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第二章 始まる争い
1話 訪問者
しおりを挟むある日の朝。
朝食を済ませたイノチたちは、食堂で団欒をしていた。
全員がテーブルを囲み、何やら深刻な顔をしている。
「はい!」
「はい!エレナ!」
突然、右眼に眼帯をつけたエレナが右手をピンッと上へ伸ばし、間髪入れずにイノチがそれを指名する。
「装備ガチャを希望します!!」
「はいですわ!」
「はい!フレデリカ!!」
それに異論を唱えるように、フレデリカが手を上げ、イノチはそれも指名する。
「『希少石』を使い、強力な仲間を増やすべきかと。」
「はい!」
「はい!ミコト!」
同じようなことが繰り返される中、メイは皆にお茶を淹れた湯呑みを配っていく。
温かな湯気が立つそれは、茶葉の甘くほろ苦い香りを皆の鼻へと運んでくる。
「いい加減、さっさと決められんのか。」
お茶の香りに誘われてか、ウォタは首飾りから出てくるとイノチに一言告げる。
それに気づいたイノチは、ミコトに発言を少し待つように指示する。
「仕方ないだろ!俺たちのクランを強化する上で、重要な問題なんだ!みんなの意見を聞きながら、慎重に決めないと!」
「まぁ、それはそうだが…」
それを聞いたウォタは、メイが配った湯呑みを小さな手で器用に持ち上げ、お茶をすするとため息をついた。
イノチはウォタを一瞥するも話を戻し、ミコトへ意見を催促する。
「では、ミコト…どうぞ!」
「はっ…はい!私も仲間を増やす『ガチャ』引きたいです!!」
「はい!」
「はい、フレデリカ!」
再び、再開される『挙手会』にあきれ顔のウォタは、小さくつぶやいた。
「まぁ、我もその『ガチャ』と言う魔法を一度、見てみたいからな。待つのは待つが…」
手を上げ合っているその場の全員を見て、ウォタは肩をすくめると、再び湯呑みを手に取り、口へと運ぶ。
・
・
『ゲンサイ』というプレイヤーの襲撃から、2週間ほどが経過していた。
あの後すぐ、俺はミコトへこの世界の真実を話した。
「この…世界が現実…?うそでしょ…」
理解不能な状況に驚いたミコトは、当然泣き出してしまい、落ち着かせるのに大変だったが…
しかし、その時同時に、ミコトへある提案を投げかけた。
「ミコト…俺と『クラン』を作ろう!」
そう。
俺はプレイヤー同士が組み、チームを結成する『クラン』を、ミコトと作ることにしたんだ。
その理由は、これから始まるとされる『ランク戦』に備えるためだ。
戦力は多い方がいいのは決まっている。
そしてなにより、この世界で生き残り、元の世界に帰るためというのが、一番の理由だ。
ミコトはその説明を冷静に聞いてくれた。
そして、最後に了承してくれたのだ。
彼女はとても強い女性だと、俺は思う。
真実を知って落ち込んで、人にあたっていた俺とは大違いだ。
もちろん、タケルのクランに入ることも最初は考えた。
しかしそれには、彼が拠点としている『イズモ』の街に行かなければならないという制約があった。
俺はエレナたちに相談したけど、この館を手放すと言った瞬間、即刻拒否された。
エレナは「アホか」の一言。
フレデリカは「あり得ない」の一言。
そして、アキンドからは大号泣され止められた。
今思えば、なぜその場に彼がいたのは謎だったんだが…
とはいえ、タケルのクランがダメならば、やれることは一つしかない。
だから、自分たちで『クラン』を結成することにしたんだ。
そのクラン名は『ガチャガチャガチャ』。
特別な意味はない…
由来は、ウォタの一言。
『ガチャ』を引きたいと騒ぐ俺と、それをさせまいとするエレナとのやりとりを見た、ウォタの一言だった。
「お主たちは『ガチャ』魔法を使うのに、なんでいつもそう言い合っておるのだ。ガチャガチャうるさいのぉ…チーム『ガチャガチャガチャ』とでも名乗ったら良いのだ。」
突然の親父ギャグを聞いた俺は放心状態でウォタを見ていたが、エレナは違った。
