101 / 290
第二章 始まる争い
36話 嘘は門口まで
しおりを挟む「そろそろ終わりにするかの。」
ウォタは仲間が皆、無事であることを確認するとそうつぶやいた。目の前ではすでに指すら動かせなくなった異形が横たわっている。
「キョエキォォ…」
何を言っているかわからないが、悔しさが伝わってくる小さなその言葉に、ウォタはため息をついた。
「つくづく…我ら竜種は因果な生き物であるな。お主も成体になることを夢見ていたのだろうが…」
ウォタの瞳はまっすぐと異形を見据えている。
竜種の成れの果てである『ドラゴンヘッド』。
彼らもまた自分と同じ竜種であったのだ。
目の前の異形が、誰の糧となったのかはわからない。
しかし、それは竜種の定め…避けられない犠牲なのだ。
そして、自分もその犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいない。
「お主の命も、我が背負ってやるから安心せい。」
ゴウッと音を立て、ウォタの周りに蒼いオーラが発現する。
その中でウォタは目をつむると、仁王立ちのまま両手を拝むように合わせた。
まるで、異形に成り果てた『ウィングヘッド』へ慈愛を示すように。
そして、目を見開くと、そのまま異形へと飛びかかり、拳に乗せた蒼いオーラをその胸へと撃ち込んだ。
衝撃は異形の体を通り抜け、下の地面にヒビが走る。
「ギガッ…!!キリョカムエ…………」
ウォタの腕をつかんだその手が、ビクッと震え、そのまま力なく倒れていく。
「ともに行こう…」
そうつぶやくウォタの目の前で、異形は静かにチリになって消えていった。
それと同時に、イノチとミコトの携帯端末が振動する。
二人が各々の端末に目を向けると、『超上級ダンジョンクリア!Congratulation!!』という表示と、『帰還』のアイコンが表示されている。
「終わったぁ~」
「だね!はぐれた時はほんとに焦ったけど、みんな無事でよかったよ!」
「あんなに苦労したのに、最後は呆気なかったな。まぁ、ウォタが強すぎたんだけど…」
「まぁ、それほどでもないがな。」
「ウォタ!」
「ウォタさん!!ありがとう!!」
皆の元へ戻ってきた人型のウォタに、ミコトは嬉しそうに飛びついた。
その様子を見ながら、エレナもフレデリカも今回はホッとしたようにため息を吐き出す。
しかし。ミコトの様子を見たゼンは複雑な表情を浮かべていた。
「…まさか覚醒までしていようとは…な。」
「カカカ、まぁこれくらい我には朝飯前よ!」
「ちっ…」
ミコトの頭をポンポンしながら自慢げに笑うウォタに、ゼンは不満気に顔を背けた。
その様子を楽しげに見つめていたイノチ。
「さぁて、とりあえず拠点に帰るか!…しかし、ランクアップのために来たってのに、全然成果なしかよ。」
その言葉を聞いたミコトは、エレナとフレデリカとともにニヤニヤし始める。
それに気づいたイノチは、訝しげに三人へと問いかけた。
「なっ…なんだよ…」
「BOSS…?まさか、ランクが一つも上がってないとか言わないわよね?」
「そうですわ。これだけ長い間、ダンジョンに潜っていたんですもの…せめてランクの一つや二つは上がっててもおかしくわありませんわ!」
「うっ…うるせぇなぁ!なんだよ、急にニヤニヤと!」
いやらしい笑みをこぼして問いかけてくる二人の態度を、煩わしそうにするイノチ。
そんなイノチに、今度はミコトが笑いを堪えながら話しかけてくる。
「イノチくん…フフフ…ランク…いくつだっけ…フフ。」
「ミッ…ミコト…?どうしたんだよ…なんで笑って…」
「いいからいいから…ランク…たしか『85』だったよね?」
「そっ…そうだけど…」
少し引き気味のイノチに対して、ミコトは携帯端末を見せながら自慢げに口を開いた。
「ジャーン!私、ランク『85』になりました!イノチくんに追いついたよ!!」
「まっ…マジかよ!!うそだろ!?…うわぁ、本当だ…マジで追いつかれてる。」
「はぐれてる間にミコトも頑張ったのよ!新しいスキルもかなり有用だしね!」
「そうですわ!BOSSがダラダラしてる間にミコトは努力してたのですわ!まったく…ランクを上げにきたのに、その目的すら遂行できないとは…」
「仕方ないだろ?はぐれてすぐ『ウィングヘッド』には出くわすし、ウォタは呪われて戦えなくなるし…俺だって大変だったんだよ!」
その言葉を聞いた瞬間、エレナの顔色が変わった。
笑顔ではいるが、その裏に明らかに怒りが見えている。
「BO~SS…?今回はぐれた原因は何か覚えてるわよねぇ~。まさか忘れたとは言わせないわよぉ~?」
「うっ…それは…その…はい…」
「わたくしはちゃんと覚えてますわ!たしか原因は落ちていた『黄金石』…」
「そうそう。その『黄金石』に目がくらんで、後先考えず取りに行ったんだよねぇ。」
その場に正座させられたイノチは、見えなくなりそうなほどにどんどん小さくなっていく。
「やっぱりBOSSからは、ガチャに関連するものすべて取り上げないとダメね。」
「なっ…それは勘弁してくれ!…いや、勘弁してください!!エレナさん!」
「今回はみんなを危険にさらしたのですわ…弁護の余地は皆無ですわね。」
「わたしも、イノチくんにはガチャ中毒から立ち直ってもらいたいなぁ。」
三人の女性の冷たい視線に、イノチは動くことができない。
背中に冷たい汗が、大量に流れていくのがわかる。
ウォタとゼンは危険を察知し、すでに我関せずの状態だ。
「たしか携帯端末って、クランメンバーなら扱えるのよね。」
「うん、イノチくんの端末は私も使えるよ。」
「なら、やることは一つですわ…」
イノチを見る三人の目が光る。
「ちょっ…ちょっと…エレナ?なんでダガーを構えてんだ!!フレデリカ!ヤンキーみたく指を鳴らすな!ミコトまで…!!杖は人に向けないで!!」
焦り後ずさるイノチに対して、三人は横に並んで笑顔でイノチを追い詰めていく。
「うっ…うわぁ!!」
そう叫んでイノチが駆け出した瞬間だった。
「ウォタ!」
「ゼンちゃん!!」
「「はっ…はい!!」」
エレナとミコトの声に、ビクッと背筋を伸ばしたウォタとゼンは、一瞬で移動するとイノチを取り押さえる。
「くそぉ!ウォタの裏切り者!!ゼンさんまで…!二人とも、強いのになんでエレナたちに従ってんだよ!!」
「そりゃ…のぉ…」
「あぁ…。イノチ、"太きには呑まれよ"という言葉を知っとるか?」
「そんな言葉は知らん!なんだそりゃ…もう、いいから離してくれ!!このままだと、俺の…俺の命に関わるんだ!!」
必死に抵抗するイノチのことを、見て見ぬふりをするウォタとゼン。
そこにエレナがやってきて、イノチの懐から携帯端末を取り出すと、ミコトにそれを渡す。
「やめてくれ…ミコト!たのむ!ガチャを引けなくなったら…俺は…!」
「えっと…『黄金石』は全て募集でいいよね。」
「それでOKなのですわ。」
「ミコトォォォォ…」
取り押さえられたまま涙ぐむイノチをよそに、慣れた手つきでイノチの端末を操作していくミコトが、突然驚きの声を上げた。
「うわ!なにこれ…!?イノチくん、なんで『黄金石』100個も残ってるの?68個って言ってたじゃん!」
「えっ…それは…あれれれ?なんでかなぁ~」
「…なに?どういうことなの、ミコト?」
「イノチくん、自分が持ってる『黄金石』の所持数、誤魔化してたんだよ!」
「なんですってぇ!!」
三人の冷たい視線がイノチを襲う。
なにも言えなくなるイノチに向かって、ウォタとゼンがつぶやいた。
「イノチよ…嘘はいかんぞ…」
「そうだ。"嘘は門口まで"だな…」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる