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第60話 口の車が良く動く
しおりを挟む「早く…早くしてくれたまえよ。」
「…え~。どうしようかなぁ」
「焦らさないでくれたまえよ!」
対抗戦のさなか、不穏な空気が一か所で渦巻いていた。
その不穏の正体は、勝者であるユンと敗者であるカナが出現させている。…おかしな構図だ。勝者が敗者に懇願しているのだから。
「…して、どのような方法で行ったんだい?」
「え~と。弓を打って水でカチッとして。それを好きな時にシュッて。あとは何かされたらポワンッてしろって。アル君が言ったから。やってみたら出来たの~。」
しっかりと説明をしたと思っているカナと、不思議な世界に引きずり込まれたユン。その時、間違いなくその一帯の時間は止まっていたように思う。
ユンの時間が動き始める。
「…んん?」
「君、もう少し。…わかりやすく、頼めるかい?」
笑顔で頷き、応えるカナ。
「ええ~とね。弓を打つでしょ~。弓を打って~水でカチッとして。それを好きな時にシュッて。あとは何かされたらポワンッてしろって。そう言われたの~。」
愕然とするユン。
「」
「ええ~とね。」
「ま、待ってくれ。全くワカラナイ。」
遠目で見ていると、間違いなく困っているAクラスのユン。大変そうだな。
「あ、アル君~。あの人だよ。教えてくれたの。」
そう言ってユンの標的を俺にするカナ。おい。お前の相手だろ。
高速の移動で、アルの傍にきたユン。
「…助かった。本当に助かった。…あの子の言葉が、まるで解らないんだ。勉強は誰よりもできる僕なのに、何を話されているのか、さっぱりだ。」
あれ?
なんか自分にも経験がある?…あ、魔法の授業だ。
あれは眠くなる。
バシがデールでルシにゴン。
ちょっと意味が解らない。似たような感じがする。
「おい、君。君も話を聞いてくれないのかい?」
違う事を考えていたアルに、呆れたようにユンが言う。
「…ああ、すみませんね。教えたのは俺ですね。カナは感覚で覚えたから、説明は難しいでしょうね。」
「おお、なら君が教えてくれ!」
「嫌です。」
ユンが表情を強張らせる。
「…は?君も立場を分かっていないね。教えてくれたまえよ!」
「嫌です!」
イラつく、ユン。
「・・・君、この僕が言ってるんだよ?卒業後、進路が無くなるよ?」
「別に構いません。俺、土だし。」
「…お金をあげようか?」
「いりません」
困り果てた、ユン。
「…むう。どうしたら良いのだい?」
「Fクラス全員にやっている訓練です。他言はさせません。」
「…ふふふ。成程な。それならば僕にも、考えがあるよ。Fクラスの上級生を、僕の進路に引っ張ろう!その情報、必ず聞き出してやる!」
単純な奴だ。もっと煽ってやろう。
「おーおー。そんなんで出来るかな?まあ、確かに少し情報持っていかれるけどね。」
「生意気な奴め。・・・だが面白い。気に入ったよ生意気君。」
「そりゃどーも。」
「このまま、勝ち上がってこい。その時、僕が勝ったら、理由を教えて貰うぞ!」
「じゃあ、その前に負けようかな。」
「…な!!ずるいぞ!君ぃ!」
扱いやすい人種だ。凄い思った様に動いてくれる。この騒ぎを聞いて対応しようとする教師の声が聞こえてくるので、さっとアルは逃げていく。
そんなやり取りでその場を終える。
「アル君、そんなやり方でも私達困るわよ?訓練なんて一日しか受けてないわ」
クリスさんがそこには居た。
「でもやってた事は伝えたよ。ギルドに行って鍛える、戦い方を工夫する。それだけだよ。」
「もう・・・期待度高くても、困るなあ。」
「…クリスさん、俺が渡したのは席じゃないよ。道を渡したんだ。」
「え?どういう意味?」
「其処にそのまま働けますよっていう席を渡したつもりはないけど、頑張れば何処へでも行ける道は示したはずだよ。だから今からの努力で、何処に行くかを決めるんだ。その時に「あの時の3年生だ」って言われたら、選択されやすい。それだけだよ。」
そうアルに言われ、妙に納得し反論が出来ないクリスがそこにいた。
「別にこの世界は実力主義だ。努力でどうにかなる。それをやったから、俺はこうやれているし。…皆も出来るんだ。工夫と努力だよ、クリスさん。」
「私達だって勉強したわよ?」
「努力の方向性じゃないかな?その勉強では花開かない人が勉強頑張っても仕方ないよ。それなら違う長所を生かすべきだ。」
それを聞いていたセリ先輩が寄ってきた。
「私なら移動を磨いて、都合のいい女になれって事かな~?」
「セリ先輩・・・。言い方やめて下さいよ。」
「え~。アル君の都合で呼び出して、終わればバイバイ。いっつもじゃん。」
「・・・アル君、本当なの?」
「私も聞きたい。」
「カナも~。」
「それは運命じゃない」
「ま、待て皆。勘違いすんな。」
セリ先輩に苦手意識を持ち始めた瞬間であった。
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