42 / 290
第一章 アクセルオンライン
41話 心配かけてごめん
しおりを挟むイノチの自室には、メイの他にエレナとフレデリカも集まって来ていた。
皆、メイと同様にイノチの声を聞いて駆けつけてくれたのだ。
「…で、そんな夢を見たというわけ?BOSSも意外とお子ちゃまね!」
「うるせぇなぁ…」
イノチに声をかけたエレナは、就寝中であったこともあり、パジャマ姿であった。
エレナの言葉に、余計なお世話だというように顔を背けるイノチであるが、理由はそれだけではない。
上はピンクのストライプ柄のTシャツに、下はショートパンツを着ているエレナの姿に対し、目のやり場に困ったことも理由に含まれている。
「まぁ、落ち込んだ時に悪夢を見ることは珍しくありませんわ…ふわぁぁぁ」
腕を組んで立ち、あくびをするフレデリカ。こちらはお姫さまのようにフリルをふんだんに使った寝巻きで、かなりゴージャスだ。
イノチはこれで寝られるのかと不思議に感じつつ、メイから受け取ったコップの水を一気に喉へと流し込んだ。
「ふぅ…タケルの話をを聞いてから、ずっといろんなことを考えてたんだけど、それがよくなかったんだろうね。」
空になったコップに、メイが水を注いでくれた。イノチが小さくお礼を言うと、メイが口を開く。
「イッ…イノチさま…苦しいのであればここで…話してしまうのもよいのでは…ないでしょうか。」
その言葉にイノチは少しだけ目を閉じ、そして、静かに口を開いた。
「全くを持って、かっこいい話じゃないけどさ…聞いてくれるかな?」
・
イノチが通っていた秀最(しゅうさい)高校は全国でも有数の進学校であった。
中学校から成績が良かったイノチは、高校で特進クラスに入ることとなる。
秀最高校には各地の中学校から成績優秀な生徒が集まる。そんな高校の特進クラスには、頭脳明晰な生徒がそろい、一年次から一流大学を目指して勉学に励むのが一般的であった。
イノチは努力家だった。
周りに負けまいと必死に努力し、常に学内試験では1位2位を争っていた。全国模試でも上位に位置するほど頑張っていたのだが…
イノチはイジメのターゲットになった。
きっかけは些細なことに過ぎない。
1年次の最後にある全国模試で一番をとったイノチのことを妬む奴がいたのだ。
同学年の"赤西たつや"だった。
彼は小学校から神童と呼ばれ、もてはやされてきた。だから、もちろん秀最高校でも学業、スポーツともに常に1番をとっていたのだ。
そんな彼にとって、イノチは単なる邪魔な存在でしかなかったことはいうまでもない。
そこから、イノチの地獄の高校生活が始まったのだった。
青山と黄田も加わり、無視、盗難、良からぬうわさ、強要、暴力など、おおよそ想像できることは何でも行われた。
その行為はクラス、そして学校中に伝播する。
つるんでいた仲間はひとり…またひとりと消えていった。いや、その表現は正しくない。みんなイノチをイジメる側になったのだ。
人間とは残酷なものだとイノチは思った。
2年次はなんとか乗り切ったイノチも、3年次の春に起きた出来事で不登校になった。
イノチはそこまで話すと間を置くようにため息をついた。
「何があったの…?」
そこまで話を聞いたエレナたちは、固唾を呑んで話を聞いている。
イノチはそんな三人に、小さくも寂しげな笑みを浮かべると、吐き出すように答える。
「屋上からさ…飛び降りさせられたんだ。」
「はぁ…?!建物の屋上からってこと!?」
「あぁ…そうだ。」
メイはショックを受け、口を抑えている。
「俺がそうせざるを得ない状況を作り出したのさ…やつらの頭ならそんなこと簡単にできるし、周りもそれに同調してたからね。」
「よく無事だったわね…」
「ハハ…本当だよな。幸い下に木があってクッションになったから、命は助かったんだけど…さすがに恐怖でさ…そこから学校に行けなくなったんだ…」
「そいつら…許せないですわ!私がもっとも嫌いな人種ですわね!!」
フレデリカが珍しく怒りを露わにした表情を浮かべていて、イノチはそれが何だか嬉しかった。
エレナもメイもだけど、自分のために怒ってくれている人がいると思えば、過去のことなどどうでもよく感じたのだ。
「俺はさ…ひきこもりになっちゃったけど、そのあと頑張ってシステムエンジニアを目指したんだ。親も支えてくれたし、秀最高校のやつが目指さないような職業を考えてね。そして、なんとか大手の会社に入社できた…」
エレナもフレデリカもメイも、イノチの話に耳を傾けている。
「でも…やっぱり人とは話せなかった。何がきっかけでイジメられるかわからないから。そんな中で唯一、心が安らぐものがソシャゲだったんだよ。ゲームのキャラは裏切らない…ガチャもシステムも、全部俺に本音で話してくれたんだ…」
「人とは話せないって…あたしたちとは話せてるじゃない。」
うつむくイノチにエレナがそう告げる。
「確かにそうなんだ…最初は、この世界はゲームの中で、エレナたちはシステム内のキャラだと心のどこかで思っていたからこそ、話せていたはずなんだ。でも、いつのまにか、エレナもフレデリカもメイさんも、完全に一人の人間だと俺の中で思えているんだ。みんなには、変なこと言ってるように聞こえるかもしれないけど…これ真面目な話ね…」
イノチは顔を上げて恥ずかしそうに笑って話す。すると、そこまで聞いたフレデリカが口を開いた。
「まぁ、BOSSが言っている"ゲーム"とか"システム"とかよくわからないですけど、わたくしたちはBOSSの為に存在し、BOSSとともに生きるのですわ!」
ビシッと指をさして、はっきりと告げるフレデリカに、イノチはポカンとなってしまう。
そこに、今度はエレナが重ねて口を開く。
「確かにそうね!BOSSが言ってることはよくわかんないけど、タケルの言葉とかどうでもいいのよね!主人死なせて自分たちだけ生き残るなんてそんな甘いこと、あたしたちは考えてないもの! BOSSが死んだら、あたしたちも死ぬ!それだけよ!!」
フレデリカと同じように、指をさしてビシッと告げるエレナを見て、イノチはさらにポカンとなった。
「わっ…私も…!私も…イノチさまのためなら、がっ…頑張ります!!」
突然、メイが大きな声で叫んだ。
イノチもエレナもフレデリカも、驚いてメイを見る。
「あっ…すみません!!つ…つい、皆さんにつられてしまって…」
メイは恥ずかしさに真っ赤になった顔を両手で覆った。それを見たイノチは、おかしくなって笑ってしまう。
「くっ…くくく…はははははは!」
「イッ…イノチさま…?!」
「BOSS…?!」
イノチの態度に、メイもエレナも少し心配したように見つめていたが、イノチは少し落ち着つくと口を開いた。
「ハハ…ごめんごめん、なんか嬉しくってさ。」
小さくそうこぼしたイノチは、目に浮かんだ涙を手で拭うと、三人に改めて向き直った。
そして、謝罪の言葉を伝えたのだ。
「エレナもフレデリカもごめんな。俺、タケルの話が相当ショックでさ…もしかしたら今頃死んでたかもって考えたら、本当に怖くて…心配かけて本当にごめん。」
エレナとフレデリカは無言で話を聞いている。イノチはメイにも向き直る。
「メイさんもごめんね。帰ってきてすぐ、あんな態度をとってしまって…せっかくご飯とかお風呂とか準備してくれていたのに…本当にすいませんでした。」
「…イッ…イノチさまがお元気ならば…わっ…私はそれで構いません…」
突然、イノチに頭を下げられ、メイはタジタジになってしまったが、それを見たエレナとフレデリカはクスクスと笑い始めたのだ。
「なっ…なんだよ。二人とも…急に笑い出して!」
「ふふふ…安心したのよ!もし、BOSSがずっと落ち込んだままで、メイにも謝らなかったら、あたしとフレデリカで一度気合を入れ直してやろうって話してたから。」
イノチはそれを聞いてゾッとした。
しかし、横で笑っているメイを見たら、イノチも再び笑いが込み上げてきた。
四人はそれから、朝まで話し、笑い合った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる