#ヤクザの女に手を出した大学生

シロタカズキ

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裏社会の核心

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佐倉圭介の破滅という大仕事が完了した後の、深夜二時。

桐島蓮は、隠れ家的な高級ラウンジの非常階段で、黒いワンピース姿の桜庭梓と向かい合っていた。周囲には誰もいない。

「仕事、完璧でしたよ、桜庭さん。佐倉のようなエリートを、たった数週間でシステムへの最高の『顧客』に変えるとは」

桐島はあくまで冷静に、しかし賞賛の意を込めて言った。

桜庭は疲れたように微笑み、その瞳に僅かな冷たさを宿した。
「報酬は九条さん経由で確認します。それと……佐倉さんが私を救いの女神だと錯覚してくれた瞬間が、一番楽しかったわ」

「ご自身の役割を楽しんでいる。流石ですね」

桐島はそう返し、スマートフォンの画面をチェックした。報酬の入金確認が済めば、彼もまた一晩で大金を稼いだことになる。しかし、彼には佐倉のような自己破滅的な感覚はない。あくまで、これは知性と情報力を駆使した「ゲーム」だった。

「では、私はこれで。お疲れ様でした、桜庭さん」

桐島は一礼し、路地裏へ続く階段を降りた。時刻はもうすぐ午前三時。路地は冷たい風が吹き抜け、表通りの喧騒から切り離された、夜の底のような静寂に包まれていた。

コートの襟を立て、馴染みのない高級住宅街の入り組んだ道を進もうとした、その時だった。

十数メートル先の、黒塗りのセダンが横付けされたビルの陰。凍りつくような、背筋を這い上がる冷気を覚えた。

篠崎亮介。

彼はそこに立っていた。180cmを超す長身に、仕立ての良すぎる濃紺のスーツ。夜の暗闇の中でも際立つ、鋭く切れ長の目つきは、一瞬で周囲の温度を数度下げてしまうような威圧感を放っている。

桐島は反射的に、路地裏のゴミ箱の陰に身を隠した。鼓動が速くなる。なぜ、この場所に篠崎がいる?

篠崎の隣には、さらに信じがたい人物が立っていた。

線が細いスーツ姿。ホストかコンサルのように清潔感があり上品な、あの男――東雲司だ。

東雲は、一見和やかに、しかし目が笑っていない笑顔で篠崎に報告を上げていた。桐島は頭の回転の速さで知られているが、この場で目撃した光景は、彼のすべての理性を揺さぶった。

桐島は、呼吸を殺して耳を澄ませる。

「……佐倉は、これで完全にヤク中です。奴からは搾れるだけ搾ります。」

東雲は、篠崎に淡々と報告した。

篠崎はメンソールの煙を静かに吐き出し、答える。

「それはいい。山本組の大事なシノギだ。これからも頼むぞ。」

桐島は、ここで全身に血の気が引くのを感じた。「組のシノギ」? 九条響が持ち込み、桜庭が実行した、あの緻密な情報戦は、東雲司の裏事業だと思っていた。だが、その東雲の事業は、山本組若頭・篠崎亮介の管理下にあったというのか?

桐島は、壁に背中を押し付けられたまま、全身が鉛のように重くなるのを感じた。

自分が手を貸していたのは、高額バイトでも、情報戦でもなかった。それは、篠崎という冷酷な暴力と恐怖によって裏打ちされた、巨大で、逃げ場のないヤクザの『支配構造』そのものだったのだ。

桐島蓮の顔は青ざめ、額には冷や汗が滲んだ。彼は、遊び半分で足を踏み入れた闇の入り口が、想像を絶する深淵へと繋がっていたことを、ようやく理解したのだった。
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