79 / 290
第二章 始まる争い
14話 慢心のツケ
しおりを挟む「来るわよ!みんな、気をつけて!!」
「グオォォォォォ!!!」
エレナが声を上げると同時に、真ん中の通路の奥から咆哮が聞こえてきた。
ズシンッズシンッと質量を感じさせる足音とともに、天井から小石がパラパラと落ちてくる。
「グオォォォォォォォォォ!!」
咆哮と共にダンジョン内が大きく震える。
そのおぞましい叫び声に、恐れを抱いているかのように。
地響きが振動を含み始めると、通路から大きな異形の巨躯が姿を現した。
二本足で立ち、その体表は鳥の羽毛のようなもので覆われている。
大きな口のように見える場所には、よく見ると房のようなものがついていて、独立的に羽ばたいている大小4枚の羽が、その異様さをかもし出している。
「なっ…なに…?あれ…」
驚愕の表情を浮かべるミコト。
そんなミコトに、ゼンは落ち着かせるように声をかける。
「ミコト…落ち着いて。やつは情報にもあった『ウィングヘッド』だ…」
「あれが…『ウィングヘッド』?じゃあ、あれを倒さないと、私たちはダンジョンから出られないってこと?」
「そういうことになるな…」
鋭い目つきで『ウィングヘッド』を睨みつけているウォタから視線をずらし、ミコトもまた、その異形のモンスターへと目を向ける。
「ミコト!このまま応戦するわよ!!」
「ここでやっちゃいましょうですわ!」
「え…?二人とも…」
「まてっ…お主ら!!ここはいったん体制を立て直そう!!こいつがここに来るのは想定外だ!!」
やる気満々のエレナとフレデリカに対し、ゼンは退くことを提案した。
しかし…
「ここでこいつを倒せば、ダンジョンから出られるようにはなるんでしょ!BOSSとも合流しやすくなるんだし、待つ手はないじゃない!」
エレナはダガーをクルッと回転させると、『ウィングヘッド』へ向かって駆け出した。
その言葉に同意したフレデリカも、その後を追う。
「待てと言っとるんだ!そいつは竜…」
「グオォォォォォォォォォ!!」
ゼンが二人を説得しようとしたが、それを阻むように『ウィングヘッド』の咆哮が響き渡った。
「チィッ!!ミコトはここにおれ!」
「ゼンちゃん!!」
ゼンは体を大きく変化させると、そう言って二人を追っていく。
「ハァァァァ!!!」
一直線で向かってくるエレナに対し、それを迎え撃とうと『ウィングヘッド』の体の房から無数の触手が姿を現した。
ユラユラと揺らめく触手を映すエレナの瞳の奥に、小さな炎が宿る。
そして、その瞳は駆け抜けるエレナの後に、赤い一筋の軌跡を残していく。
そして、エレナは一言だけつぶやいた。
「スキル『影縫い』…」
その瞬間、エレナの姿がフッと消え、後には赤い軌跡が描かれていく。
自分に向かってきていたはずのエレナが、突然、目の前から消えたことに、『ウィングヘッド』は困惑した様子だ。
触手を探るように動かしていると、突然体に斬撃が走る。
ガキンッ
乾いた鈍い音があたりに鳴り響く。
ガキンッガキンッ
続け様に2度、計3回の斬撃が『ウィングヘッド』の体に当たる。
「なによ、こいつ!硬すぎるわ!!」
気づけばエレナは『ウィングヘッド』の後ろに回り込んでいた。
『影縫い』は、イノチがランクアップする際にエレナが獲得した、固有スキルの一つである。
目にも止まらぬ超スピードで動き、瞳に宿る炎の軌跡で描いたライン上を、縫うように斬撃が飛んでくるスキル。
しかし、『ウィングヘッド』の体には傷一つついていない。
「エレナ!!いったん離れなさい!!」
間髪入れずにフレデリカが『ウィングヘッド』の頭上へと飛び上がり、静かに言葉を綴っていく。
「獄炎の焔焔たる意志たちよ、我が手に集いて来たれ…」
ゴウッという音とともに、フレデリカの周りに赤黒い炎のオーラが発現し、詠唱に合わせてフレデリカの手に、それらの炎が収束する。
フレデリカはエレナが十分に離れたことを確認すると、『ウィングヘッド』へと視線を戻す。
すでに相手はこちらを補足しており、触手を揺らめかせて、迎撃の態勢をとっているようだ。
それを確認すると、最後の一言を大きく叫んだ。
「…全てを滅せ!アンファール・バースト!!!」
言葉とともに両手に収束した赤黒い炎を、『ウィングヘッド』へと撃ち下ろす。
轟音とともに駆け降りるその炎は、まるで巨大な隕石の落下にも思えるほどだった。
「ガァァァァオォォォォォォ!!!」
『ウィングヘッド』が大きく咆哮を上げる。
「こんがり焼き上がるといいですわ!!」
大きく笑みを浮かべるフレデリカであったが、次の瞬間、その表情が一変する。
『ウィングヘッド』が、自身の目の前に緑色の魔法陣を発現させたのだ。
「なっ…なんですって?!」
魔法を放ちながら驚きの声を上げるフレデリカをよそに、緑色の魔法陣が輝きを放つと、そこから魔法が放たれた。
緑色の光線のようなそれは、一直線に駆け抜けながらも、風の刃のようなものを無差別に放っていく。
その刃は周りの壁など、ありとあらゆるものへとそのキバを剥いていく。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
「ミコトっ!!」
ミコトの周りでも、風の刃が地面や壁を抉っていった。それを見て、ゼンは急いで引き返す。
「こんのっ…!!」
フレデリカが魔法を放つ両手に力を入れた瞬間、赤黒と緑が衝突し、衝撃波が辺りを包み込んでいく。
岩は吹き飛び、壁には亀裂が走っていく。
「フレデリカの馬鹿たれめ!ミコト!」
「ゼンちゃん!!」
なんとか間に合ったゼンは、ミコトを自分の体で包み込み、その衝撃に備える。
「わわわ!!ちょっ…ちょっと、なによこれ!!」
エレナも吹き飛ばされまいと、近くの岩にしがみついている。
「こっ…こいつ…うぐぐ…」
「グオォォォォォォォォォ!!」
辛そうに力を込めるフレデリカに対して、『ウィングヘッド』は明らかに余裕を浮かべた咆哮を上げている。
「く……!な…なめる…んじゃ…ないで…すわ!!」
負けじと力を込めるものの、明らかに緑色の魔法の方が少しずつ押し込んでいくのがわかる。
そして…
「グギャアァァァァァァァァ!!!」
『ウィングヘッド』の大きな咆哮とともに、緑色の魔法の勢いが大きく増し、そのままフレデリカを魔法ごと飲み込んでいく。
(これは…!まずい!離脱を…!)
途中で放つ魔法から手を離し、辛うじて『ウィングヘッド』の魔法をかわしたフレデリカ。
それは赤黒の炎を飲み込みながら、爆音とともに天井に当たると、大きな風穴をあける。
その大きさからも、『ウィングヘッド』の魔法の威力がとてつもなく強力であることがうかがえた。
「ハァハァ…なっ…なんですの?こいつの力は…」
着地し、真上にあいた風穴を見つつ、そうこぼすフレデリカが、『ウィングヘッド』へと視線を戻したその時だった。
「しっ…しまっ…!!」
いつの間にか右足を触手に掴まれており、逆さまのまま、宙吊りにされてしまう。
そして、一度空中で体が止まったかとか思うと、そのまま地面に叩きつけられる。
「ガッ…ハッ…」
「フレデリカ!!」
エレナが助けようと駆け寄るが、別の触手がそれを阻んだ。
「邪魔よ!!」
エレナは焦りながら、ダガーで触手を弾いて突き進んで行くが、死角から飛んできた触手に吹き飛ばされてしまう。
その間にも、フレデリカは何度も地面に叩きつけられていく。
「くそっ…!!フレデリカ…!」
体勢をすぐに整えて、再び助けに戻ろうとしたエレナ。
その視界にあるものが映し出される。
「ん……あれは!!」
『ウィングヘッド』の触手の根本に引っかかる白い布のようなもの。
よく見ればそれは、イノチが身につける装備の一部であった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる