デスゲーム教室の金の亡者

月田優

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意味と持論と信条と心情

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 授業はいつも通り終わり、今日も放課後は勉強会。

「今日も勉強していくわよ。明日はいよいよ小テスト当日。気を抜かないで」
「ふはぁい」
「星くん。気の抜けた返事をしない。退学したくないんでしょ」
「……………はい」

 星は相変わらずやる気がなさそうだが、それでも勉強会に参加している。
 それだけ退学したくないということだろう。
 オレも白銀の勉強を邪魔しないようそれなりに問題集を解いていく。

「とりあえず明日の小テストを乗り越えればひと段落だわ。だから、今日は特に本気で取り組むのよ星くん」
「……………それにしても、この勉強会ってどこまで意味があるんだ?」

 星がいきなり勉強会の意味について七瀬に訊ねる。

「いまさら何言ってるの?学力を向上させるには、日々の積み重ねあるのみよ」
「俺みたいなやつは、どう足掻いたって結局結果は同じなんじゃねえか?」

 弱気な発言をする星。

「それはあなたの努力次第よ。努力しないと、行動しないと何も変わらないわ」
「けどよ……………」

 勉強会の意味が分からず、星のやる気もさらに下がっている。
 結果が保証されていない努力は、本当に結果がでるかどうかわからないから揺らいでいるんだろう。

「それでも、やるしかないのよ。やっておけばよかったと後悔したくないでしょう?」
「………そうだな。一応やるだけのことはやってみるけどよ……………」

 やるとは口にしたものの、歯切れが悪く、やはりやる気のない星。

「星くんのことだけど、どう思う?」

 白銀がオレに訊ねてくる。

「どうって何が?」
「星くんが小テストで退学するのかしないのかってこと」

 星の学力は勉強会のおかげで間違いなく上がっている。
 問題は、どの程度上がっているか。
 上がってはいても、それがほんの僅かだったらほとんど意味がない
 星の言う通り、意味のない勉強会になってしまう。

「九条くんは、星くんは退学すると思う?」
「さぁな」

 そんなことオレにわかるはずがない。

「けどな、星は勉強会に意味がないとぼやいていたが、意味は自分で見出すものだ。これで結果が出ず退学になったら意味のない勉強会になるし、生き残れば意味のある勉強会になる。要は自分次第で物事の意味は有りにも無しにもなる、ということだ」

 意味があったかどうかは結果次第で大きく変わる。

「例えば、人生に意味なんてあるのか、と訊ねる人間がいる。生きる意味が分からないと嘆く人間がいる。しかし、意味がわからないのは当たり前なんだ。旅行に行った人間がその旅行が楽しかったのかどうかが分かるのは、旅行が終わって家に帰ってくつろいで振り返っている時だ。つまり、その旅行がどうだったのかわかるのは、終わった後だ。要は、終わってみるまで意味があるかはわからない。意味があるのかどうか訊くのではなく、意味あるものにするために、今を全力で生きる。オレたちにできるのはそれだけだ」

 人生を生きる途中のオレたちは、まだ結果が出ていない勉強会状態。
 意味があるのか当然わからない。
 死ぬ間際になって初めてわかるんじゃないだろうか。
 つまるところ、人生とは意味が分からず意味不明なものなのだ。

「……………深いね。私はそこまで考えて生きてなかったよ。九条くんのこと感心しちゃった」
「これまでやってきたことを、過去を嘘にしないために今を生きるんだ」
「………………それが九条くんの持論?」
「信条だ」

 こういう考え方をしていると心が揺らがない。
 悩むことがなく楽でいい。

「私も九条くんのこと見習おうかな」
「だが、それは一般論だ」
「……………え?」

 予想だにしていなかったオレのセリフに白銀が呆気にとられる。

「結果が保証されていない、意味が分からない状態では心が揺らいでしまうのも事実。当然、結果は保証されている方がいい。結果が分からないことをするのは不安と緊張があるものだ。どうせなら安心したい。やらずに後悔するぐらいなら、やって後悔する方がいい、という言葉があるが、オレに言わせれば、やっておいて後悔するぐらいならやらない方がいい」
「お、おぉ………………ん?」

 白銀はどう反応していいのかわからなくなっていた。

「ならばどうするのが正解か。意味あるものにして後悔しないためにはどうすればいいのか」

 オレの心情を話し伝える。

「それは、結果を保証させるんだ。意味を有りに確定させて、未来を確定させるんだ。意味は結果によって左右される。ならば、結果が出るように誘導するんだ。この勉強会で言えば、星が100パーセント退学せず生き残れる状況を作り未来を確定させる」

 意味があるかどうかは後になってわかると言うならば、未来を自分で作ればいい。
 そうすれば必ず意味があるようになる。
 悩む必要も後悔する必要もない。

「………九条くんには何が見えてるの?………いやーーーーーこれまで、何を見てきたの?」

 オレは何も答えず無言で悲しく笑みを浮かべる。
 上手く笑えているだろうか?
 いや、きっと不格好で渇いた笑みになっているだろう。
 その表情だけで、何かは伝わったはず。

「……………難しい話でほとんどわからなかったけど、一つだけ聞かせて。結果を保証する、星くんを100パーセント退学しない状況を作るって、そんなことできるの?」
「さぁ、どうだろうな」

 今のところその必要性は感じられない。
 このままいけば小テストはなんとかクリアできそうだ。
 だが保険はあるに越したことはないだろう。
 万が一の事態が起きたら、結果はわからないからな。
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