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魅惑の香り
3
執務室の入口に視線を向けなくても分かる。
腕を組み、怒りを滲ませた瞳でこちらを見つめながら口元に薄っすらと冷たい笑みを浮かべているアシュレイの姿が。
「た···い長···これは···」
青ざめた顔でリディオは口籠り、香水の香りで理性を失っていたルークですら、アシュレイの怒気溢れる威圧感を感じ取り動きが止まる。
しんと静まりかえった室内に近づいてくるアシュレイの靴音がコツコツと床に響いた。
「多少、いい加減な行動にも大目にみてきたが、もう少し規律を正すべきだったな。勝手に押収した物を触って術にかかるとは···」
アシュレイは莉人に抱きついているルークの肩を掴み引き離すと、みぞおちに拳を食らわせた。
「──ぐっ···」
小さく呻き、ルークは膝から崩れ落ちる。
「リディオ。コイツをそこのソファーに寝かせてやれ。目が覚めたらリヒトがやる筈だった書類整理、終わるまで帰らせるな」
意識を手放したルークの躰をアシュレイから受け渡されたリディオは、言われた処罰の軽さに意外だと言わんばかりの視線を向けた。莉人に手を出した隊員は魔物討伐の前線送り。そんな噂(ほぼ事実)が囁かれている中での処遇に戸惑いを隠せない。
そんなリディオの視線に気づいたアシュレイは、
「何だ、他の隊へ移動したいのか?生憎、第一は人手不足だからな。暫くは休み無しで働いてもらうぞ」
それで今回の件は終わりだ、と告げた。
流石にルークの意志ではない事を分かっているからか、と莉人は処罰が休日返上程度で留まった事にほっと安堵の表情を浮かべた。
「リヒト」
名前を呼ばれ莉人はアシュレイに視線を向けた。
ルークの処罰が軽かった為に安心しきっていたが、アシュレイの感情を読み取れない瞳をみた瞬間、彼がかなり怒っている事を悟った。
······俺は巻き添えくっただけだろうが
自分だけに怒りを向けられる事に納得出来ない。
「何だよ···ちゃんと抗ってただろ」
不服そうにムッとした表情をする莉人の腕をアシュレイは強く掴んだ。
「お前はまずその香りを落とせ」
そう言うなりアシュレイは莉人の腕を掴んだまま歩き出す。
「ちょっ···言われなくったってシャワー浴びに行くつもりだって」
何で連れられて行かなきゃいけないんだよ、と文句を言いながら掴まれている手を振り解こうとするが、簡単に振り払う事など出来る筈もなく、引っ張られるようにして自分の部屋の前まで辿り着いた。
部屋のドアを開け、シャワー室へと進むと服を着たままの状態で乱暴に中へ押し込められる。
「何でお前まで入ってくんだよ!」
当たり前のように狭いシャワー室へ入って来たアシュレイに莉人は焦りながら言った。
「何でって···いつまでもお前に付いている他の男の香りをそのままにしておけないだろ」
「···は?他の男って···香水の香りだろうが!」
変な言い方するな!とキッとアシュレイを睨めつけた。アシュレイはチラリと莉人を一瞥しながらシャワーのコックを捻った。
冷たい水が勢いよく降り注ぐ。
「冷たっ!」
シャワーの温度を上げないままかけられた莉人は思わず悲鳴を漏らした。
降り注ぐシャワーから逃げ出そうとした莉人の躰をアシュレイは両方腕を手で押さえ込み、太腿の間に自分の足を差し入れ動きを封じる。
「──·· つ!アシュレイ、いい加減にしろよ!離せって!」
彼の拘束から逃れようと莉人は躰を捻るように身動ぐが、びくともしない。
抗うその間にもシャワーの水は容赦なく莉人の頭から濡らしていった。
「俺以外の香りがリヒトからするのは···許せないな」
アシュレイもシャワーの水をその身に浴びながら莉人を見つめる。
「分かった···から···。ちゃんと洗い流す。だから···一人で入らせろよ」
「······」
シャワーが躰に当たる音だけが響き、降り注ぐ水が莉人の髪を伝い顔を、躰を濡らしていった。
沈黙が長く感じられる。
「······アシュレイ」
焦れた莉人は少し苛立ちの滲んだ声で名前を呼んだ。
「分かっている···。ルークはただ術に当てられただけだって事は。だが、分かっていても感情は···ついていかない···。駄目なんだ···」
腕を掴む手に力が込められ、痛みに莉人は眉を歪ませた。
自分より背の高いアシュレイの顔を見上げる。彼の髪の先からパタパタと雫が滴り落ち、唇に落ちた雫はそのまま莉人の口の中へと入り込む。
「俺だけの香りを刻みつけるまで離さない──···」
射抜くような視線が突き刺さる。
嫉妬に揺れるその瞳の強さに莉人は一瞬びくんと躰を強張らせた。
腕を組み、怒りを滲ませた瞳でこちらを見つめながら口元に薄っすらと冷たい笑みを浮かべているアシュレイの姿が。
「た···い長···これは···」
青ざめた顔でリディオは口籠り、香水の香りで理性を失っていたルークですら、アシュレイの怒気溢れる威圧感を感じ取り動きが止まる。
しんと静まりかえった室内に近づいてくるアシュレイの靴音がコツコツと床に響いた。
「多少、いい加減な行動にも大目にみてきたが、もう少し規律を正すべきだったな。勝手に押収した物を触って術にかかるとは···」
アシュレイは莉人に抱きついているルークの肩を掴み引き離すと、みぞおちに拳を食らわせた。
「──ぐっ···」
小さく呻き、ルークは膝から崩れ落ちる。
「リディオ。コイツをそこのソファーに寝かせてやれ。目が覚めたらリヒトがやる筈だった書類整理、終わるまで帰らせるな」
意識を手放したルークの躰をアシュレイから受け渡されたリディオは、言われた処罰の軽さに意外だと言わんばかりの視線を向けた。莉人に手を出した隊員は魔物討伐の前線送り。そんな噂(ほぼ事実)が囁かれている中での処遇に戸惑いを隠せない。
そんなリディオの視線に気づいたアシュレイは、
「何だ、他の隊へ移動したいのか?生憎、第一は人手不足だからな。暫くは休み無しで働いてもらうぞ」
それで今回の件は終わりだ、と告げた。
流石にルークの意志ではない事を分かっているからか、と莉人は処罰が休日返上程度で留まった事にほっと安堵の表情を浮かべた。
「リヒト」
名前を呼ばれ莉人はアシュレイに視線を向けた。
ルークの処罰が軽かった為に安心しきっていたが、アシュレイの感情を読み取れない瞳をみた瞬間、彼がかなり怒っている事を悟った。
······俺は巻き添えくっただけだろうが
自分だけに怒りを向けられる事に納得出来ない。
「何だよ···ちゃんと抗ってただろ」
不服そうにムッとした表情をする莉人の腕をアシュレイは強く掴んだ。
「お前はまずその香りを落とせ」
そう言うなりアシュレイは莉人の腕を掴んだまま歩き出す。
「ちょっ···言われなくったってシャワー浴びに行くつもりだって」
何で連れられて行かなきゃいけないんだよ、と文句を言いながら掴まれている手を振り解こうとするが、簡単に振り払う事など出来る筈もなく、引っ張られるようにして自分の部屋の前まで辿り着いた。
部屋のドアを開け、シャワー室へと進むと服を着たままの状態で乱暴に中へ押し込められる。
「何でお前まで入ってくんだよ!」
当たり前のように狭いシャワー室へ入って来たアシュレイに莉人は焦りながら言った。
「何でって···いつまでもお前に付いている他の男の香りをそのままにしておけないだろ」
「···は?他の男って···香水の香りだろうが!」
変な言い方するな!とキッとアシュレイを睨めつけた。アシュレイはチラリと莉人を一瞥しながらシャワーのコックを捻った。
冷たい水が勢いよく降り注ぐ。
「冷たっ!」
シャワーの温度を上げないままかけられた莉人は思わず悲鳴を漏らした。
降り注ぐシャワーから逃げ出そうとした莉人の躰をアシュレイは両方腕を手で押さえ込み、太腿の間に自分の足を差し入れ動きを封じる。
「──·· つ!アシュレイ、いい加減にしろよ!離せって!」
彼の拘束から逃れようと莉人は躰を捻るように身動ぐが、びくともしない。
抗うその間にもシャワーの水は容赦なく莉人の頭から濡らしていった。
「俺以外の香りがリヒトからするのは···許せないな」
アシュレイもシャワーの水をその身に浴びながら莉人を見つめる。
「分かった···から···。ちゃんと洗い流す。だから···一人で入らせろよ」
「······」
シャワーが躰に当たる音だけが響き、降り注ぐ水が莉人の髪を伝い顔を、躰を濡らしていった。
沈黙が長く感じられる。
「······アシュレイ」
焦れた莉人は少し苛立ちの滲んだ声で名前を呼んだ。
「分かっている···。ルークはただ術に当てられただけだって事は。だが、分かっていても感情は···ついていかない···。駄目なんだ···」
腕を掴む手に力が込められ、痛みに莉人は眉を歪ませた。
自分より背の高いアシュレイの顔を見上げる。彼の髪の先からパタパタと雫が滴り落ち、唇に落ちた雫はそのまま莉人の口の中へと入り込む。
「俺だけの香りを刻みつけるまで離さない──···」
射抜くような視線が突き刺さる。
嫉妬に揺れるその瞳の強さに莉人は一瞬びくんと躰を強張らせた。
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