ヒナの国造り

第９章・世界の歪み

竜太に死が迫る③

竜太襲撃の翌朝、一向に意識の回復を見せない竜太をヒナ達全員で心配していた。

「竜太さん、回復しないですね……」

「ヒナちゃん、傷が大きすぎるよ……簡単には回復できないよ……」

ヒナは心配していたが松浦の指摘通り傷の深さは異常なものでまだ息をしていることの方が奇跡とされている。だがこのままだと本当に命は危ない。死と巡り合わせの竜太が無事回復するのかどうか……全員が最悪の事態を想定してしまっていた。

松浦は竜太を見舞った後であるビルへと出向いた。襲った犯人の行方を知るために被害にあった加計川から教えてもらった彼の知人の会社を訪れたのである。

「こんにちは。」

「こちらこそこんにちは。竜旙から事情を聞いています。」

加計川の知人の鵺饐寛(やす・かん)はお見舞いの際に情報を聞いており、松浦達に伝えてほしいと頼んでくれていたという。

「ありがとうございます。詳しい情報を聞かせてください。」

「はい、犯人は大体特定できています。恐らく大東のグループの関係者だと思われます。これは可能性が高いです。」

「ほぉ……大東の仲間か……」

「ええ、竜太さんという方は恐らくグループの誰かに因縁をつけられてやられたということでしょう。ただ、４対１で勝てたのだから強力な能力を持っているでしょうね。」

「能力……まさか全身凶器とか……？」

「いい推理しますね。凶器に関わる能力は確定です。あと相当な剣術も兼ね備えている戦闘力の高い人物でしょう。」

「しかし大東のグループ自体知らなかったが、そんな危険な能力者がいるとは…………」

下手に関われば命を落としかねないと感じた松浦は竜太の油断したであろう気持ちを察し、同情するしかなかった。

「相手の能力を見抜く力があればやられなかったのにな……」

勿論一人が複数の能力を持てない上に能力を見抜く自体が何らかの能力である。取得できないのは分かっていてもこうだったらなと松浦にはそう考えるしか出来なかったのだ。

「本当に……回復してくれませんか……」

松浦はそう呟くと疲労から寝込んでしまったのである。加計川の知人は松浦の姿を見て車を手配したのだ。


場面は変わり、サトキのオフィス。インターホンがなるのでヒナが外に出ると松浦を背負った寛がいた。寛は上がるとベットの上に優しく松浦を寝かせたのである。

「僕の会社で疲れて寝てしまったので連れて帰ってきました。」

「あ、申し訳ございません！！何か飲んでいかれますか？」

「いいよ。僕の会社を見つけるのに時間をかけていたみたいだから疲れていたんだとおもいます。ではっ！！」

寛は逃げるように帰っていったのである。ヒナは彼の優しさに心を打たれていた。だが竜太が心配な気持ちもさらに湧いてきたので感慨に更ける気持ちは持てていなかったのだ。

「必ず竜太さんが治ることを願いたい……」

ヒナは祈りをするように竜太の回復を願っていた。