恋愛知らずな生き様

市川 雄一郎

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②はじめての恋愛……だが……

唱子のバイオリン

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 拍手を受けて唱子はバイオリンの演奏を開始したのである。まずはテンポのゆっくりな曲を演奏していたが……


 「秀ちゃん、今は準備運動よ。今から本番よ……」


 すると唱子は力強い演奏をはじめたのである。曲名は『オクラホマ・ミキサー』だ。この曲は戦後、長崎から日本全国に広まった曲である。その演奏する唱子の姿を見た秀太はすぐに直感したのである。


 「(唱子ちゃん……この曲に思い入れがあるみたいやな……)」


 推薦した二人もこの演奏を予想していたかのような顔で唱子の演奏を楽しんでいたのである。それまでマジックショーやトークショー中にもちょっとしたポジティブな野次みたいなのはあったが唱子の演奏には誰一人言葉を発しなかったのである。


 そして曲は『藁の中の七面鳥』の演奏に入る。フォークダンスで有名な曲であるが、この部分に唱子はさらに力を入れて演奏したのである。聞いていて学生時代にフォークダンスをしていた記憶を思い出したのか皆が感慨にふけるような表情であった。勿論秀太も……


 「(あの時……好きな子と一緒にダンスしたこと忘れられねえな……)」


 自分もこのあと一発芸披露が控えているのを忘れているのか曲を聞きながら想い出を呼び起こしていたのである。気がつけば演奏は終わり、客席から拍手が沸き起こる。


 「懐かしい想い出をありがとう!」


 「もう一回やってくれ!アンコール!」


 “アンコール!!”


 “アンコール!!”


 “アンコール!!”


 アンコールの希望の声が大きかったのである。しかし秀太は唱子はアンコールに応えないかもしれないと思っていたのか何をしようか考えていたのであった。すると……


 「もう一度演奏をしてもよろしいでしょうか?」


 「ええ、構いませんが。」


唱子は司会者に再演奏をしてもいいか確認をとったのであった。その許可を得ると再び『オクラホマミキサー』の演奏をしたのであった。そして秀太は唱子の言葉が聞こえたのかマイクを彼女の顔の近くに持ってきたのである。


 「みなさん!私は南唱子と申します!!私はこれまで色々な経験をしながらここまで生きてきました!!もう嫌なことばかりで頭が痛くなる時もありました!!ですが、小さいときにこの曲を聞き、感動しました。それからは辛いときはこの曲を聞いています。聞くだけで気持ちが高まるほどの曲です!!みなさんもこの曲に思い入れがあればじっくり聞いて記憶を思い出してください。思い入れがない方も聞いて下さい!!」


 力強く訴える唱子の口調は何かの思いが込められているとマイクをあてながら秀太は感じたのである。そして再び演奏が終わるとさっきより大きな拍手が沸き起こったのである。秀太は演奏のすごさに感動したきりで自分の一発芸のことを完全に忘れていたのであった。


 「唱子ちゃん……バイオリンが弾けたんだね……!!」


 「ええ、小さい頃はバイオリンを学んでいまして最近でもまた教室に通っているのですよ。」


 「そうなんか……だからプロみたいな上手うまさだね。」


 「いや……そこまでは……あと、秀ちゃんの一発芸はどんなことするの?」


 「………………!?」


 秀太は完全に忘れていたためか急に焦り始めたのである。


 「(どうしよう……何をすれば良いんだろ…………)」


 困ってしまった秀太は頭を抱えてしゃがみこんでしまったのであった。彼は本当に何も出来ないのか本当に困っているのだ……
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