魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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魔性の堕天使 ⑥

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  サトコは、あかねが気になりキョロキョロ辺りを見渡すと、彼女の側までかけ寄った。
「あかねちゃん!」
あかねは、気持ち良さそうにベンチで眠っていた。
「この子は、私らの術式で寝てるから大丈夫だ。」
黒須は、ライターに火を灯すと煙をふかした。
「良かった…大丈夫なんだね…」
サトコは、安堵し胸を撫で下ろした。
「あ、あのさっきの魔物にやられた人も、他に沢山いるんでしょう…」
「ああ。今、仲間が術式で救済してる。だが、喰われた者や魔物と化した者までは…魂が喰われてるから手遅れだ。」
黒須は、煙を吹かしながら何やら深く考え事をしているみたいだった。黒須は時折、険しい顔つきになる。彼女は、何か重大な事を抱えているのだろうかー?
「…そんな…」
「すでに喰われた魂は、どうにもすることは不可能だ。」
黒須は、眼を細めて空を眺めて煙を吐き出した。
「人の魂が、化け物に次々と喰われたらどうなるの…?」
「幻界と現界が逆転するだろうな‥」
「…逆転…?」
「奴ら、黄魔が人間界を乗っ取るだろうな。そうしたら、街は黄魔だらけになっちまう。黄魔は普段は闇の世界、いわば幻界で生活してる。幻界は、混沌としていてね…そこは、生前または死後に大罪を冒した者が棲息してるんだ。魔王の力を借りてね。」
黒須の声のトーンが、急に低くなった。彼女が、こんなに生真面目に重々しく話すのは初めてだ。
「魔王…?」
「ああ…我々の真の敵さ。奴らが、霊を誑《たぶら》かせて力を与え黄魔を生成してるんだ。奴らは、普段は日光に弱いからあんまり姿を現さなくてね。」
 「黒須は、会ったことがあるの?」
「いいや。会ったことも見たこともないね。ただ、奴を始末しない限り、黄魔は次々と生成され続け、人間界に多大な被害が出るだろうね。」

    しばらく沈黙が流れ、サトコは、亡くなったサエコの魂はどうなるのかが気になった。
「ねえ、黒須が言ってた、自殺した人の魂の行く場所って…」
「ああ…それは、煉獄の最下層へと運ばれる。」
黒須の声のトーンは、徐々に低く重くなっていく。
「どんなに、どんなに辛くても…?」
サトコは、急に早口になった。サエコに対しての葛藤が、今でも強いー。
「そうだな…ただ、仲間が亡くなった者を弔うんだよ。天国へと行けるようにね。」
黒須の顔は、何処となく後悔や罪悪感が入り交じった寂しい表情になった。

「かつて、お前と、そっくりの親友がいてね…」
「そっくりの…?」
「彼女と私は、してはいけないことをしてしまったんだ…そして、今、こうして罰を受けている。」
サトコは、黒須の顔が、益々、曇ったかのように見えた。目は虚ろで空を見ている。
「…」
サトコは思った。
黒須は、自分のずっと知らない悲惨で残酷な世界を見てきたのだろうー。彼女は、幾千練磨の修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。
「いやいいんだ。大分昔の話だから。」
黒須は、ライターに火をつけると煙をふかした。普段、クールな筈の黒須だが、顔つきが何処となく弱々しいー。
「…」
しばらく重い沈黙が流れると、黒須は、口を開いた。
「私は当時、農村部出身でひょんな事から遊郭に拾われ、そこであおいと出会った。」
黒須は、話を続けた。
「アオイは、一見、大人しくおっとりしている感じだが、聡明で芯が強かった。彼女は、そこの先輩でね…私に何かと気にかけてくれて色々教えてくれたんだ。当時、私はど田舎から来たてなものだから、全く違う環境で馴染めなくて、まともに接客もできずにバカにされたものだ。私は、ずっと不器用で孤独で耐え凌いだ。しかし、彼女の存在が私の支えとなったんだ。」
サトコは、黒須とあおいが、自分とサエコの関係のように感じた。自分が窮地に追い込まれると、サエコはいつも心強い味方になってくれた。
 サエコが、何故自殺したのかは定かではない。サトコは、サエコの辛い心持ちを理解できなかった事とても悔しく、自分を何度も何度も気が狂うくらい責め続けた。

「…自ら亡くなった者の苦しみは、その人にしか分からない。お前が、どうこう自責の念に囚われても、もう、どうしようもない。私も、時々分からなくなるんだよ…」
黒須は、ボソッとした声で遠くの景色を眺めていた。サトコは、空が、灰色であらゆる怒りや哀しみが映し出されているような気がしてきた。
「私は死神だから、人間界への干渉は、一切許されないがな…」
 それは、黒須にしか、わからない強い葛藤や苦しみ沢山あるのだろう。
あの時、黒須が自分に厳しくしたのは、ああいう経歴があるからなのだろう。黒須は、死神である。だとしたら、自殺霊を弔う仕事も、長年経験してきた筈だ。それは、耐えきれなく辛いものであろう。

 サトコは、黒須が抱えている暗い胸の内を少し垣間見たような気がした。

 いつから、こんなに混沌とした苦しみだらけの世界になってしまったのだろうー?

    サトコは、心底この世界が憎く感じてしまうのだった。
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