ヒナの国造り

市川 雄一郎

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第9章・世界の歪み

大洪水を止めるぞ①

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ヒナは似非雨雲の方を向いて両手を前に伸ばして気をいれる。

「………………」

凍らせるための気力を出そうとするが雨雲が大きすぎるからかなかなか凍りつく気配はない。疲労が現れたヒナはなんとかこらえながら気を入れ続けたのである。

「なんとか……凍って……!!」

しかしなかなか凍る気配がなく、ヒナの体力がどんどん減っていく一方であった。だけど諦めれば洪水で全世界が沈むと思うと今は我慢していくしかない!!

「凍って!!凍って!!」

すると少しずつ雲が固まっているように感じたのである。どうやら凍りつつあるようだ。しかし体力はかなり減ってきており、全てを凍らせることが出来るかどうか難しくなってきた。

「誰も死なせたくない!!どの町も水に沈んでほしくない!!」

ヒナは強く声を出し続けた。人々のためなら死んでも構わないという精神だった。だが一喝が横から入ってきたのである。

「自分の命を捨てるな!!」

ヒナはそれを聞いた途端に疲労を感じなくなった。その声の主は竜太である。マスクと頭にタオルを巻いた姿ではあるがヒナを強く注意した。

「もし、自分の命を……と思うなら能力を使うな。」

「でも……私が頑張らないと……」

「頑張れ。俺らも頑張るから……だけど命は捨てるな!!体力のケアは後でしっかりするから命を捨てない気持ちで力を入れろ!!」

「…………うん!!」

ヒナは頷くと力みを緩めたのである。すると力を緩めた瞬間、少しずつ雲の凍りつきが広がっていることが分かったのだ。

「死ぬときは寿命を尽くすまで生きた後の話!今はまだ早いから……頑張っていこう、お互いに!!」

「うん!!」

竜太の熱い叱咤激励を受けてヒナは元気を取り戻してきたのである。すると竜太は筆を持ち、空に向かってなにかを描いたのである。

「…………それを実現させる……!!」

空から誰かの声が聞こえてきたのである。空になにかを書き終えた竜太は何もしゃべらずにヒナを見つめていた。ヒナは何をしたのか気にはなったが、今は言えないのだと確信して空に気を送り続けていたのである。

「雲が……雲が大分固まってきたぞ!!」

雲は大きく固まってきていた。あと少しだ!!しかしヒナの体力がそろそろ無くなりつつある。するとヒナの背中を誰かが支えている……竜太だ!!

「何事も何とかなる!!気合いをむやみに入れずに自分の出せる力をだそう!!」

少し力まず、自分のペースで入れれる力を入れろとのことである。顔つきが険しくなっていたヒナだったが竜太の強い檄には常に頷いた。竜太も能力行使と檄を飛ばしていたため少しずつ疲労はたまってきていたのである。

「おお、雲が全体的に凍ったぞ!!」

ヒナの限界突破の力で似非雨雲を完全に凍らせたのである。だが、ヒナはそれを確認して笑顔を見せると疲労の凄さからか倒れ混んだのである。

「しんどかったな……お疲れ様やで。」

竜太はヒナを背負って寝室に連れていく。その時、松浦が自信を持って大きなハサミを取り出したのだ。

「はーい、切りますよ!!」

松浦は雲の周囲を上手くハサミで切りはじめたのである。上手く切れても体力が減れば異空間に似非雨雲を飛ばせない危険性もある。だが、松浦はヒナの姿を見て自分も本気で取り組もうとしていた。

チョキ、チョキ、チョキ、チョキと切り刻む異空間切りのハサミ。体力との勝負はあるが松浦は切り続けてきた。すると異空間の入口が出来上がり、後は似非雨雲を無の空間に送るだけである。しかし……

「どうやって異空間に送るんだ……」

竜太は呟いた。なんと異空間に似非雨雲を押し込む方法がないというのだ。どうしようかと悩んでいると雪がキッチンからやって来たのである。

「どうしました?」

「あの雨雲、どうやって動かせばいいか悩んでんの……」

「私に任せて……!」

「…………!?」

すると雪の身体は光り、手で雲を押す仕草をすると雲は異空間に入っていくのである。

「こ……これは……!?」

「夢でお告げがありました。これが私の能力です。『神の代理の手(チェンジゴッドハンド)』という能力で私の手を使えば何でも動かせるみたいです。」

「…………凄いなあ!!凄いなあ!!ありがとう!!」

「では、早く雨雲を消しましょう!!」

竜太が雪に感謝した直後に松浦は空間を切り裂いた部分を気力で塞いで雨雲はこの世界から消えたのである。

「……よかった!!ヒナちゃん、やったよ!!」

「本当によかった!!」

「みなさんのおかげです!!」

「雪ちゃんもありがとうな!!」

能力を使って皆で協力し、奇跡を連発してこそ出来た人類最大の危機の回避。松浦も竜太も疲れていると雪が水を持ってきたのである。

「水を飲めばその味がします。栄養として飲んでください。」

二人が水を飲むと身体が回復したようで元気になった。だが大洪水の危機を完全に回避するためにもうひとつするべきことがある。

「あの雨雲マシンの破壊やな。」

竜太は呟いた。そう、あの機械がなくならないとまた危険がやって来るのである!!
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