#ヤクザの女に手を出した大学生

シロタカズキ

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深夜の帰宅

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久我晴人が、あの凄惨な写真を見た駐車場から逃げ出し、自宅の鍵をそっと開けたのは、日付が変わった深夜2時を過ぎていた。彼は実家で、両親、妹と一緒に暮らしている。家の中は深い静寂に包まれていたが、その沈黙こそが、彼が持ち帰った闇を際立たせる。

彼は靴音を立てないよう、泥棒のように静かに廊下を歩いた。身体からは冷や汗と、夜の冷たい空気が抜けきらず、彼は震えていた。脳裏には、腹を割かれたヤミの遺体が焼き付いて離れない。篠崎亮介は、彼らの行動をすべてお見通しであり、この日常のすぐ傍に、冷酷な支配の目を光らせているのだ。

晴人が自室のドアノブに手をかけた、その瞬間。背後のリビングのドアが、静かに開いた。

「晴人?」

母、由美子が立っていた。彼女は、薄いカーディガンを羽織り、その目ははっきりと覚醒していた。彼女は、健太とは違い、息子が帰宅するまで眠れない性分なのだ。

由美子は一歩近づき、蛍光灯のわずかな光の下で、晴人の顔色を見た。

「どうしたの、こんな時間に。さっきから、家の外を何度もパトカーが通る音がして…嫌な予感がしてたのよ」

由美子の勘の鋭さが、晴人を突き刺した。彼が裏社会に接触した結果、その不穏な空気は、すでにこの平凡な家庭の周りまで漂い始めているのだ。

「何でもないよ、母さん。友達と…ちょっと揉めただけだ」

「揉めただけ? あなたのその目を鏡で見てごらんなさい。まるで何か恐ろしいものを見た目よ。いつもと違うわ」

由美子の視線は、晴人の瞳の奥、ヤミの鮮血が焼き付いた部分を見抜いているようだった。彼女は手を伸ばし、晴人の頬に触れた。

「無理してない? 疲れた顔してるわよ。何かあったら、いつでも言いなさい。あなたの家はここよ」

その温かい手が、晴人には地獄の入り口に立たされた自分を、日常という名の檻に繋ぎ止める鎖のように感じられた。

その時、寝室の扉が開き、父、健太が、真面目な顔で出てきた。彼は寝起きで少し苛立っている。

「どうした、由美子。騒々しいぞ。晴人、お前、何時だと思ってるんだ」

健太は、心配よりも、晴人の生活の乱れに腹を立てているようだった。

「お前はもう大人だろう。真っ当に生活するのが、親の俺への配慮だ。変なことを考えているんじゃないだろうな? お前が何か余計なことをすれば、この家族全員に迷惑がかかるんだぞ!」

健太の『波風を立てるな』という小心で支配的な愛情が、晴人の胸を締め付けた。

「…大丈夫だ、父さん。もう寝る」晴人はかろうじてそれだけを絞り出した。

父が不満げに寝室に戻るのと入れ替わりに、妹の莉緒が、半分寝ぼけた顔で廊下に出てきた。

「んー、お兄ちゃんうるさーい。……え、何その顔? マジで幽霊でも見たみたい」

莉緒は、欠伸をしながら、完全に裏社会とは無縁な軽さで言葉を放った。彼女にとって、兄の抱える恐怖は、せいぜいホラー映画のワンシーンなのだ。

「お兄ちゃん、大丈夫だよ、何があっても、お兄ちゃんなら、何とかするでしょ!」

その無邪気な信頼の言葉は、晴人にとって最も辛辣な呪いとなった。

(何とかする? 何とかできなかったから、ヤミは腹を割かれたんだ。そして、今度は俺の番かもしれない。)

晴人は、自分が立っている場所が、光と闇の境界線であることを痛感した。
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