騎士隊長と黒髪の青年

朔弥

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魅惑の香り

4 ※

「アシュ···レイ···」
 莉人は小さく彼の名を口にした。
 時折、覗かせる強い独占欲。莉人は思わず逃げ腰になった。
「離さない···と言っただろ?」
 腕を掴んでいた手の片方が腰へとまわされ、引き寄せられる。
「逃げないから···アシュレイ、なにもこんな狭い所で···それに、このままじゃ風邪ひくだろ···」
 抱かれるにしても、せめてベッドに移動したかった。シャワーの水も莉人の体温を奪っていく。だが、アシュレイはこれ以上、待つつもりはないとばかりに莉人の唇を塞いだ。
「···んうっ···」
 乱暴に口づけられ、莉人の唇から僅かに苦しそうな声が漏れる。
 入り込んだアシュレイの舌はまるで怒りをぶつける様に荒々しく口腔内をまさぐり、絡みつくその舌の動きに懸命についていこうとするが、応えるように絡ませようとすると動きを変えられ一方的な口づけが繰り返された。
 ルークに抱きつかれていた時から、アシュレイに嫉妬じみた感情のまま抱かれる事はある程度覚悟はしていた。
 だが、こんな感情をぶつけるだけの自分勝手な独り善がりの口づけ───···
 


 こんなの···違うだろ



 そう思った瞬間、莉人はアシュレイの唇をガリッと噛んでいた。
「─── 痛っ···」
 アシュレイは痛みに莉人から離れる。彼の唇は血が滲んでいた。
 莉人は片手を伸ばしシャワーのコックを捻り水を止めると、その手でアシュレイの胸ぐらを掴んだ。
「なに自分の感情だけぶつけてきてんだよ」
 怒りを滲ませた声で低く呟く。
「俺が好きでルークに抱きつかれてたとでも思ってんのか?俺の気持ち···少しも信じてないのか?」
「そんな事はない···ただ···俺が嫉妬してるだけで···」
「嫉妬してるだけ?それで一方的に俺を抱くのか?」
 一方的な行為はいくら恋仲であっても暴力と変わらない。
 嫉妬したから···そんな一言で終わらせるつもりのない莉人は更に言葉を続けた。
「嫉妬するなって言ってんじゃねぇんだよ。嫉妬したって何時も俺がお前を求めるように抱いてたんじゃねぇのか?それは相手が俺が知らない相手だったから余裕があったとか言うんじゃねえだろうな···。で?今回は親しくしてるルクだったから余裕がないって?」
 莉人はハッ、と短く呆れたように笑った。
「そんなの···俺の気持ちを信じてねぇからだろうが。信じてたら···」

 こんな風に抱かねえだろ···

 自分で言っていて虚しくなってきた莉人は、次第に声が小さくなる。
 

 なんで俺の気持ち···
 こんなにもコイツに届かねぇんだろうな···


 莉人は気づかないうちに溜め息を吐いていた。
「リヒト···」
 アシュレイは暗く沈んだ表情の莉人の頬に手を触れた。
 すっかり冷え切ってしまった肌に触れ、アシュレイは自分がどれほど理性を欠いていたか気づかされる。

「すまなかった···そんな表情かおをさせたいわけじゃなかった···」
 自分でも感情にまかせて乱暴にしてしまった自覚のあるアシュレイは、珍しく申し訳なさそうな顔をしていた。
「お前でもそんな表情するんだな···」
 僅かに口元に笑みを浮かべた莉人は、頬に触れているアシュレイの手に自分の手を重ねた。そして、扇情的せんじょうてきな視線を向ける。
「俺に···お前の香りを刻みつけるだけでいいのか?」
「···リヒ···ト?」
「俺だって···アシュレイに俺のものだって香り、つけたいんだよ」 
 莉人はそう言うと、重ねている手とは反対の手をアシュレイの後頭部へと伸ばし、自分の方へと引き寄せた。
 傷つけ血の滲んでしまった唇をペロリと舌先で嘗めるようになぞると、アシュレイを真っ直ぐ見つめる。
「ちゃんと俺を見て抱けよ···」
「ああ···」
 アシュレイは再び莉人に唇を重ねた。
 今度はゆっくりと優しく口づける。
「···んっ···」
 アシュレイの舌を受け入れながら、絡ませるように舌を動かした。
 互いの唇を味わうように何度も唇を重ねる。
「····アシュ···レイ···」
 先程とは違い、アシュレイを感じる。 


 もっと触れて欲しい···


 淫らな熱がゾクリと躰の芯を走り抜け、半身が反応し始めた。
 胸も触れて欲しいとがれた疼きを感じ、吐息に悩ましげな色香が混じり始める。
「脱がせて欲しいのか?リヒト」
「···分かってんだろ···」
 熱っぽい視線でアシュレイを見つめる。
 いつもなら、強請るように誘えば触れて欲しい所に触れてくれた。


 だが──···


 アシュレイは優しく口づけを交すだけで他には触れようとしない。
「······っ!いい加減っ···」
 脱がせて欲しいのかと聞いたくせに、一向に先に進もうとしないアシュレイをじろりと睨んだ。
「リヒトが自分で刻みつけてくれるんじゃないのか?」
 言いながらアシュレイは自分の隊服の襟のホックを外した。
 つい先ほどまで沈んだ顔をしていた筈が、今はいつもの余裕に満ちた笑みを浮かべている。


 ···確かに言った······けど···


 アシュレイの笑みを見た途端に莉人は自分の言った言葉を少し後悔していた。
 


 


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