騎士隊長と黒髪の青年

朔弥

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魅惑の香り

おまけ 3

 薬が効いたのか翌朝には熱も下がり、莉人は第一部隊の執務室に顔を出した。
「リヒト、熱は下がったのか?」
 莉人が部屋に入って来た事に気づいたリディオは書類から顔を上げ、心配そうに声をかけた。
「ああ···大丈夫···」
 心配かけた、と申し訳なさそうに笑みを浮かべ言葉を返す。
 リディオの前で同じように書類仕事をしていたルークも莉人に気づくと、「リヒト···」と名前を呼びながら立ち上がり、少しバツの悪そうな顔をしながら近づいてきた。
「···悪ぃ···あの時の事、あんまり記憶にないんだけど···」
「ああ···覚えてないなら···気にするな···」
 というか、もう触れて欲しくない···と、莉人は僅かに引き攣った笑みを浮かべた。
 またアシュレイに嫉妬でもされてはたまらない莉人は、執務室の奥の机で仕事をしているアシュレイの顔をチラリと盗み見る。だが、彼がこちらのやり取りを気に留める様子はなかった。
 散々、恥ずかしい思いをさせられたのだ。これ以上、引きずられては困る。
 莉人は密かにホッと胸を撫で下ろした。

 そこへ、コン···コン···と執務室のドアがノックされグレースが入って来た。
「ここに居たんですね、リヒト。部屋に行ったのですが居なかったので探しましたよ」
「俺?何か用だった?」
「ええ、これを渡しに。風邪をひいたと聞いたので、その薬と···もう熱は下がったようですが、念の為に解熱剤も···」
 グレースは莉人に近づき紙袋を差し出した。
「グレース!それは後で俺がリヒトに持って行くと言っただろう!」
 受け取ろうと手を伸ばすと、アシュレイが何故か慌てたように立ち上がった。
 何を慌ててるんだ···?と、いぶかしみながら、グレースから紙袋を受け取り中を覗き込む。
「······解熱剤···も入ってんのか?」
「ええ···昨日、飲みませんでしたか?その錠剤ですが」
「···解熱剤って···飲み薬?座薬じゃなくて?」
 指をさされた薬を凝視しながらグレースに問いかけた。
「え···ええ···。薬を飲めないくらい具合の悪い人には使いますが、普通は飲み薬を···」
 グレースの答えを聞いた莉人は蟀谷こめかみに怒気を浮かべながら、じろりとアシュレイに視線を向ける。
「······テメェ···わざとだな」
 怒りで低くなった声でぽつりと呟く。
「いや···この薬を使用した方が早く熱が下がると言ったが、薬が他にないとは言っていない。それに、リヒトも聞かなかっただろうが···」
 少し焦りの色を見せながらも、嘘は言っていないとアシュレイは軽く首を横に振った。


 確かに魔法で治せないのかとは聞いたが、薬が他にないかとは聞かなかった。
 ···聞かなかったが!嫌がっているのが分かっているなら他にも薬があると言うだろ普通。
「聞いたら飲み薬もあるって言ったのか?絶対、言わねぇだろ······」
 莉人は目を細め不信そうに見つめた。
「そんな事はない。ただ、効き目はその薬が早いんだ···現に熱は下がっただろ?」
 後ろめたいのか、アシュレイの視線が泳ぐ。
「······効き目の問題じゃねぇよ」
 恥ずかしい思いさせやがって!と続けたい言葉をリディオ達がいる手前ぐっと飲み込んだ。
 深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると改めてアシュレイをキッと睨みつけた。
「暫く俺の部屋に来るの禁止な」
「リヒト···」
「体調が治るまでは近づくんじゃねぇよ!守れなかったら、テメェが熱出した時には俺と同じ薬使うからな!」
「いや、それは···」
「なんだよ、効き目は良いんだろ?」
 莉人のご機嫌が直るまではそっとしておいた方がいいか···とアシュレイは「分かった」と頷いた。


 二人のやり取りを見ていたリディオ達は、体調管理も騎士として万全でなければならないと常々言っているアシュレイ隊長が熱を出したり体調を崩す事などあるのだろうか···と頭に浮かんだが、口にすることはなかった。
 莉人がアシュレイに押し負かされ、すぐに普段の二人に戻るのも時間の問題だろう。
 これ以上、巻き添えはご免だ···とばかりに、リディオ達は黙って各々の仕事に戻っていった。






─────────────────────



 熱を出した時のお約束···座薬プレイ(^_^;)
 せっかく莉人が熱を出したので書いてみました。
 楽しんでもらえたら嬉しいです。


      (2022.11.29)



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