魔人狩りのヴァルキリー

RYU

文字の大きさ
24 / 66

絵画の中の女の子 ②

しおりを挟む
     サトコと黒須は、和室へと案内された。薄暗く年季の入った廊下は、昔ながらの彫刻や置物が飾られていた。歩く度に廊下はキシキシ音を立てる。いかにも何かが出そうな予感がし、サトコは身震いした。 
 ふと、脇の方へと目をやると、白地に花柄のワンピースの少女の絵が、飾られていた。
「あの…この子は…?」
「ああ、この子ですか?この旅館の子でして、不慮の事故で亡くなっちゃったんですよ。随分大事に育てられ、気立ても良くてね。まだ12歳なのに、可哀想に…」
 女将はそう言うと、不憫そうに顔を濁らせていた。

 しばらく歩き、突き当りの角を左に曲がると、座敷があり、女将はドアを開けた。
「こちらになります。」
部屋の中は広々としており、古めかしい狸の置物や水墨画が飾られていた。
「では、何かありましたら、この内線へとお電話ください。」
 女将は、部屋の台座にある内線電話を指すと鍵を渡しドアを閉めた。
 
 二人は、館内着を着ると部屋を出て大浴場まで向かった。サトコは、行く途中の絵画を極力視界に映さないように顔を埋めた。
 
 幽霊は、いつからどうして怖いと認識するようになったのだろうー?

 湯船に浸かると、サトコはふと気になり黒須に尋ねてみた。
「ねえ、思ったんだけど…黒須も、幽霊なんだよね…?」
「半分正解で半分違うかな。」
「どういう事ー?」
「私は、ゾンビのようなものだ。」
「え…?」
 ゾンビという言葉に、サトコは拍子抜けしタオルを湯船に落としてしまった。
「私は、生前ゴタゴタがあって、死後、罰としてこうして無理やり身体を生かされてるんだ。」
「一度、死んだのに、魂が身体に戻された…って事…?」
「まあ、そう言う事だな…厳密には、死んで骨だけになった肉体が元に再生され、魂を封されたような状態になった訳だ。」
黒須は、どこからどう見ても身の人間のようだ。
顔も程よく火照っており血色が良いのに、何処がゾンビだというのだろうかー?
「黒須は、普通に寝て普通に食事してるよね…?」
「ああ…しようとすれば出来るさ。呼吸もね。心臓も動く。だが、肉体は一度死んでるから、生殖器は機能を成さないし肉体の成長も永遠にストップしたままだ。」
「ちょっと、触っていい?」
「ああ。」
サトコは、黒須の左頬に右手をかざした。頬は温かく柔らかいー。
彼女が、どうも一度死んでるようには見えないー。
寧ろ、一緒にいると強い安心感を覚える。
何らかの魔法の力が、働いているのだろうかー?

 
 その日の夜ーサトコは、どうしても寝付けず、散歩をしようかと悩んでいた。
サトコは、どうしても不気味な雰囲気は苦手だ。幼少の頃より、敏感であり
 すぐ側で寝ている黒須を起こそうとしたが、彼女は深い眠りについていた。
 サトコは、黒須の寝顔を見ていて思った。時折、彼女から感じる隔たりは死者と生者の交わってはいけない壁のようなものなのだと…

 サトコは、気晴らしに外の空気を吸おうと、旅館の外へと出た。何故、外へ出たのかは、分からないー。しかし、身体が磁石のように見えない力で引っ張られているような感覚を覚えたのだ。

 サトコは、旅館の橋を渡り、茂みの向こう側まで歩いた。この辺りは無法地帯であり、赤く立ち入り禁止とペンキで殴り書きしてある看板がロープにぶら下がっていた。
 サトコは、ロープを跨ぐとしばらく歩く。何もない森の中をひたすら歩くと、踏切がそこにあった。車で向かってる途中に見た踏切だ。寂れたレールは黒ずんでおり、もう、何年も使われてないかのようである。
すると、茂みの脇のほうから子供の足音が聞こえ、白いワンピースのランドセルを背負った女の子の後ろ姿が見えた。

 すると、急に踏切が大きくカンカン鳴りだし、サトコはビクッとのけ反った。


 こんな真夜中に何で子供がいて踏切も鳴るのだろうー?しかも、こんな時刻に…
 服装も、違和感を感じた。大分昔の時代であろう、レトロな感じの花柄のワンピースを着ていた。しかも、この辺りは、とっくに廃墟だった筈である。
 少女は、そのまま踏切を跨ごうとする。
「あ、危ない…」
 すると、少女は、急にコチラを振り返ると笑みを浮かべていた。
 その笑みは、何処となく不気味なものであった。左右不釣り合いであり口が裂けるほどの笑みである。サトコは、ゾクゾクしたものを感じ引き返そうとした。

 しかし、次の瞬間、サトコは急に生気が薄れ、脚は自然と踏切の方へと向かっていった。

 少女は、不気味に手招きしている。電車との距離は縮まっていくー。

 サトコの瞳孔は死にかけていた。身体はマネキンのような無機質な状態で、少女の方へと向かっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件

帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。 だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。 父や当人、関係者達から聞いた、怪談・奇談を集めてみた。 父本人や作者の体験談もあり! ※思い出した順にゆっくり書いていきます。 ※場所や個人が特定されないよう、名前はすべてアルファベット表記にし、事実から逸脱しない程度に登場人物の言動を一部再構成しております。 ※小説家になろう様、Nolaノベル様にも同じものを投稿しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...