魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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氷の悪魔と死の輪舞曲 ①

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黒須は、サトコを連れて二つの霊魂を霊界へと送り届けた。

サトコの目には、不思議と大粒の涙が浮かび上がっていた。
自然と涙が次々と溢れ出て、頬を伝う。
胸の奥から熱い感情が湧き上がってきた。

それは、霊障によるものなのか、定かではない。

幽世の森の中を黒い車が走っていた。その中の助手席で、サトコは黒須に見られないよう、ひたすら涙を拭っていた。

死神業を終え施設に戻り、夕食を済ませ自室のベットで深い眠りについた。

起きると、時計は深夜の十二時を過ぎていた。五時間程寝落ちしていたらしい。
しばらくぶりに深く寝た気がする。

黒須と色んな体験をするようになってから、サトコは霊に対する恐怖心薄れ、彼等と人として向き合えるようになってきた。


水を飲もうと、階段を降り台所に向かう。

台所の奥から、硬いものが切れる音がした。

今の向こう側の薄暗い方からで、女の子がブツブツ独り言を言っているのがみえた。

恐る恐る覗いてみると、
居間では女の子がクタクタの虚ろな目のプラスチック製の人形をテーブルに置き、じっと見つめていたのが見えた。

電気をつけない和室の居間のテーブルに人形を起き、正座をし向き合っている。

「これ、どうしたの?」
サトコは、話し掛けた。
この子は、明らかにおかしい。
いつも明るく天真爛漫な子なのだが、今は、何処と無く不気味な雰囲気を出していた。
「この前、学校の帰りに拾ってきたの。」
女の子の口調は、明らかにおかしい。低く重苦しい感じを放っている。
その人形は、所々、小麦色の肌に白灰色のホコリのような着色汚れが沈着している。
「何これ?随分、年季の入った人形だね。」
サトコは、眉を潜めた。
「うん。でも、何か、この人形変なの。ひと月程前、部屋に持って帰って一緒に寝るようになってから、時折、視線を感じるようになってきたの。そして、部屋中が焦げ臭くなって…」

サトコは、直感で奇妙なざわめきを感じた。
これは、只の人形じゃない。
霊気の気配や、オーラの質量で分かる。
この人形の中に、何か死霊の気配を感じる。それは、目の前の女の子と同じ位の年齢の少女の霊魂だ。

「アスナちゃん、ちょっと、見ていい?」

サトコは、アスナに許可を得ると、その人形を持ち上げじっと見つめた。

ソレは、クセ毛がかった毛糸の髪を後ろに束ねており、虚ろな黒い眼をしている。黒い眼は、大きくクリクリしておりビー玉のような素材で出来ている。

ーと、一瞬、その黒い眼がサトコの目と合ったような気がした。
サトコは心臓がひっくり返り、背筋にドライアイスのような乾いたゾクゾクする寒気を覚えた。
「アスナちゃん、これは、駄目だよ!」
サトコは、強く首を横に振った。
「え…?だって、可哀想だよ。ゴミ捨て場にずっと放置されてたんだよ?」
アスナは、眉を八の字に寄せた。

ーもしかして、この子は既に霊障にかかっているのではないだろうかー?

「これは、霊がアスナちゃんをおびき寄せたものだよ。何か、訴えかけてるのかも知れない。だけど、アスナちゃんは引きつけられる可能性があるから、これは私が預かっておくね。」

サトコは、人形を持ち上げると、もう一度、その顔を見つめた。ただのビー玉のような丸いその眼は、どこまでも深く透き通っているようだった。
だが、それは生身の眼のような感じもあり、中に魂が宿っているような、独特の奇妙な違和感もあった。

「サトコちゃんは、大丈夫なの?」
「私は、胸に御守りがあるから大丈夫。これ、知ってる霊媒師の所に持っていくね。あと、アスナちゃんに除霊の御守り買って来るから。ここで待ってて。」

「うん。分かった。」
「あ、これ一応、持ってて。」
サトコは、胸元の御守りをアスナに手渡した。
「分かった。ありがとう。」

サトコは、人形を持ち自室へ携帯を取りに戻り施設を出ると黒須に電話し事情を話した。

『 分かった。今、必要なアイテム揃えて、そこに向かうから。』

黒須の深鬱な声が聞こえてきた。彼女は、勘が良く聞いただけで状況が読めるのだ。

それにしても、不思議だ。
何で、一ヶ月もの間、この人形に取り付いている霊魂はずっと気配を隠していたのだろうかー?

再び、強い違和感を覚えた。

その、違和感がする方へ視線を移すと、人形の手が自分の手と繋いである状態にあったのだ。

さっきまで、自分は腕を掴んでいたはずだ。
首を傾げ人形の腕を掴み直すも、人形の手はサトコの右手をギュっと、キツく握り締めた。

ー痛い…!!

あまりの痛さに、サトコは涙が出そうになった。


ーと、鋭い寒気が迸り、サトコはその寒気の方へと視線を向けた。

人形が、鋭い怒りの形相でこちらを睨みつけていた。

「わっ…!」
咄嗟に悲鳴をあげ人形を落とそうとするも、人形の手はしっかりサトコの手をキツく握り締めていた。

「あーあ、もうすぐで上手くいっていた筈なのにな…」
人形の口から、ドライアイスのような低いハスキーボイスが響いてくる。
サトコの全身に、冷や汗が迸る。
「な、何が目的なの…?」
サトコは、ガクガク震わせながらも、それを悟られないように慎重になりながら、重たい口を開いた。

人形の体内に秘められた禍々しい強烈な霊気に、サトコは青ざめた。

フリーな左手でズボンのポケットからサジタリウスを取り出し、人形の額目掛けて照準を合わせる。

「大人しくしないと、コレ撃つよ…」
右手を上に上げ、サジタリウスの引き金を慎重に引く。

だが、人形の形相は、益々悪化していく。般若に近いようなおぞましい、邪悪な笑みをこちらに向けている。月の光を背にしたこの人形は、不気味さを増していく。

人形は、視線を寮の方へと向ける。

「こういうことだって、出来るのよ?」

人形の眼が、銀色に変色していく。

ーと、辺りが強烈な冷気に包まれ、サトコは咄嗟にサジタリウスの引き金を引いた。

だが、強烈な冷気は弾丸を氷漬けにし、そしてそれはガラリと音を立ててら床に転がり落ちた。

人形の銀色の目から、ドライアイスのような奇妙なレーザービーム状の霊気が放出された。

「待って…」
 
サトコがそう言いかけたが、寮はたちまち氷漬けになった。

辺り一面、30メートル四方全域が次第に氷と化し、それはまるでおとぎ話の世界のような奇妙な光景へと様変わりした。

「何よ、これ…?!」
サトコは、眼を大きく見開き瞳孔を不安定に揺らした。
「私の名前は、リアナ誰も居ないことだし、ここでかくれんぼして遊ばない?」
リアナは不気味に微笑むと、首を左に傾げた。
その禍々しい奇妙な人形は、両目を歪に大きく見開くと無邪気に笑っている。首はクルクル激しく回転した。

サトコは、その不気味さと無邪気さを併せ持った奇怪な人形に全身が大きく震え上がったのだ。
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