【完結】生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか

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1巻

1-3

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 翌朝、いつもより早めに起床して謁見えっけんの為の準備を始める。ユウキが部屋に準備してくれた朝食を軽く食べてエントランスに行くと、すでにお父様が私を待っていた。

「おはようございます。お父様。お待たせして申し訳ありません」
「いや。私も今来たところだ。さぁ、行こうか」

 馬車の中ではお父様と二人きり。沈黙が流れる……どうしたら良いか分からず下を向いて頭を悩ませていると、急にお父様がゴホンと咳払いをする。思わず顔を上げると、お父様は気まずげに私を見ていた。

「……アエリア、ケンビットとは仲良くやっているか?」
「はい。仲良くさせて頂いております」
「そうか……ならば良かった。ケンビットは国民からも慕われていて賢く有能だ。このままいけば私の兄上……前国王ランドルを超える素晴らしい賢王になるだろう。そして、それを実現させる為にはお前の存在はとても重要だ。どんな時もケンビットを支え、国の為に尽力してくれ」
「はい。わかっております」

 お父様は私の返答を聞くと苦笑いをする。

「お前には苦労を掛けるな」

 お父様が小さな声で呟く。

「……苦労なんてしておりません。この国の為に私がすべき事は理解しております。ケンビット様にも優しくして頂いていますのでご心配には及びません」

 私の答えにお父様は軽く頷くと、ふぅ……と息を吐いて少し悲しげに馬車の外へと目をやった。


 バルメルク家から王城までは馬車で五分程度の距離。王城に着くとお父様のエスコートで馬車を降りて、そのまま謁見えっけんの間に向かう。
 そして、謁見えっけんの間の扉の前に控えていた騎士がお父様と私の姿を確認すると、大声で私達の訪問を告げる。その声と同時に目の前の重い扉が開いて、騎士が私達を先導する。一定の場所まで行くと、お父様は敬意の礼を、私は淑女の礼をする。

「フェルトン、アエリア嬢、朝早くからご苦労だったな。頭を上げてくれ」

 頭を上げると国王陛下の隣にはカエラ様が座り、その隣にケンビット様が立っていた。
 お父様はこの状態に「はぁぁぁぁ」っと深いため息をつく。

「陛下。謁見えっけんを命じられましたので形式通り登城させて頂きましたが、ここまでする必要はあったのですか?」
「国にとって重要な事を話すのだから、キチンと形式に乗っ取ってやるべきだろう」
「形式に乗っ取って? 私は全て知っていますからね。言ってしまえば陛下より詳しく状況を存じております。娘には……アエリアには自分で伝えたいから私からは何も言うなとか、折角だからと登城を命じるとか……私達も暇ではないのですが」
「フェルトン。私は国王なのだが……」
「えぇ。わかっています。だからこうして命に従いました」
「…………」

 お父様と国王。二人のやり取りに私は呆然としてしまう。

「陛下。フェルトン。アエリアが困っておりますわ」

 カエラ様は上品に笑いながら私に目を向ける。ケンビット様は私をチラリと見てからすぐに国王に目線を移す。

「父上、まずはアエリアに話を……」
「あぁ、そうだな。アエリア嬢すまなかった」
「い、いぇ……」
「先日のコスタル村の件、アエリア嬢の判断には感謝する。その後、ケンビットを中心に復興は進み。予定より早く村民の大半が災害前の通常の生活に戻っている。原因の方はまだ不明だが、余震の心配もなさそうなのでこの件は一旦保留とし、このまま経過観察となる」

 国王の言葉でコスタル村で出会った子供達の顔が浮かぶ。 

「それで、この災害の復興に尽力してくれたグランドールメイル帝国皇帝メイルに、感謝の意を込めこのドイル国で〝感謝の宴〟を開かせて頂きたいと一報した」
「……感謝の宴ですか?」
「あぁ」
「五日間、ドイル国に来て感謝の宴を受けて頂きたいと送った」

 お父様が国王の言葉に補足する。

「五日間も?」
「断られる事を承知で送ったのだが……」
「断られなかったのですか?」

 国王はコクリと頷くと三本の指を立てる。

「三日間……。十一月の下弦の月の頃、三日間のみ受けると返事があった」


「……三日間」

 あまりに異例な事に私は言葉を失う。
 感謝の宴とは、よほどの事がない限り行われる事のないおもてなしの宴。宴の期間中、この国の主が国王ではなく招待をした賓客になる。賓客を主とし、この国を担う国王や王族自身が直接その賓客をもてなす。
 もちろん国内の政治や国営には一切関わらせる事はないけど、王族が直接もてなす感謝の宴は国を挙げて最上級の感謝の意を示す。そして、宴の期間が長ければ長いほど感謝の気持ちが強い事を意味する。
 感謝の宴はどの国も夜会のみというのが主流。長くても一日。それ以上の日数を費やすのは異例な事。……でも、メイル陛下が大国グランドールメイル帝国の皇帝陛下という事と、復興まで数年かかると思われていたコスタル村を、普通の人では持ち得ない不思議な力で一瞬にして復興して下さった事を考えると、その位の誠意を見せるのは国として賢明な判断なのかもしれない。

「アエリア嬢にはパーティーの準備や、皇帝が滞在中の詳細をカエラと共にお願いしたい。そして当日には、皇帝陛下のホスト役としてケンビットと共に動いて欲しい」
「……っ!! そんな重役……私でよろしいのですか?」
「そなたほどの適任者はいないであろう?」

 私は戸惑うが、これはいわば王命。断る事なんて出来るはずがない。

「かしこまりました。喜んで務めさせて頂きます」

 国王は私の返答にゆっくりと頷く。お父様も少し不安げな顔をしながらもコクンと頷いた。
 それから私は今後の話し合いをする為、カエラ様とケンビット様と共に別室に向かった。
 別室に入ると、そこには他の人から今回の話を聞いたのであろうユウキがすでに待機していた。これから忙しくなる中、ユウキの協力は私にとって必要不可欠。ユウキの姿を見て不安だった気持ちが少し落ち着く。

「今は十月の満月の時の頃。十一月の下弦の月の頃となると約一か月半しかありません。かなり忙しくなりますよ。まずは、主となる宴のパーティーをいつ行うかを決めて、招待客を厳選しなくてはね」

 カエラ様が椅子に座りながら開口一番に言う。

「パーティーはやはり初日が良いのではないでしょうか」
「そうね……では、皇帝陛下に喜ばれる我が国でのおもてなしとは何でしょう?」
「喜ばれるおもてなし……」

 私はコスタル村でお会いしたメイル陛下の事を思い浮かべる。あのメイル陛下が興味を持ち、喜んでくれそうな事……神の愛し子、加護持ち、覇気の使い手、守りの森の番人……色々なワードが頭を巡り、ふと、守りの森の事を思い出す。

「……国境の砦」
「国境の砦?」
「はい。我が国が誇る国境の砦を見て頂くのはいかがでしょうか? 歴史的にも価値のある場所ですし、現在は近づく事も禁じられております。帝国は森に囲まれ守られておりますので、同じ様に我が国を長年守り続けた国境の砦には興味を持って頂けるのではないでしょうか?」
「そうね。それは良いかもしれないわ」

 私とカエラ様が話を詰めていると、それまで黙って私達の話を聞いていたケンビット様が軽く頷いて立ち上がる。

「細かいところは徐々に詰めて、決まり次第私に教えて下さい。それを元に私は警備や安全面について騎士団長や宰相と話をまとめます」
「わかったわ」
「かしこまりました」

 私が頭を下げると、ケンビット様は私に近づいて肩に軽く触れる。

「アエリア、これから互いに忙しくなる。なかなか会う事も難しくなるが、よろしく頼む」
「ご期待に沿えるようがんばります」

 私の返答にケンビット様は軽く頷いて、カエラ様の方に視線を向ける。

「母上、アエリアの事をよろしく頼みます」
「大丈夫よ。任せて。アエリアと一緒に全てを完璧にこなしてみせるわ」

 ケンビット様はカエラ様のその言葉にホッとしたような表情を見せると、軽く頭を下げて部屋を出ていった。
 部屋を出ていくケンビット様の後ろ姿を眺めていると、私の後ろに控えていたユウキが、慌てて私にマリーナお姉様から預かったケンビット様宛のお土産を持ってくる。

「アエリア様」
「あっ……」

 私は慌ててユウキからそのお土産を受け取ると、ケンビット様を追いかける。

「ケンビット様っ!!」
「……どうした? アエリア」

 追いかけてきた私を見てケンビット様は驚いた表情を見せる。

「お呼び止めして申し訳ございません。これを……」

 私は息を切らせながら箱をケンビット様に差し出す。

「これは?」
「先日産業祭に参加したお姉様が買ってきて下さいました」

 ケンビット様は私から箱を受け取ると中身を確認して目を見開いた。

「見事だな……」
「はい。私も同じ物を頂きました」
「同じ物を?」
「はい。世界に二つしかない私とケンビット様だけが持つ揃いのグラスだそうです」

 私の言葉に、ケンビット様は再び箱の中のグラスに目をやって軽く微笑む。

「そうか。今度マリーナ嬢にはお礼をしないといけないな」

 そう言ってケンビット様は箱を丁寧に閉じると、私をジッと見つめる。

「アエリア……皇帝は私と年も変わらないながら不思議な力を持ち、各方面から確固たる信頼を得ている侮れない人物だ。大変だとは思うがよろしく頼む」
「はい。カエラ様と共に精一杯務めさせて頂きます」

 ケンビット様は頷くと、私から一度視線を外して何かを考えてから「期待している」と言って私に背を向けた。


 それからは本当に忙しい日々が始まった。やる事、考える事は多岐に渡り、疲れ切って、帰宅すると何をする訳でも無く身体を清めて寝る。朝にはまた王城に向かい準備をする。そんな日々だった。

「アエリア様。だいぶお疲れのようですが大丈夫ですか?」

 いつも近くにいるユウキが、そんな私を見て心配をしてくれる。大丈夫かと問われれば正直大丈夫ではない。毎日、気が抜けないのでかなり疲労は溜まっている。

「感謝の宴が終わったら、何も考えずとにかくゆっくり休みたいわね」

 その言葉にユウキは眉をひそめて悲しそうな顔をする。

「まぁ無理よね……冗談よ。でも、ユウキも大変でしょう? いつも私に付き添って」
「そんな事ありません。私がお力になれる事は少ないかもしれませんが、アエリア様はもっとユウキを頼ってください」

 ユウキは激しく頭を横に振って否定すると、必死に訴えてくる。そんなユウキの姿に私は自然と笑ってしまう。

「ふふ……ありがとう。じゃあ寝る前に一息つきたいのでハーブティーをいただける?」
「かしこまりました」

 ユウキが部屋を出て行く後ろ姿を見つめて、私はフゥとため息を吐く。忙しい時は過ぎるのが早く、感謝の宴まであと一ヵ月を切った。本来なら準備に三か月から半年位かけてもいい規模の宴を一か月半で準備するのは流石さすがに骨が折れる。
 しばらくしてユウキが戻ってくると、お茶より先に私に手紙を差し出す。

「アエリア様宛にお手紙が届いておりました」
「手紙? 誰から……」

 私はその手紙を受け取ると、押されている封蝋を確認して思わず固まってしまう。

「帝国印……」

 押されていた封蝋の印は、間違いなくグランドールメイル帝国皇帝のものだった。
 私は慌てて机の上に置かれていたペーパーナイフを手に取り、手紙を開封する。
 手紙の内容は返信が遅れてしまった事への謝辞から始まり、コスタル村の現状に関しての安堵の言葉。そして、感謝の宴の招待を受けた事と、私からのお礼にはダンスを一曲踊って欲しいという旨が書かれていた。
 手紙の文字は男性特有の乱暴に書かれたものではなく、一文字一文字が丁寧に書かれていて、文面の最後の署名にはグランドールメイル帝国の皇帝の印章が押されていた。これが正式な書簡だと言う証拠。
 手紙を読み終えると、胸の奥からじんわりと、何とも言えない温かい感情が込み上げてくる。
 先程まで感じていた疲れが一気に吹き飛ぶ。

「アエリア様?」

 ユウキがれたてのお茶をテーブルに置くと、心配そうに私を見てくる。
 私はそのお茶を一口含むと、自然とため息が出る。

「返信を書くわ。紙とペンをくれる?」
「はい。こちらに」

 すでに用意されていた紙とペンをユウキが私に差し出す。

流石さすがね」

 私の言葉に笑みを浮かべて頭を下げるユウキに、私も思わず笑みがこぼれる。
 そんなユウキを横目に、メイル陛下からの手紙をもう一度読み返す。

『何か礼を、との話だが、ぜひ宴のパーティーで一曲ダンスのお相手をお願いしたい』

 社交辞令だとわかっている。でも、この些細な一文を嬉しく思ってしまう自分がいる。
 私は、飲んでいたお茶をすべて飲み切ると、迷いなく了承の返信を書いた。
 感謝の宴の準備で毎日が忙しくて、宴当日の事なんて考える余裕がなかったけど、なんだか少し楽しみになってきた。当日もきっと大変だろうけど、メイル陛下に満足して頂けるように最善を尽くそう。


   * * *


 それからも変わらぬ忙しい日々を送り、気付けば宴まで後、半月余りとなった。宴の準備もかなり大詰めとなり、忙しいながらも少しだけ余裕も見えてきた。
 カエラ様からは、宴の日時も近づいてきたので体調管理をしっかりと行い、自身の準備の為に、今日からは少し早めに帰宅するように言われた。久々に早めに帰宅をすると、蓄積した疲れがドッと出てくる。
 何をする訳でもなく、私が部屋の中で休んでいると神妙な面持ちをしたユウキが入ってくる。

「……アエリア様」

 ユウキは気まずげに私を見る。

「何?」
「あの……」
「どうしたの?」

 私は躊躇ためらうユウキを何も言わずにジッと見つめる。ユウキはそんな私から軽く目をらし、何か考え込むと意を決したように口を開いた。

「アエリア様……感謝の宴の日まで半月を切りました。アエリア様のドレスは王太子殿下が準備されているのでしょうか?」

 ユウキの言葉に私はピタリと固まった。
 ……ドレス? ……そうね……ドレス。全く頭になかったわ。
 このドイル国では、社交場でのドレスを自分では用意しない。家族や婚約者、親族等に用意してもらうのが慣例。
 私のドレスも、幼い頃はカエラ様や両親が準備をしてくれていた。ケンビット様が成人されてからは、ケンビット様が中心となって準備をしてくれている。現在も状況に応じてカエラ様や両親が用意をする事もあるけど、その場合は作る前に必ず私に声を掛けてくれている。

「そうね……ケンビット様が準備してくださっているはずよ」
「なら良いのですが……宴の招待を受けて一か月が経ち、本日、奥様方のドレスが届きました。エリック様の婚約者様からもお礼のお手紙が届いたと聞きました。アエリア様のドレスはいつも早めに届きますので心配になりまして……その、大丈夫でしょうか?」
「……協会からは何の連絡も来ていないのでしょう? 宴の日が近付いても私のドレスのオーダーがなければ、協会から必ず連絡があるはずよ。だから大丈夫よ」

 不安そうなユウキを落ち着かせる為に私は精一杯微笑む。
 ドイル国は商業において他国にはまだないシステムをとっている。
 それが、【独占禁止平等法】。過去に大手商会が商業を独占し、粗悪品を高値で販売するという事件があった。すぐに取り締まり収束させたが、その後も似たような手口が横行した。それを抑制する為に作られた法律。
 ドレスも例外ではなかった。ドイル国でドレスの取扱いがある商会は大きく三つ。その下請けで何軒ものドレス店がある。三つの商会は協会を作り、協会ではそれぞれの顧客情報を細かく管理。その協会を通じて、ドレス店は情報共有を行い、ドレスの色やデザインが近しい者と被らないように顧客にドレスを提案していく。そして、何か問題等があった際は必ず協会から連絡が来るようになっている。その協会からなんの音沙汰もないのであれば、まずドレスが準備されていないなんて事はありえない。

「……それはそうなのですが」

 ユウキは眉をひそめて納得いかない顔をする。

「大丈夫よ。ケンビット様は今お忙しいから、いつもよりドレスの注文が遅れてしまったのかも。まだ宴まで半月あるわ。きっと前日までには届くはずよ。もうしばらく様子を見ましょう」
「アエリア様がそうおっしゃるのであれば……」
「ユウキ。色々心配してくれてありがとう」

 私は不安そうにするユウキに近づき、そっと手を重ねて微笑む。ユウキは私の手を握り返して、首を軽く左右に振った。
 今まで当たり前だった事が、いつもと違う状況になると〝大丈夫〟だと思いつつも一抹いちまつの不安が残る。正直、ドレスの事なんて今まで考えた事がない。幼少の頃より問題なく準備されていたし、それが当たり前だったので考える必要もなかった。
 念の為、ケンビット様に確認した方が良い? でも、確認するという事は相手を信用していないと言っているのと同じ事。協会から連絡も来ていないのに、この忙しい状況の中でそんな失礼な事はできない。

「大丈夫。心配する事なんてないわ」

 私はユウキに気付かれないようにボソリと呟いて自分自身の微かな不安を落ち着かせた。


「あぁ違う。こうではないわ」

 急に頭を抱えてうなだれるカエラ様に私はビクリとした。

「どうしましたか? 何か問題でも?」

 私が駆け寄ると、カエラ様はフゥ……と大きく息を吐いて、手元にある書類をトントンと指さす。私はその書類を覗き込む。

「あぁ、これは……」
「なぜこの二人を同じ席にしているの? この席次を考えたのは誰?」

 そう言って、カエラ様はその紙に大きくバツを書く。
 流石さすがのカエラ様も連日の業務に疲れが出て、思い通りにならない状況に少しイラついている。
 今回の感謝の宴でのパーティーは、夜会のような立食ではなく一人一人に席が設けられている。立食形式にすると大小何かしらのトラブルが起こる可能性が高くなるので、少しでもトラブルを回避する為、関係性に問題ない同士を一つの席に集めて、各席に騎士を一名配置する。宴を平穏に進める為の計らいだ。

「私の方でもう一度考えてみます。少しお時間頂けますか?」
「ありがとう。助かるわ」

 カエラ様は疲れがにじむ顔で微笑む。
 忙しさに振り回されて、気づけば宴までもうあと一週間となっていた。感謝の宴の準備は終盤に差し掛かり、多少の細かい問題は出るものの順調に進んでいる。
 私の生活も特に何の変化はない。ただ、一日一日経過するごとに私の頭の片隅でドレスについて不安が付きまとっていた。宴が近づくにつれて、不安だけが私を襲ってくる。大丈夫と信じているものの、実際、ドレスはまだ届いていない。
 ……流石さすがに失礼を承知でケンビット様にお伺いした方がいい? でも、もし準備をされていたら? 忙しい中、時間を取らせてしまうのは申し訳ない。……でも……でも、もし準備をされていなかったら? それはそれで怖い。そんな事実は認めたくない。ケンビット様以外が、私のドレスを準備してくれている可能性はかなり低い。
 結局考えた所で答えなんて出てこない。考えれば考える程どうしたらいいかわからない。
 今日も家に帰ると、真っ先に何か届いていないかをユウキに確認する。が、ユウキは悲しげに頭を振る。

「もう限界かもしれないわね……」

 私は勇気を振り絞る。失礼だろうが迷惑だろうがもうそんな事を言ってはいられない。
 明日、王城に行ったらケンビット様に直接伺いにいこう。覚悟を決めると、もっと早くに行動すべきだったと強い後悔の気持ちが出てくる。

「明日ケンビット様に確認をとるわ」

 私の決意にユウキは泣きそうな顔をする。私はそんなユウキに精一杯に微笑むと私室に向かう。
 自分の部屋に入ろうとしたちょうどその時、隣のお姉様の部屋の扉がバンっと急に開いた。

「お……お姉様?」
「アエリア!! 丁度よかったわ。見て、先程レイ様よりドレスが届いたの」

 急にお姉様が現れて驚いている私を他所よそに、お姉様は興奮気味にドレスを自身にあてて私に見せてくる。
 私は思わずユウキを見るとユウキは申し訳なさそうに目線を下に向ける。なんだか気持ちが急に冷めていく。そんな私を気にする事なくお姉様は嬉しそうに話を進める。

「今回の感謝の宴。レイ様は一緒に参加できないからギリギリになってしまうけどせめてドレスだけは準備させて欲しいって言われていたの。正直、間に合うか不安だったけど今日とても素敵なドレスが届いてビックリしたわ。この特殊な縫製……きっと時間が掛かったわよね。ホラ。見て。流石さすがレイ様だわ」

 お姉様はそう言いながら、レイ様から贈られた光沢のある紺色にクリスタルを散りばめた豪華絢爛なドレスを自身に当ててクルクル回り始める。
 お姉様の喜びがいつも以上にわずらわしく感じる。
 いつもであれば「素敵なドレスですね」と声を掛けるが、今は口を動かす事もできない。
 ただ、呆然と喜ぶお姉様の姿を眺める。

「ご歓談中、失礼します」

 ちょうどその時、背後からメイドが声を掛けてきた。

「王家の従者がお嬢様にお届けものを届けにいらしています」

 ……王家? 


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