50 / 290
第一章 アクセルオンライン
49話 ガチャと三途川
しおりを挟む「エレナ!お願い!!この通りだ!頼むよ!」
「ダメよ!」
このやりとりは何度目だろうか。
馬車の荷台では、イノチが体を震わせながら土下座し、それに対してエレナはそっぽを向いている。
「いい加減、許可してあげればよいのですわ…」
「いーや!ダメよ!!」
「頑固ですわね…」
頑なに拒むエレナを見て、フレデリカはため息をついた。
既にお分かりかも知れないが、イノチはある発作を発症している。
フレデリカを仲間にしてからのここ数日は、まったくガチャを引けていないからだ。
《ガチャは時を選ばず》
これまで、この精神を胸にイノチはガチャに挑んできた。
どんな時でも、常にガチャを回し続けてきたガチャ廃人の彼にとって、一日でもガチャをしないということは、言葉のとおり死活問題なのである。
確かに、非常に刺激的な数日間だった。
ガチャをすることを忘れるほどに…しかし、それを思い出した今、イノチの体には禁断症状が現れていたのだ。
「マジで…頼む…うぅ…胸が痛い…」
「そんな演技には騙されないわ!!いい加減諦めなさい!」
「そっ…そんな…殺生な…ガクッ」
土下座の状態で顔を上げ、エレナに手を伸ばしていたイノチだったが、ついに息絶えたように顔を伏せた。
「死んだふりしてもダメよ!」
「……」
「早く顔を上げなさいってば!」
「……」
「…BOSS?」
「どれどれ…?あら…鼓動が止まってますわ!!」
「っ!?うそでしょ!!」
イノチの背中に耳を当て、その鼓動を確認したフレデリカの言葉に、エレナは驚愕した。
急いで蘇生を行うと、イノチはなんとか息を吹き返す。
「ゴホッゴホッゴホッ…あれ…俺はいったい…?」
「マジであり得ないわ!!ガチャができないから死にかけるって…!どんだけなわけ!!」
「え…俺、今死にかけてたの…?たっ…確かにガチャの川の上で、空っぽのカプセルに乗ったばあちゃんが手招きしてた…あれって夢じゃ…」
「三途の川の渡し舟までガチャ尽くめって…ヤバいわね。」
「末期ですわ…」
キョトンとしているイノチに対して、エレナとフレデリカは、安堵と呆れが混じったため息をついた。
「もう、わかったわよ…館に戻ったら引いていいから!一回だけ…一回だけだからね!!」
「…えっ?!いいのか!マジで!?やったぜぇ!!」
ガチャを引く許しを得た事で、子供のようにはしゃぐイノチ。さっきまで騒いでいたのが嘘のようである。
そんな騒ぎに気づいたのか、ウォタが顔を出す。
「うるさいのぉ…なんの騒ぎだ…」
「BOSSがガチャを引けて嬉しいんですって…」
「ガチャ…?なんだそれは?」
「BOSSにしか使えない魔法よ。」
「ほう…それは何やら興味をそそるな。どれ、我に見せてみよ!」
「おう!いいぜ!!ガチャガ…」
ゴツンッ!
魔法を唱えようとした瞬間、頭にゲンコツを食らってイノチは悶絶する。
「ぐぎぎ…痛ってぇなぁ!!何すんだよ!!」
「帰ってからって言ったでしょ…!」
「いいじゃんか!ガチャウィンドウを見せるくらい!!」
「だめよ!そんなこと言って、そのまま勢いで回すくせに!!」
「ヴッ…」
痛いところをズバリ当てられて、イノチは言い返せない。
「見透かされとるのぉ…」
「まさに、駄々っ子を怒る母親って感じですわ。」
「誰が母親よ!!」
「誰が駄々っ子だ!!」
フレデリカの言葉に、声を合わせて否定するイノチとエレナ。
その反応に、フレデリカは目をつむって肩をすくめた。
「もう!本当にあきれるわね!たかが数日ガチャが引けないだけで!!」
「俺にとっては一大事なんだ!!こっちだって、気を遣って引く前に確認してんじゃないか!」
「あたしはBOSSのことを心配して言ってるの!!」
「いつ回そうが俺の勝手だろ!!余計なお世話だ!!」
「なんですってぇ!!」
「なんだよぉ!!」
ガルルルッとうなりながら睨み合う二人を止めようと、フレデリカがため息をついて声をかける。
「二人とも…そろそろ『イセ』の街が見えてきましたわ。そろそろケンカはやめ…」
ドォォォォン!!
突然、森の方で大きな爆発音が響き渡り、木々が倒れていく音が聞こえてくる。
「なっ…なんだ!?何が起きたんだ!」
「こっちの方角で爆発音がしましたわ。」
「今のは魔法だな…誰かが広範囲の爆裂魔法を使ったようだ。」
フレデリカとウォタが、その方角を見つめる中、エレナはクンクンと鼻を動かしている。
「血の臭い…それと誰か…追われてるわね…女の子かしら…」
「すっ…すごいな…最近精度が上がってないか?」
「なんとなくそう感じる程度だけどね…とりあえずどうするの?BOSS…」
エレナもフレデリカもウォタも、みんなイノチを向いて指示を待っている。
「そんなの…決まってるだろ!!助けに行くぞ!!」
「「「YES Sir!!!」」」
そう大きく叫ぶと、御者の男に馬車を任せ、四人は森の中へと駆け出したのだった。
◆
「ハァハァ…ハァハァ…」
森の中をひとりの少女が駆けている。
ナチュラルボブの髪を揺らし、肩には傷を負っている。
服装は、赤を基調としたチャイナ服のようなトップスと、胸当てをバンド状のもので吊り下げた、膝上ほどの紺色のサロペットスカートの組み合わせが可愛らしい。
彼女は走りながら、時折、後ろを振り返っている。何かに…誰かに追われているようだった。
(このままじゃ…捕まっちゃう!)
息を呑み、木々の間をすり抜け、必死に走っていく。
「いたぞ!あそこだ!!」
「お前ら!そっちへ回り込め!!」
後ろの方から、男たちの声が聞こえてくる。
距離はそう遠くない…徐々に追いつかれている感覚に恐怖が込み上げてくる。
足が震えていて、うまく力が入らない。
何度も転びそうになりながら、少女は木を避け、茂みをかわして駆けていたが、樹の根が盛り上がっていたことに気づかなかった。
「きゃあっ!!」
つまづいて、正面から地面に倒れ込む。
しかし、手足の痛みも忘れて、必死で立ち上がろうとする少女に、後ろから声が掛けられた。
「ヒヒヒッ…やぁっと追いついた!」
オールバックに片目に傷のある男が、舌なめずりをして見ている。
少女は尻餅をついたまま後退りするが、手に何が触れる。
視線を落とすと、そこには靴があった。
見上げれば、すでに回り込んでいた別の男が二人、自分を見下ろして笑っている。
「…!?」
驚いて別の方向へ体を移すと、背中に木が当たる。
追い詰められた…
逃げ場はない…
「手間かけさせやがって…あの人に俺らが怒られちまうじゃねぇか!」
「きゃっ!」
オールバックの男はそう言うと、怒りに任せ、手に持っていた剣で木を斬りつけた。
少女の頭の上の木の幹が砕け散る。
木屑が飛び散り、少女は小さく声を上げ、身をよじらせた。
ふと、男の視界にスカートの間から見えた少女の白い太ももが映る。
男は舌なめずりをすると、しゃがみ込み、
舐め回すかのように少女を見た。
恐怖で怯えている少女は声も出せず、目をつむり震えている。
「へへへ…ちょっとくらい…いいよな…」
そう言って、男が少女の体に触れようと手を伸ばしたその時であった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!落ちるぅぅぅぅぅぅ!!!」
突然、大きな声が響いて、真上から一人の青年が落ちてきた。
そして、オールバックの男の上に不時着したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる