tea party

鴻上縞

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プロローグ

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 白馬の王子様がいつか迎えに来てくれるなどと恥ずかし気も無く妄想し、有りもしない絵空事を盲信している少女に言いたい。
 その紛いも無い純白の砂糖の中で満足行くまで溺れて、くたばっちまえ──と。

 現実は甘いものじゃないと言うのは、何も僕が世間一般から見れば確実な苦労人だからではない。確かに僕は夢を見る事も無く成長を続けた。目も当てられない貧民窟で飢えと共存し、シラミだらけの子供達の為に身を売って身銭を稼いだ少年期。奥歯なんて、もうとっくの昔に無くなった。

 あの頃の僕にとっては、血の繋がらない子供達が何よりの支えで、彼等は貧困と同じ位僕の命に馴染んでいたんだ。この生活が一生変わる事が無いと思ってもいたし、覚悟はあった。当然、はるか都会の貴族に見初められるなんてちょっとも考えた事はない。
 だから、こんな人生が僕に待っているなどと本当に考えもしなかったんだ。

 一年前、僕は馬丁としてこの屋敷に囲われた。それは半ば誘拐に近いものがあったのだけど、それは取り敢えず置いておこう。僕を攫った誘拐犯はこの屋敷の当主であり、どうやら異国から来たらしい金ばかり持っている男だった。
 塗り潰したように大きな黒々とした瞳の中には疎らに星が散っていて、撫で付けられた髪も同様、辺りの色彩全てを呑み込む上質な黒色をしていた。薄っすらと血の通ったなめらかな白い肌の上には、小ぶりながら尖った鼻と唇がくっ付いている。彼の小さな顔に置かれたどのパーツも各々の強い主張はせず、その奇跡的な調和はとても美しかった。
 彼はその類稀な美貌と、聰明さに加えた人当たりの良さで、どうやら社交界の人気者らしい。毎日毎日この屋敷を訪れる貴族は数知れず、その誰もが帰路につく頃には頬を緩めている。

 確かにその男、白崎しらさき 亨太朗きょうたろうは、その才能や持って生まれた美貌を鼻に掛けた様子は無く、冷徹にさえ思える刃にも似た美しい瞳を何時も惜しげ無く細め、時には道化のように人々を楽しませる事を好んでいた。彼の才能は不思議なもので、対面した相手を一瞬で見極め、話法を変えるのだ。会話の内容や、ジョークの質、僅かな声色までも変幻自在。それをまるで元から自分はこう言う人間だと信じ込ませる事が出来るのだから、恐れいる。
 だからなのだろうか。暇なマダムばかりでは無く、紳士までも彼に夢中になるのは。まあ、僕にとってみたら、彼は立派な独裁者なのだけど。それはおいおい分かる事となるだろうから、あえて僕の口からは説明しない。

 とにかく、今日もこの絢爛豪華なお屋敷で、身の毛もよだつような一波乱がありそうだと言う事だけは言っておく。
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