悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

文字の大きさ
64 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

64.代償1

しおりを挟む
翌朝のまだ空が白み始めたころに、四姉妹の母である公爵夫人が領地から到着した。
姉妹たちが出迎えると、母はヴィオラを強く抱きしめた。

「お母様、わたくしは意外と平気ですのよ。」

そう言って笑ったヴィオラの瞼が赤く腫れているのを見て、公爵夫人もまた泣きそうな顔になる。
しかし、ふとフレエシア、リーリウム、プリムラの顔を見ると、みんなそれぞれ瞼を腫らしていた。

「あなたは、良い妹たちを持ったわね。」

ヴィオラにそう言うと他の娘たちに手招きをして、両方の腕で四人をぎゅっと包み込んだ。

使用人たちに簡単な軽食を用意させると、それを朝食としてつまみながら、家族は公爵の書斎で話し合いをもった。
ヴィオラはアンドレアスとの婚約を解消したいことを両親に話すと、二人ともすでに予想はしていたようで、すんなりと了承した。

「ヴィオラのしたいようにさせましょう。
その後のことは大人たちが納めれば良いことです。」

ヴィオラは久しぶりに子どもとして扱われた母の言葉に、くすぐったいような気持ちになった。
いつもであれば、すべて自分で解決しようと意地になっていたかもしれない。
しかし、今日は家族に頼ろうと素直に思えたのだった。
ヴィオラは、両親と、そして改めて妹たちにも丁寧に礼を告げた。

「それでお母様、先日話した日記帳についてなのですが……。」

ヴィオラは両親に『ユニカ様の日記帳』について、今まで起こったことをすべて話した。

「リーリウムが持っていたあの古い日記帳がそんな内容だったなんて。
あの後、リーリウムやヴィオラに内容を尋ねてもずっと誤魔化し続けられていたものだから、
ずっと気になっていたんだよ。」

公爵はほっとしたような、拗ねるような口調で思いを吐き出した。
リーリウムはたびたび図書館にこもっては、読んだ本の内容を丁寧に書いた書類を公爵に提出していたのだが、あの日記帳についてだけは「ヴィオラお姉様が読んでいる」と言って、何度急かされても内容を明かさなかったのだ。

「わたくしも驚いたわ。あの日記帳が本物のユニカ様の日記だったなんて!
そんな魔法みたいな書物だったのなら、あの頃もっとちゃんと読んでおくべきだった。」

公爵夫人は心底残念そうにしている。
当時は何代か前のいたずら好きな当主が遺した創作日記だと思って、二ページほどぱらぱらと読んだだけで気にも留めなかったのだ。
ヴィオラに聞くまでは、その存在すら忘れていた日記帳だった。

「今日、日記帳の内容をお父様とお母様にもお伝えしようと思ったのが、
わたくしたちにあるという、『チャーム無効の祝福』の弊害についてなのです。」

ヴィオラは問題となっているページを開くと、自ら読み始めた。

『ある日、マリアが慌てた様子で私を訊ねてきました。
泣きながら、とんでもないことをしてしまったと謝るのです。
どうしたのかと思って尋ねると「」と言いだしました。
チャーム無効の能力は、公爵家の女の子のみに与えられた祝福です。
その代償として、祝福が与えられない存在、つまり男子が生まれなくなったそうなのです。
一度与えた祝福は変更や取り消しはできないと、マリアは謝り続けました。』

公爵夫人はふらりとよろめくと、椅子にどさりと座り込んだ。
長年の謎であった「ウェスペル家の呪い」の原因が解き明かされたのだから、驚くのも無理はない。
それもまさか、伝説にもなっている公爵家の祖先ユニカ様と聖女マリア様が原因を作っていたのだ。

『私は、祝福にそのような代償があるとは知りませんでした。
子孫たちにとんでもない贈り物をしてしまったと、マリアと共に何か手段がないかと試行錯誤しましたが、
解決策はついに見つかりませんでした。

しかしいろいろと考えている間に、こうも思ったのです。
どうして男子が生まれないことが問題なのか、と。
女子が男子に劣るわけでもないのに、なぜ女の子は家を継げないのでしょう?
私は祝福をどうにかするよりも、社会の構造を変えてしまうことにしました。
あなたの時代には女公爵も当たり前になっていますように。』

ユニカ様はワクワクとした文章で日記にしたためていた。
しかし、何故か今はまだユニカ様が夢見たような未来は来てはいない。
プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、婿を取り、国や領地を影ながら必死で支えてきたウェスペル家の長女たちがいただけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!

杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。 彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。 さあ、私どうしよう?  とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。 小説家になろう、カクヨムにも投稿中。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...