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第一章 アクセルオンライン
22話 ガチャ魂
しおりを挟む「おっ…おかえりなさいま…せ…!イノチ様!?大丈夫ですか!?」
拠点に帰り着くと、メイが出迎えてくれた。しかし、イノチの姿を見て、メイは驚きの声を上げた。
顔や耳を血でにじませ、鼻は大きく腫れ上がっているイノチを見れば、誰でもそう言うだろう。
「あたしはポーション使いなさいって言ったんだけどね。」
「うるへ~もったいなくて使えるかよ…イテテッ」
力なく虚勢をはるイノチを見かねて、メイがとっさに声をかけた。
「あっ…あの!私…治癒魔法を使えま…す…が…」
「へっ…?」
突然のメイの言葉に、イノチはキョトンとしてしまう。
「あっ…あっ…でっ…ですぎた真似を…すみません…」
イノチに見つめられて、恥ずかしさからメイは小さくなっていく。
「メイさん…魔法使えるの?」
「はっ…はい…多少なりは…」
「しかも治癒魔法…!?」
「治癒は…あまり得意ではないので…おおきな傷は治せませんが…その程度でしたら…」
「マジで…?!」
「はっ…はい…」
質問を重ねる度に小さくなっていくメイ。それに対して、イノチは魔法という言葉に痛みを忘れて、興奮してメイへと質問を続ける。
「治癒魔法って言ったら光とか聖属性なの?!他には何が使えるの?!」
「えっ…あの…」
「やっぱり属性ってあるの!?火とか水とか…雷とかもあるのかな!?」
「あ…あ…あ…」
「どうやったら使えるの?!俺でも使えるかな!?あっ…ガチャ魔法は使えるよな…ってことは俺にも使えるかも!!メイさん、使い方教え…ぐぁ!!」
「メイが困ってるじゃない!!やめなさい、BOSS!!」
一気にしゃべり出したイノチを見かねて、エレナの拳がイノチの頭を打ち抜いた。
あまりにしつこい質問攻めに、メイも怯えきってしまっている。
「…ぐぐぐぐぐ…痛ってぇなぁ!!殴るなよ、殴るな!ケガ人には優しくしろ!!」
「何がケガ人よ!!痛みも忘れて、聞きまくってたじゃない!!メイを怖がらせないで!!」
「…うっ…それは…ごめんなさい。」
「いっ…いえ、私の方こそ…すみません。まっ…まずは治癒をしますね。」
正気を取り戻したイノチを見て、気を取り直したメイは、そう言ってイノチの顔に両手を近づけた。
すると、そこからエメラルド色の光が発せられ、顔や耳、そして痛々しかった鼻の傷がたちどころに消えてしまったのだ。
「うぉ~!元通りになったぞ!!痛みもなくなった!!」
顔や鼻をペタペタ触り、元の感触を確認したイノチは、メイに向き直ると頭を下げてお礼をする。
「メイさん!本当にありがとうございます!」
「いっ…いえ…ご無事で何よりです。それよりもお風呂とお食事、どちらも準備できておりますが…」
「何から何まで…ほんとにメイさんには感謝しないと!なっ、エレナ…あれ?あいつ、どこ行った?」
いつの間にか姿を消したエレナを探すように、イノチがあたりを見回していると、メイが声をかける。
「エレナ様でしたら、目にも止まらぬ早さで、今しがた館の中へと走って行かれましたよ…」
「…またかよ。」
イノチはあきれたように額に手を当てて、天を仰ぐのであった。
◆
食事とお風呂を終えて、イノチは自室で休んでいた。
「はぁ~今日は疲れたな…色んなことがありすぎて…しかし、一度情報を整理しとかないと…」
そう言って、横になっていたベッドから起き上がると、携帯を取り出した。
「まずは、疑問点を洗い出そう…」
そもそもこのゲーム、設定が曖昧な部分が多い気がするのだ。
イノチはそれらを携帯のメモアプリに打ち込んでいく。
【疑問点】
・プレイヤー、キャラにステータスがない
・キャラやモンスターにレベルがない
※ダンジョン内のモンスターにはある
・プレイヤーにはレベルがある
・装備の性能が不明
・ポーションや強化薬の効果が不明
・HPやMPなどの数値もわからない
・敵味方が受けるダメージが不明
「そういえば、スキルについてもわかんないな…これは後でエレナに聞くとして…」
イノチはメモに書いた内容を改めて見直してみる。
「ん~なんというか、改めて不明な点を挙げてみると、ゲームなのに数値設定がないんだよなぁ…プレイヤーレベルって言っても強くなってんのかわかんないし…より現実に近い設定なんだろうか…」
イノチは携帯のプレイヤー画面を開いた。
自分が装備しているアイテム『魔導のローブ(N)』と『ハンドコントローラー(SR)』が表示されている。
「『ハンドコントローラー』…いったいどんな装備なんだよ…未だに使い方がわかんないし…」
それ以外に目を向ければ、プレイヤーネーム、基本職、IDのような番号とプレイヤーレベル…
「あっ…!そういや、プレイヤーレベル『10』になってんじゃん!ゴブリンを倒しただけなのに7から10に…ダンジョンの恩恵はすげぇんだなぁ…」
携帯の画面をホームに戻すと、『フレンド』など、今まで使えなかった機能が解放されていることに気づく。
「おっ!『フレンド』か…よく考えたら、まだ他のプレイヤーに会ったことすらないな…このゲーム、どれくらいの人がプレイしてんだろ…街の中にもそれらしき人は見当たらなかったもんな。」
しかし、今まで見れなかった機能を確認しようとしたその時、イノチの目に一つのテロップが映り込んだ。
『プレミアムガチャでの高レアリティ排出率アップ中!しかも黄金石の使用数が半分で回せます!※本日0時まで※』
「…っ!!!!」
イノチは突然、キョロキョロとあたりを見回し出した。自室にいるので、人目を気にする必要はないはずなのだが…
ピーンッ
イノチは何かを感じて急に立ち上がると、なぜかベッドの下に潜り込んだ。
するとタイミングを合わせたように部屋のドアが唐突に開かれる。
「BOSSっ…てあれ?いないわ…おかしいわね…ガチャの気配を感じたんだけど…」
エレナは部屋の中を見渡すと、イノチがいないことに首を傾げた。
「先ほど、お風呂から上がられたところは確認したのですが…どこへ行かれたのでしょう…」
「いないなら仕方ないわね…メイ、いいこと?BOSSに"ガチャ"の気配を感じたら、あたしにすぐ知らせなさい!」
「…はい…"ガチャ"というものが何かは存じませんが、イノチさまを良くない方へと導くもののような気がします。細心の注意を払いましょう…」
二人はそう言いながらドアを閉めた。
二人の気配がなくなったのを確認すると、ベッドの下からイノチが顔を出す。
「あっぶねぇ…!ただならぬ殺気を感じて隠れてみたら…エレナのやつ、変な嗅覚まで発達させやがって…しかし、なぜメイさんまで…」
勘弁してくれと言わんばかりの表情で、イノチは言葉をこぼしながら、モゾモゾとベッドの上に戻ると、携帯を再び取り出した。
「まぁ危機は去ったわけだし、『黄金石』は今日の狩りでけっこう手に入れてるからな…」
ニヤニヤしながらアイテムボックスの『黄金石×23』を眺めるイノチ。
しかし、ひとつだけ問題があるとすれば…
ガチャをするには魔法を使わなければならないということだ。使えば二人に絶対にバレてしまうことは確実である。
どうしたもんかと思案するイノチ。
しかし…
「《ガチャは時を選ばず》…だったな!」
イノチは今までどんな時でも、常にガチャを最優先に考えてきたのだ。ガチャ中毒者の彼にとって、この程度の状況は朝飯前なのである。
「そうと決まれば、善は急げだ!!」
良い案が浮かんだのか、イノチはさっそく行動に移す。
静かに窓を開け、外に誰もいないことを確認すると、そのまま夜の暗闇に消えていったのだった。
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