ヒナの国造り

第５章・地獄の懸垂と古代都市の復活阻止と成分の正体

地獄の懸垂ダービー⑧

命と引き換えに大金を稼ぐ兵篭の姿勢を許せないのは直露だけではない。他にも彼らの帰りを待っていた人はたくさんいたはずだ。そんな彼らの思いを打ち砕いた兵篭の残忍さは当然誰からも支持されるはずがない。

目が充血していた直露は脳裏にあることを思い出したのである。これはヒナが来る少し前の出来事である。

………………ある日、民宿の庭で洗濯を干していた直露の元にある男性がやって来たのである。

「突然申し訳ございません。こちらに警備隊の関係者がおられるとお聞きしてやって来ましたドーリン地区第三学校(現実世界で第一学校は小学校、第二学校は中学校、第三学校は高校、第四学校は大学となっている)の校長をつとめています舛添(せんてん)と申します。」

白い髪の毛に少し鋭い目付きの厳しい校長先生だとブルーサイドでも有名な人物だが、この日はその鋭い目付きが異常に弱々しく、今にも泣き出しそうな口調であった。

「私の学校の可愛い生徒がここ何人も行方不明になっています……どこに連れ去られたかは分かりません。ですが心配のあまり夜も眠れない……協力してほしいのですが……」

舛添校長の必死の頼みに直露はこう返したのであった。

「警備隊は僕の弟が元々していました。ですが人助けは私の仕事でもあります。困っている人や苦しんでいる人を助けるのは私の役目。是非とも協力しましょう！！」

それを聞いた舛添校長は涙を流しながら「ありがとうございます」と何度も呟いていたのが直露の耳に残ったのである。


………………しかしあの舛添校長の思いを考えると彼の大切な生徒を金のために平気で命を捨てさせる兵篭に対して怒りは治めることはできなかった。

「許せない……！！」

すると直露はもう一撃兵篭の肩に拳をぶつけたのである。少し兵篭は痛さのあまり肩を押さえ、怒りの止まらない直露を彼の父が押さえつけたのである。

「今はそんなことしてる場合じゃない！！！！早く助けるんだッ！！」

ハッと我に返った直露は懸垂台の方へ走って何とか助けようとした。しかし⑬番の女性が下に落ちてしまったのである。

「キャアーーーーーーーっ！！！」

死にたくないと抵抗していた子まで落ちてしまった……それを見た直露は大粒の涙を流していた。

「“あの時”と変わりがない……なぜ悲劇は繰り返されるんだ……？」

直露が呟く言葉に父親は反応した。そして息子の目を見てこういったのである。

「本当に世の中は理不尽だ……お前がまた以前と同じような形で苦しむだなんてな……」

父の言葉に直露は頷いた。そして残りの人やヒナを助けようとした。ヒナはこの時正気に戻っておらず、まだ危険な場所にいると自覚していない状態も手が震えており落ちる危険性はさらに高まっていたのだ！