一時間ヒーロー!!

市川 雄一郎

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第一章・ヒーローに憧れていた男

(3)一時間ヒーロー!!

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 急に戦え状態に陥り、戸惑う虎丞は焦りでテンパりはじめた。


 「勝てるわけないよ!!」


 昔、チャンバラごっこはしたことがあるが剣なんか握った記憶もなく、そもそも武器すら持ったことがない。だから「どうしろと言うんだ」という気持ちである。


 「うあああああああああああっ!!」


 剣を振り回した虎丞だがやはり闘いはやったことないからか上手く振れてないし、そもそも相手にかすりもしない。


 「…………なんだ、貴様。剣を振れていないではないか……!!」


 「はい……剣は今初めて持ちましたから……」


 許してもらえるかもと期待をして今持ったばかりで剣を使えないと主張した虎丞だったが……


 「…………剣をまともに振れない輩が剣を持つなど……!!!!」


 「えぇぇぇぇぇぇーーっ!?」


 男は攻撃的になり、剣を振り回してきたのである。逃げ足だけは早い虎丞だったが、少し時間が経つとそろそろバテてきたのである。そして座り込んだ虎丞の首元に剣を突きつける男であった。


 「はははは、俺から逃げれずにここで人生はジ・エンドのようだな。まあ、貴様のような雑魚などさっさと潰して村もすぐに潰そうとしていたが時間を食わせやがって……許さぬ……」


 すると男性は剣を振りかざして斬るスタンバイをしたのである。身体が金縛りになったように恐怖で動けない上に足も走りすぎて痛めている虎丞は逃げられる状況にはなかったのだ。


 「あ……あ……あ……死にたくない…………」


 そして剣を振ると身体を動かせない虎丞は剣で防御をしたのである。


 “シュパーーッ!!”


 “キンっ!!”


 「ん?」


 何と虎丞は斬撃をを剣で防いだのである。そして金縛りが解けた虎丞は立ち上がりチャンバラごっこをイメージして男に斬りかかったのである。


 “ザっ!!”


 「ぐぉぉっ!?」


 剣で斬りつけられた男は倒れたのである。虎丞は斬ったのを確認すると安堵の表情を見せたのである。


 「え……勝てたん!?何かよく分からないけどやったあ!!!」


 すると周りの村人から拍手と激励の声が飛ぶ飛ぶ。


 「お兄ちゃん、誰か知らんがよくやった!!」


 「まさに英雄じゃ!!」


 「カッコいいよ、君っ!!」


 すると立ち上がった男が虎丞に語りかけたのである。


 「今日はもう退散するが……貴様には警戒せねばならぬ……」


 「僕に?」


 「ああ、貴様はまだ見せぬ力を秘めた恐ろしき人物だ。俺はお前の剣技からあるものを感じた。貴様はこれからも伸びるだろう……さあ元の世界へと帰れ……!!」


 「元の世界……?ああっ!!」


 “ピカッ”


 また急に眩しく光り出すと気が付いたら職場のパソコンの前にいたのである。


 「夢……か?」


すると大原が駆けつけて少し怒った顔をしていたが心配してくれていたのである。


 「大原、どうしたんや!?」


 「それはこっちのセリフやで!!声がしたからすぐに来たらのんきに寝ていて……さっきまでみんなで探していたんやぞ!?心配しとったんやで……!!」


 「ムキになるなよ……そうか……すまんかったな……」


 「それとトラ……お前どないしたんや?首に切り傷があるぞ!!」


 「切り傷?さっきまで無かったはずなのになぜ……」


 “ズキッ!”


 「いたっ!!」


 いつの間にか出来ていた首の切り傷……しかも痛いので本物である。


 「(もしかして斬撃を剣で受け止めたときに相手の斬撃の風圧の波か何かで切れたのかもしれない……)」


 切り傷を確認してから業務に再開した虎丞は無事に定時の時刻を迎えてパソコンを閉じようとしたとき、画面が暗くなり、白い文字で何かが表示されたのである。


 『この世界にあなたは一日一回だけ……それも一時間だけ行動することが出来ます。次の日に異世界に行くと前日に冒険を終えた場所からはじまります。そして一日一時間の制限を乗り越えて真のヒーローになってください。』


 何とあの異世界は夢ではなく本物のようである。切り傷も本物だと分かるとなぜか虎丞は両手でガッツポーズをしたのである。


 「(これ……こんな世界を待って……いたんだっ!!!)」


 そして気分が乗っていたのか帰り道を少し変更して帰る虎丞はあの空き地を通りかかろうとしたのである。すると虎丞の頭の中に記憶が戻ってきたのである。


 …………回想…………


 「さあ……悪は倒すぞ、オリャー!」


 悪役の子供に蹴りを入れる子供時代の虎丞。そして助けた民間人役の子供は虎丞を見て言う。


 「わーい、ヒーローさんありがとう!!僕もヒーローになりたいなあ!!」


 「ああ、応援ありがとう!!俺がヒーローだ!!だからみんなを俺が守る!!悪は許さないぞ!!ワハハハハハ!!」



 …………回想終わり…………


 あの日の記憶を振り返ると虎丞は空き地の自分の立ち場所へとやって来たのである。そしてそこで右の拳を空にかざしてあの決め台詞を言ったのである。


 「みんな、俺は『タイガードラゴン』というヒーローだ!!俺は悪を許さない正義のヒーローなんだっ!!だから……みんな、安心してくれ!!俺がヒーローだ!!だからみんなを俺が守る!!異世界だろうと現実界だろうと悪は許さないぞ!!おらーっ!!」


 虎丞は笑顔で輝いていたのである。地味な生活にサヨナラして自分が必ずヒーローになるんだと心から誓った日であった……




 第3話・終わり
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