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なーな
しおりを挟む「僕は小さい頃に思い出して、徐々に遠い記憶になっていった感じかな。僕も幼い頃から大概落ち着いていて、大人びていたというか、大人が子どものフリをしていたというか……。だから、子どもっぽくないだけではなくて、大人過ぎるソラも、もしかしてって思ったんだ」
向かいに座っていた二人は横に座り直し、内緒話をするように話を続けた。
繋いだままの手がソラの心をソワソワさせていた。
「私はお見合いの席で突然思い出したの」
タロはクックックと忍び笑いをした。
「紅茶吹いて咽せてたもんね。淑女が紅茶を吹いたのに、真顔で……ふふ、思えば、本来なら貴族としてあり得ない醜聞にもなることなのに……ははは、ソラ、君は腹筋を総動員して笑うのを堪えていたね? 何がそんなに『ツボった』の?」
バレてら。
でもなー、舐める「ぽ」と言って「ぽ」の破壊力を共有できるだろうか……。
散々説明してダダスベリするだけのような気もする。こういうのはフィーリングと勢いが大切で、決して分析したり説明したりするものではないと思う。
ソラが目を反らして黙秘していたら、タロが繋いだままのソラの右手を持ち上げて、ちゅっ、と甲にキスを落とした。
ぶわっ。
顔が真っ赤になるのがソラには分かった。
「な、ななななななななな」
慌てふためくソラは立ち上がってタロから離れようとするが、繋いだ手がそれを許さない。
タロはソラから目を離さずにもう一度手の甲にキスを落とした。
「ソラ? ……僕は、初めて会った時から、君を逃がす気はないよ。ペシェル家の有能美人三姉妹は社交界でも有名で、こんなチャンス逃すわけない。僕はちゃんとソラを唯一の女性として見てるよ?」
いきなりのムーディー展開に、ソラは混乱した。
「でも、でも……! 王女殿下は……? 殿下のことだって、伴侶になるつもりで……」
「殿下? ……ああ、対外的には三人とも候補だったけど、僕たちの間じゃ殿下の相手はマティアスって決まってたしなぁ。あの二人、相思相愛だよ? 幼馴染みとしての情もあると言えばあるけど、殿下は女王に相応しい素晴らしい方で、側にいるとしたら一臣下としてお支え申し上げる立場としてだよ?」
「だって、だってずっとその為に頑張ってきたんじゃないの?」
「王女殿下を自分の伴侶に望んだことはないよ。僕は王配のスペアとしての役割を国から望まれていただけ。僕自身が望むのは、ソラ、君だよ。他に聞きたいことは?」
ソラは、陸に上がった魚のように、あうあうハクハクと口を開いては閉じ、真っ赤な顔して俯いた。
「じゃあ次はソラの番。教えて? なんで紅茶を吹いたの?」
そう言って、タロはソラの腕を引いて隣に戻し、見つめたままゆっくりと近付いて、そっと唇に触れるだけのキスをした。
まつげが触れあいそうな程の至近距離から「もっと?」と囁かれたソラは、ぷしゅう、と萎んで観念した。
ぼそぼそと「タロ、ほーれ、舐める、ぽ」と「そら、舐める、ぽ」について、委細説明をした。
真顔。(←タロ)
く、苦行……っ!
もしくは新手の拷問……っ!!
「うーん、僕はずっと名乗っているからなぁ。共感してあげられなくてごめんね?」
謝られるという追撃。
「そんな優しさいらない」
ソラはこのことを一生根に持つと誓った。
一生、側で。
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