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しおりを挟む「あら、ほんとに泣いてたのね」
サンドラの赤くなった目を見て、マチルダは少し呆れたようにそう言った。
恥ずかしくなったサンドラは再び下を向く。
「ちょっと、隣あけてくれる? ここはあんただけのベンチじゃないんだけど」
「ご、ごめんなさい……」
ベンチの真ん中に腰掛けていたサンドラは、あわててベンチの端にずれる。するとマチルダは、当然のようにサンドラの隣に腰掛け、手に持っていた本を読みはじめた。
そんなマチルダを、サンドラは唖然と見つめる。
マチルダ・ナトル。彼女はナトル公爵家のひとり娘で、この国の第三王子であるダニエル殿下の婚約者でもある。
とびきりの美人で、いつも髪型や服装に人一倍気を遣っている……つまりは、とても派手で、その派手な装いがよく似合う特別な容姿のひとだった。
(……私とは、正反対)
ただでさえ気まずいのに、サンドラはなんだかマチルダの隣にいるのがとても苦しくなってきた。
サンドラがマチルダみたいだったら、エイデンもあんな酷いことは言わなかったのかもしれない──そんな馬鹿なことを考えて、いっそうみじめな気分になる。
「……では、私はこれで──」
「エイデン・ロードリーに浮気でもされた?」
サンドラが腰を上げかけたところで尋ねられた言葉に、サンドラはぴたりと固まる。おそるおそる隣を見ると、マチルダは本のページに視線を落としたままだった。
「……えっと…………」
「こんなとこで女が泣いてる理由なんて、男のこと一択でしょ」
(そうかしら? まあ、私の場合は確かにそうけど……)
「……浮気されたりは、しておりません……」
「なら、なにか酷いことでも言われたとか? このひとと結婚して大丈夫なのかしら~って不安になったとか?」
「…………」
「図星ね」
マチルダは得意げにふふんと笑い、読んでいた本をぱたんと閉じる。
「聞いてあげるから話してみなさいよ」
「えっ?」
「だって、気になるじゃない。ここで会ったのもなにかの縁でしょ。ひとりでメソメソ泣いてるより、誰かに言った方がスッキリするわよ」
「……でも」
婚約者との揉め事を、知人ですらない相手に話すのは気が引けた。しかも、相手は高貴な公爵令嬢だ。
サンドラがもじもじとしていると、マチルダがそれを鼻で笑う。
「言いふらしたりなんて絶対しないわよ。私にそういう相手がいないのは、あんたも知ってるんじゃない?」
(確かに……)
というのも、マチルダは学院の中で孤立していた。力のある家の子息子女には友人を自称する取り巻きがつきものだが、彼女の周りにはそういう人間すらいなかった。
はっきりとした理由は、サンドラにもわからない。学院に入学して、気づいたときにはマチルダは遠巻きにされていたのだ。
ただ、なんとなく近寄り難いオーラがあるのはサンドラにもわかる。見た目も派手で、気が強そう……いや、今話した感じだと実際に気は強いのだろう、たぶん。
……とにかく、マチルダに親しい友人はいない。サンドラの愚痴を聞いたところで、それを伝える相手もいないだろう。
言っていいのか迷う。
でも──……
(誰かに聞いてほしい)
助言がほしいわけでも、慰めてほしいわけでもない。ただただ、胸の奥から溢れ出てくるこの感情の整理をしたかった。
サンドラはおずおずとマチルダを見る。
「……マチルダ様からしたら、大したことじゃないかもしれませんが……」
そう前置きをしてから、サンドラは先ほど聞いた話をぽつぽつと喋りはじめた。
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