考えてあげてもいいけどな」
 ふん、とそっぽを向く。
「で?リヒトは隊長に何贈りたいわけ?」
「ああ、ネックレ···スで分かる?···首飾り?みたいな。なるべく装飾が少ない感じのを探したいんだけど」
 シンプルなデザインの物がいいと説明すると、ルークに伝わったようで快諾かいだくしてくれた。
「いい店知ってるから、明日にでも行ってみる?俺もそろそろ隊長の鬼の鍛錬から逃げたいしなー、リディオ」
 そこから聞いていたのかよ、とリディオは隊長の不満を口にしていた事を聞かれた事に舌打ちした。
「お前、明日は隊長に稽古つけてもらえよ。グレースにも協力頼んどいてやるから、足止めよろしくな!」
「何で俺がっ···」
「だってお前が隊長に指導して欲しいってお願いするのが一番自然だろ?俺は店案内するし、グレースやクラウスは隊長と互角くらいの腕だろうが。鬼隊長って呼んでた事、黙っててやるからさ」
「っ···分かったよ!リヒト!今度何か奢らせるからな!!」
 分かったと頷きながら、鬼隊長の鍛錬···すまん、と莉人は心の中で手を合わせた。


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