「それ!いい名前じゃない!BOSS、クラン名はそれにしましょう!」
「えぇ…!嫌だよ!もっとカッコいい名前がいいって!!」
他のみんなにも掛け合ってみたんだが…
エレナは断固として譲らず、フレデリカは何でもいいといった感じ。
ゼンは相変わらず寝てるし、ミコトも「よくわからないから」と苦笑いする始末。
結局、泣く泣く俺が折れてクラン名が決まった。
そんなこんなで今に至るのだが、今回の『挙手会』は、クランを強化することがテーマとなっている。
クランを強くするためには、いくつかやれることがあるからだ。
その1
プレイヤーランクを上げて、自分自身を強くすること。
この世界にはステータスなんてものはないが、レベルを上げることによりできることが増えていく。
その2
『ガチャ』を引いて仲間を増やす。
言わずもがな、これは俺が1番やりたいことね。
その三
これまた『ガチャ』を引いて、レアリティの高い装備を整える。
これは地味に思えるがとても重要である。エレナが装備していた『グレンダガー(SR)』をゲンサイに真っ二つにされて、気づいたことでもあるが…
細かく言えば他にもあるが、大きくはこの三つだ。
一つ目に関しては、現在進行形と言っていいだろう。
『クラン』を結成した次の日から、俺とミコトはほぼ毎日と言っていいほど『ダンジョン』に挑戦しているからだ。
すでに俺のプレイヤーランクは『78』、ミコトも『71』まで上がっている。
何よりの収穫は、ランクが上がることでプレイヤーにもスキルが与えられることがわかったことだ。
ゲンサイの強さの秘密がわかった気がする…
そして、ゲンサイやタケルの言っていたとおり、エレナたちにもスキルが付与されていることも確認済みだ。
しかし、個々の強さは少しずつ高まっているといえ、俺はまだまだ足りないと考えていた。
未知の『ランク戦』を乗り切るためにできることは全てしておきたかったんだ。
そこで今回『ガチャ』を引き、戦力の底上げを行おうという話になったんだ。
ちなみにこれについては、エレナも了承済みです。
・
・
「はい!」
「はい、ミコト!」
「今、私たちが保有する『黄金石』は、私が56個、イノチくんが68個で合計124個あるよね。」
「うん、そうだね!」
「ということは10連ガチャが6回引けるから、2回は『プレミアムガチャ』を引き、2回は『装備ガチャ』を引いてはどうかな?」
「…残りの2回はどうするのです?」
ミコトは振り返ると、フレデリカの問いかけに笑顔で答えた。
「私もね、経験あるんだけど…ガチャする時って保険を残しておきたいんだよ。全部引いちゃうと、次にキャンペーンとかあったときに引けなくなっちゃうでしょ?」
「なるほど…合理的な理由ですわ…」
「私は『装備ガチャ』一択でいいと思うんだけどね!」
「エレナは『グレンダガー』を失っちゃったから、自分の専用武器が欲しいだけだろ…」
「…うっ…仕方ないじゃない…」
自分の未熟さから武器を失ってしまったことを悔やんでいるエレナは、それを言われると今回は言い返せないようだ。
イノチは目の前にある短めのバケットを口に咥える。
すると、外に出ていたメイが、バタバタと走ってきてイノチに声をかけてきた。
「イッ…イノチさま、お客さまが…"ウンエイ"という方が門前にいらしてます。」
イノチは、バケットを加えたまま首を傾げた。
(ウンエイ…?街にそんな名前の知り合いいたかな…)
腕を組んで、その名前を思い出すように考えていると、突然、何かを思い出したように、カッと目を開けて飛び上がった。
バケットを咥えたまま、イノチは勝手口へと駆け出し、壊れるんじゃないかと思うくらい勢いよくドアを開いて外に出る。
そして、視線を門前へと向けると、そこには深い緑のローブをまとい、フードで顔を隠した人物が立っていたのだ。
"彼女"は俺に気づいて、フードを外し、ニッコリと笑みを浮かべるのであった。
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