ゼラニウム

おこめ。

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正反対②

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宮野「あのさ、ハナって根暗?」

突然教室の質問に私はシューズの紐を結ぶ手を止めた。

根暗。
その言葉は今まで嫌という程浴びせられた言葉。

人見知りでなかなか友達が作れずにいた中学時代、周りでは女子たちがいくつかの仲良しグループいわゆるイツメンというものを作っていたが、私は輪に入れずにいた。
そんなとき、私に声をかけてくれた一人の女の子がいた。

だがしかし、その子はただ自分の属していたグループ内でのなんらかの遊びの罰ゲームとして、地味で目立たなかった私に声をかけてこいだの、メアドを交換してこいだの指示され、私の反応を面白がっていただけだった。



ハナ『私は…』

鼓動が早くなるのを感じる。

ハナ『…普通の生活を送りたいだけです。目立ちたくない。無事に卒業できればそれでいいんです。』

私、何を言ってるんだろう。

ハナ『友達だってどうせすぐ手のひら返して離れていくに決まってる。根暗だってなんだって構わない。周りに関係ない。宮野さんに関係ない。』

心ない言葉を吐いてしまった。
そんなつもりはなかったのに。
即座に襲いかかる後悔と恥ずかしさ。
まるで自分が過去に孤独だったことを自らさらけだしたような。

宮野「なんでわかるの?手のひらを返して離れていくとか、ハナの勝手な決めつけじゃん?」

ハナ『周りがそうだった。みんな…毎日ニコニコ仲良くしてるのに陰ではその場にいない人の悪口言って、次第にエスカレートして剥奪して。』

ああ、また余計な事を。

宮野「私はしないよ。ハナが思ってるような理想の友人になれるかは分からないけど、今言ったような事は絶対しない。」

宮野さんは私が中学時代から時間をかけて何層にも重ねた壁を、あっさり壊してきた。
心がなんだか軽くなった気がした。
ついさっき初めて話した相手にこんなに自分のことをペラペラと話してしまった怖さと宮野さんへの興味と安心感を、少しではあるが感じた。

ハナ『私は宮野さんとは違って派手…じゃないし、明るくないし、、』

うつむいて逃げ道を探していた。
また壁を作ろうとしていた。
かけてくれた言葉は嬉しかったけれど、やっぱり3年間のあの過酷な日々を思い返すとすぐに信じられるわけがなかった。

宮野「私は、ハナと友達になりたい。ハナの笑った顔が見たい。」

なぜ初対面の私にそんなことが言えるのか不思議だった。
初めて言われた。
「笑顔が見たい。」
私はまぶたの裏と心が熱くなった。


時計の針が進む音とわずかながらに聞こえる授業中の声が更衣室の中を満たし始めた。


宮野「あーもー!!こういう空気苦手!!てかさ、ハナも私の言葉、響かない?!かなり恥ずかしいんだけど!!」

突然の早口な口調についていけない。

宮野「ってまぁ、こんな格好した私に言われても説得力ないよねー。」



ハナ『…がと。』

宮野さんは派手な自分のネイルを険しい表情で見つめながらじわじわとこちらに顔を向けた。

ハナ『ありがとう…。』

私はこぼれ落ちそうな涙をぬぐい、そう言葉にした時、
険しい表情をしていた宮野さんは笑っていた。

この人なら。。
根拠なんてないけれどなんとなく、あらゆる可能性感じた。

私とは正反対な容姿、考え方に興味を持った。
私にないものをたくさん持っているのだろうか。

私はまるで一冊の本のページをめくったかのようなワクワク感と先の見えぬ不安感を抱いた。
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