魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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悪魔のゆりかご ①

サトコは、黒須と共に仕事をするようになってから、悪夢にうなされることも、少なくなってきた。

自分の魂の色相の濁りも、徐々になくってきた。今まで、沢山の彷徨える魂の鎮魂をしてきた。

彼らは、それぞれの人としての苦しみを抱えて生きていた。
生前からの憧れ、哀しみや苦しみ、怒りの感情で、苦しみを抱えてきたのだ。

もがき苦しみ、そして悩み抜いてきた。

苦しくて苦しくて、胸が張り裂けそうな強い気持ちを抱えながら、霊達は孤独に苦しんできたのだ。

霊の存在を怖いと感じていた自分を、サトコは強く恥じた。
彼らは、好きでこうしている訳では無いー。

誰か、救いの手が欲しかったのだー。

そんな自分も、ずっと黒須にすがっていてはいけない。

成長せねばならない。

そして、いつか、別れのその時が来るのだ。




その日も、サトコは寮を出ると自転車を漕ぎ職場まで向かった。
 

自転車を停めると、向こう側の木の裏から見知らぬ奇妙な人が姿を現した。

深々とフードを被った中性的な人が、こちらに向かって歩いて来たのだ。

ここの従業員だろうか?


銀髪に緋色の目ー。
彼は、微かにニヤついている。
何かのコスプレだろうか?

すれ違いざま、彼と目が合った。

「やあ。君、白田さんだろ?」

「…え…?…はい…?」

「君は、黒須によって霊障から助けてもらった娘だね?症状は、収まってきたかい?」

フードの人は、微笑むと林檎をかじる。サトコは間近で見ると、彼は背中に鎌のようなものを背負っているのが見えた。

彼も、死神だろうかー?

「あ、はい…どうしてそれを…?」

「私、黒須の先輩だからね。彼女のことは、何でも知ってるよ。」
彼は、無邪気な笑みをサトコに向けると、カシュっと音を立てて林檎を齧った。

「そうなんですね…」

「黒須は、元気かい?」

「え?はい。」

「それは、良かった…」
彼は、終始ニヤついている。
少年か女かは、定かでは無い。だが、性別を聞くのは、失礼に当たることだろうー。

すぐ隣の幼稚園から、子供の無邪気な声が響いてきた。
黄色い帽子を被った子供達が、目を輝かかせ無邪気に公園を駆け回る。

「子供か。子供は、いいよねぇ。」

死神は、目を細め公園を自由に動き回る子供達を眺めている。

「子供、好きなんですか?」

「いや、興味深くてね…子供は、前々からずっと気になってたんだよ。ホントに無邪気で純新無垢で、天使のようだよね。この、愛くるしい笑顔を黄色い声を、黒で染めたらどうなるんだろうね?」

死神は、目を吊り上げ悪戯げな左右非対称な笑みを浮かべている。
サトコは、急に胸がざわざわした。口元から八重歯が、チラ見する。

彼は、サトコが子供の頃に見た、底意地の悪い人達そっくりな邪悪そうなオーラを出している。

コイツは、ホントに黒須の先輩で味方なのだろうかー?

「…え…?何を言って…?」

「ははは。冗談だってば。流石に、そんな惨いことはしないさ。ジョークだよ、ジョーク。」

「…そうですよね。びっくりしちゃいました…」

サトコは、拍子抜けしどっと全身の力が抜けた。


その、少年か女か不明な奇妙な死神は、林檎を齧るとサトコの肩に手を叩く。

「今日は、君のことを見に来ただけだから。例の黒須の相棒の女の子って、どんな娘なのかな…?って、気になったもんでね。じゃあ、またね。」


彼は、飄々とした表情で手を振ると、竜巻状の強い強風が吹き荒れた。

そして、彼の姿は強風に掻き消され、強風も収まり姿を完全に消した。

「…なんだったんだろう?あれ…」

サトコは、首を傾げ職場の入り口まで向かった。


仕事中も、あの死神について頭から離れなかった。
直感で、何処かしら危険な香りは感じていた。
無邪気な天使の裏に、悪魔のような禍々しいダークマターがあるようなかんじがした。だが、それは、ただの杞憂なのかもしれない。

サトコは、黙々と検品作業に取り組んだ。


昼休み、サトコは、軽い気持ちで通信機でさっきあったことについて黒須に話した。

黒須が、『ちょっとしたことでも私に話すように。』と、言っていた時のことを思い出したのだ。

サトコは、待ち合わせの駐輪場の方へと足を運んだ。

黒須は、声を濁らせると直ぐさまサトコの元へと駆けつけた。
彼女は、バイクを乱暴に停めるとサトコに事の詳細を尋ねた。

「うん、紺色のフードを被った死神で、林檎を齧ってた。黒須の先輩だって、言ってたよ。」

「そいつの焔の色は?」

黒須は、血相を変えてサトコに詰め寄る。

「…あ、確か、その人の去り際にオレンジ色の焔が見えてー」

「アオサだ…何で奴が、このエリアに?」

黒須は、何か、確信についたように目を細め顎に指を当てた。

「良いな?常にこれを持ち歩くんだ。」

黒須は、胸ポケットから札を取り出すとサトコに手渡した。

「あの、アオサっていう死神…そんなにヤバい奴なの…?」

サトコは黒須から札を受け取ると、首を傾げ胸ポケットに収めた。

「ああ。奴は、屑中の屑だ。奴の手中に掛かると、魂は濁り腐り、やがて邪鬼になると言われてるんだ…」

「邪鬼…?何それ…?」

「悪霊の進化版だよ。理性も記憶も、人の言葉もほぼ完全に失う。邪鬼は、常に過去の記憶に囚われ、時に、人の魂を生者の魂をも貪り食うんだ。」

「あの、アリアみたいなもの…?」

「アリアとは、少し違う。アリアは、理性も記憶も言葉は失わない。無闇に魂を貪り食わない。邪鬼は、もっと厄介な存在なんだよ。」

「それは、大変だね…」

「奴は、最悪な死神だ。いや、もう、死神ですらない。餌となる人を見つけては、その人の心の隙に入り込み弄ぶ最低最悪な屑野郎だ。奴がいるお陰で、あらゆる摂理が崩壊仕掛けてる。」

「何で、上は何も言わないの?」
黒須の怒りに満ちた強い口調から、サトコは急に不安になった。胃が、キリキリしてくる。

「奴は、悪知恵が働くんだよ。弁が巧みなもんでね。だが、奴を絶対に野放しには出来ない。私が、必ずこの手で仕留める!」

黒須は眉間に深い皺を寄せ、いつにも増して眼を釣り上げ、怒りを顕にした。

その眼光は、獲物を狩るライオンのようにかなり険しくなっていたのだった。

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