17 / 290
第一章 アクセルオンライン
16話 レベルをあげよう
しおりを挟む昼食を終えたその日の午後。
アキンドに良い狩り場を教えてもらい、イノチとエレナは最初に足を下ろした森に来ていた。
仕事で街道を通るため、途中まで送ってくれた上に、帰りも送迎有りという優しさ付きで。
「アキンドさんには本当に感謝しないとな。」
イノチは街道から逸れ、森の中を歩きながらつぶやいた。
「そうね…今回の狩りで得た素材とか分けてあげたらいいんじゃない?」
「おぉ…!たまには良いこと言うね、エレナって!」
「たまにはって…どういう意味よ!!」
そんなやりとりをしつつ、森の中を進んでいく。
「ここに出没するモンスターが狩りやすいらしいけど、まさか最初の森だとは…」
「ほんとね…そろそろこの辺でいいかしら。」
「あぁ…」
二人は頃合いの良さげな場所を見つけると、持っていた荷物を下ろして準備を始める。
「とりあえず、俺はこの剣と盾だ。」
イノチはロングソードと木の盾をアイテムボックスから取り出して、自分で装備する。
そもそも、イノチは剣を振るった経験など皆無である。なので、ここに来る前にエレナに少しばかり指導してもらって、今日に臨んでいるのだ。
「教えたとおり、盾はしっかり前に構えること。それに、そのロングソードは打撃性能が高く造られているから、切るというより叩くことを意識して。このことを忘れないでね、BOSS。」
「イエス!マム!」
敬礼するイノチの横で、エレナは自分の装備を整えている。
それも、SRのグレンダガーでなく、エレナの初期装備であるレアリティRのクロスダガーを装備しているのだが、それには理由があった。
「はぁ…グレンダガー、使いたかったなぁ…」
「仕方ないだろ?これ使ったら、エレナが全部一撃で倒しちゃうってアキンドさんに言われたんだから。それじゃあ、俺のレベル上げになんないじゃん。」
アキンドは『鑑定』というスキルを持っており、もともとエレナの持つ『グレンダガー(SR)』が非常に気になっていたらしい。
ぜひ見てみたいと言ってきたので、見せてみたのだが、その時の彼の驚きようはなかった。
まず、ひっくり返った。
そして、手を震わせ目を見開き、ハァハァと息を切らしてこう結果を述べたのだ。
『こっ…これは神器クラスの武器ですぞ!?伝承などにしか出てこないような代物…どっ…どこでこれを…?』
そんなのガチャで手に入れましたなんて言えるはずもなく、適当に誤魔化したイノチだったが…
「やっぱりSRってのはすごいんだな…」
しみじみと思いながら、アイテムボックス内のグレンダガーに目を向ける。
「でも、もうそれはあたしのでしょ?」
「そうだけど…そうだけどさぁ…」
エレナには悪いが、"神器"とか聞いてしまうと、イノチの童心に火がついてしまう。
しかし、約束は約束である。
「だけど、エレナにあげたからな…それより、今はレベルを上げて、いろいろできることを増やしていかないとな。」
イノチはそうつぶやいて、名残惜しそうにアイテムボックスを閉じると、気合を入れ直すように、両頬をパンっと手で挟むように叩いたのだった。
◆
それから数時間。
イノチはプレイヤーレベルを7まで上げていた。
「けっこうレベルアップしたな。あとちょっとでレベル10になるけど…」
剣と盾を構えたまま、イノチが空を見上げると、陽はすでに落ち始め、辺りも少しずつ暗くなってきている。
「BOSS?さっさとトドメを刺してちょうだい。」
先ほどまで戦っていたエレナが近づいてきて、弱らせたモンスターを指差してそう告げる。
「お…おう。」
イノチは盾を前に構えながら、身動きが取れずにいるモンスターに近づいていく。
狼のようなモンスター。
名前は『ウルブズ』といい、毛は銀色で、双眸は赤い、こういったRPGでは定番のモンスターだ。
イノチがロングソードを振り下ろすと、ギャンッという断末魔を最後に、モンスターは光の粒となって消えていく。
そして、一部の粒子がイノチの体に吸い込まれ、モンスターがいた場所にはツメよようなものが落ちている。
「この感触…やっぱり慣れないな…」
落ちているドロップ素材を拾い上げながら、イノチはそうこぼす。
ビッグベアの時もそうだが、モンスターは倒すと光の粒となって消えていく。死体も血痕なども残らない。
だが、今回戦ってみてわかったことがある。モンスターに剣が当たった時の感触は本物のように感じられるのだ。
肉にめり込む剣の感触と、骨を断つ重く鈍い音は、イノチに不快感を与えた。
「何もこんなところまでリアルにしなくてもいいのに…体感型といってもここまでとは…運営こだわりすぎだろ。」
「なに甘えたこと言ってんのよ。弱肉強食…やらないとあたしたちがやられるのよ。」
「そうだけどさぁ…」
ゲームだと少し甘く考えていたイノチは、エレナに正論を突きつけられて、少ししょんぼりとした。
そんなイノチに切り替えるようにエレナが声をかける。
「ところでBOSS…どうするの?このまま続けても良いけど、そろそろ陽が落ちるわよ。」
「確かに…俺もそれを考えてたんだ。今日中にレベル10にしたかったけど、無理そうだよなぁ…」
「アキンドも言ってたけど、この森、夜はモンスターが活発になるらしいから、続けるなら気を引き締めないとね。」
「う~ん…やめとこう。迎えも来るし…」
そういえばアキンドがそんなこと言っていた。
夜は強いモンスターが出没するって。
過去に何人かの冒険者が帰ってこなかったって。
イノチはそれを思い出し、ゲームとはいえど、背筋に冷たいものを感じ、身震いしながら帰ることに決めた。
・
・
・
迎えの馬車が来るところまでは、20分ほどかかる。
帰り支度を済ませると、イノチたちは馬車のところまで移動を始めた。
「明日でレベル10になるだろうから、そしたら今後の大きな方針を決めようとおもうんだ。」
「大きなホウシン…?」
歩きながら話すイノチに、エレナが首を傾げる。
「そう、方針。他の街にも行きたいし、『フレンド』とかの機能も気になる。ギルドにも興味あるしね。それに、この冒険の目的…アリエルに聞くの忘れてたけど最終目標が何かわからないからな。」
「なるほどね…まぁその辺のことはぜんぶBOSSにまかせる。あたしにはわからないもの。」
「あのなぁ…まぁいいけど。」
適当な感じで答えるエレナにため息を吐きつつ、イノチは話を続ける。
「あとは『希少石』な!レベル10のお祝いに引こうと思ってるから、よろしく。」
「どうぞ…お好きに。…っ!?」
またかガチャか、というようにエレナはそれに応えたが、急に何かに気づいたように立ち止まると、イノチの前に手を出した。
「どっ…どうしたんだよ、急に!」
「静かに…なにか変な気配を感じるのよ。」
「マジかよ…またモンスターか?」
エレナの真剣な表情を見て、イノチは押し黙った。ビッグベアの時もそうだが、こういう時のエレナはかなり嗅覚が鋭いのだ。
「…いえ違う…おぞましい気配なのは違いないんだけど…近いわ、こっちね。」
「おっ…おいって!」
急に歩き出したエレナの後を、イノチも焦って追いかける。
草をかき分けて進んでいくと、エレナがあるところで止まった。
「エッ…エレナ?どうしたんだよ…急に進んだり止まったり…」
「……」
エレナはそれには応えず、何かを見上げるように目の前を見据えている。
イノチはどうしたのかと疑問に思い、エレナが見ている方向に目を向けた。
そこには、まるで二人を誘なうかのように口を大きく開いている入口のようなものが、静かに腰を据えていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる