108 / 290
第二章 始まる争い
43話 参上!
しおりを挟む「うぇぇぇ…この世界にもあーいうのっているんだな。」
イノチは、嫌なものを見るようにヘスネビへ視線を向けつつ、コーヒーをすすっている。
もちろん、エレナは炭酸水、アレックスはオレンジジュースと、各々が飲みたいと思っていたドリンクが、テーブルには置いてある。
これらはヘスネビが姿を現す少し前に、店主のガムルが持ってきてくれたものだ。
ガムルはそのまま騒ぎの方へ行ってしまったが…
「いるに決まってるじゃない。あーいう連中はどこに行ってもいるものよ。」
エレナはそういって、ストローで炭酸水を吸い上げる。
「あの人たち、誰なんですかね♪」
「蛇みたいな奴はわかんないけど、やられているのはトヌスの仲間だよな。」
アレックスもオレンジジュースのコップを両手で持ち、チマチマと嬉しそうに飲みながら、ヘスネビの方を見ている。。
すると、ヘスネビの挑発に乗りかけた男を、店主が間に入って静止したのだ。
そして、わめくヘスネビに向かって、顔色を変えることなく、近くにあった看板を指さしたのだ。
『店内ではお静かにお願いします。はい/いいえ』
「おいおい、あれも『はい/いいえ』付きの看板だぞ。」
「このタイミングでもやるわけ?相手も怒るんじゃない?」
エレナの言う通り、ヘスネビは激怒した。
「ガムル、てめぇ!バカにしてんのか!?無口なのは知ってるが、自分の置かれている状況もわからんくらい盲目しやがったか!」
ヘスネビは横にあったイスを蹴って、そう吐き捨てた。
「ククククク!ほんと、笑わせてくれるぜ!いったい誰のおかげでこの店が経営できてると思ってんだ!俺ら、スネク商会がその気になりゃ、こんな店すぐにでも締め上げちまうぞ!!」
「……」
そこまで言われても、ガムルはずっと看板を指差したままだ。
その態度に、さらに激怒したヘスネビは、声を大きく張り上げた。
「てんめぇぇぇぇ…!おい、お前ら!こいつら、店ごとぶっ潰しちまえ!!」
それを聞いていたエレナが、イノチへ小さく声をかける。
「ねぇ、BOSS?ちょっとやばめの雰囲気じゃない?」
「確かにな…目をつけられんのも嫌だし…こっそり逃げるか。」
「そうじゃないでしょ!助けてあげないの?」
「俺らはトヌスを助けにきたんだぞ。あんまり余計な事して、ジパン国軍の心象を損ねたくないんだよ。あいつらもそれはわかってると思うけど…」
「そうだけど…でも、見過ごすのも気が引けるわ…」
「僕もです…お店潰されちゃったら、もうこのクマさんランチも食べられないし…」
アレックスまでもがエレナに同調する。
イノチは頭をかいて大きなため息をつくと、二人にこう告げた。
「わかった。助けよう…その代わり、顔がバレない方法でな。」
そう言って『ハンドコントローラー』を発動したイノチに対して、エレナがニヤッと笑った。
「大丈夫よ。今回はBOSSの力を借りなくても、変装できる良いものがあるから!」
「良いもの?」
その言葉に、イノチは首を傾げた。
・
「後悔しやがれ!」
醜悪な笑みを浮かべ、後ろで笑うヘスネビ。
前には取り巻きの男たちが、それぞれの得物を片手にジリジリと詰め寄ってくる。
店の中にいた客たちは、危険を察知してすでに外へ逃げ出していた。
ガムルはその場からは動かず、腕をまくり上げる。
「てめぇら!やっちまえ!!」
ヘスネビがそう声をかけ、一番前にいた男が剣をガムルに振り下ろした。
ガムルが素手でそれを受けようとしたその時、
ガキィィィィンッ
乾いた金属音があたりに響き渡る。
突然現れた漆黒のタワーシールドが、自分の剣を受け止めていることに驚く取り巻きの男。
その大きな盾の後ろから、可愛らしい声が聞こえてくる。
「体はおっきいのに、攻撃が軽いなぁ~。おじさん、そんなに強くないね♪」
「なっ…なんだと!?てめぇ、誰だ!」
男は剣を弾かれて後退りした。
ヘスネビを含む他の取り巻きたちも、突然のことに足を止め、驚いた表情を浮かべている。
「へへへへぇ~、誰だと聞かれたらねぇ~♪」
「「「「………!!?」」」」
盾の後ろから現れたのは、可愛らしい洋服を身にまとった熊であった。
ヘスネビたちはさらに驚いたが、今度はヘスネビの前にいた男が、突然、吹き飛ばされる。
「なっ…今度はなんだ?!」
焦ったヘスネビが横に目を向けると、そこには細身の白い太ももが見えるほどに短い黒スカートを履いた鹿女が立っていた。
「だっ…誰だ!てめぇらは!!」
その問いかけに、先に口を開いたのは熊の方である。
「誰だ誰だと聞かれたら!」
そう言いながらポーズを決める。
それに合わせるように、今度は鹿女がポーズをしながら、口を開いた。
「名乗るが世の常、人の常!」
続けて、小さな熊がポーズする。
「轟く咆哮!熊!」
鹿女も同様だ。
「駆け抜ける蹄(ひづめ)!鹿!」
そして、口上もクライマックスを迎える。
「森林を統べる獣王、熊鹿姉妹!参上!!」
二人は背中を合わせ、まるでどこぞやの美少女戦士のような決めポーズをとったのである。
エレナとアレックスは思う。
ーーー決まった…
と。
同時に、遠目に見ていたイノチはこう思った。
ーーーアレックスが馬の被り物じゃなくてよかった…
と。
何故か無言でガムルが拍手しているが、呆然としていたヘスネビたちは、その音で思い出したように声を荒げた。
「いっ…意味わからんが、おっ…お前ら、やっちまえ!!」
取り巻きたちも少しやる気を削がれたようだが、二人に向かって飛びかかる。
アレックス…否、熊少女が前に立ち、漆黒の盾を構えると、男たちの攻撃を一人で受け止める。
イノチもガムルもそれには驚いたが、一番驚いているのは男たち本人だ。
こんな小さな体のどこに、そんな力があるのか。
ギリギリとそれぞれの得物を押し込もうとしても、ビクともしないのだ。
そうしていると、熊少女が楽しげの口を開く。
「そろそろ、行っくよぉぉぉぉぉ♪♪♪」
そうこぼした瞬間、盾を一瞬だけふっと下に沈ませた。
「「「「……!!?」」」」
男たちはバランスを崩して、前に倒れ込みそうになるが、その瞬間を狙って熊少女が盾を一気に上へと押し上げる。
「そぉぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ものすごい衝撃とともに、数人の男たちが宙に打ち上げられる。
それを待ってましたとばかりに、今度は鹿女が駆け出した。
宙を舞う男たちに対して、疾風の如き速さで、手刀をたたき込んでいく。
一人…また一人と意識を失った巨体が床へと降り注いでいくのを、ヘスネビは呆然と見つめていた。
最後の一人が落ちると、熊少女と鹿女はヘスネビへと顔を向ける。
「…あなたも、ヤる?」
鹿の顔をした女が、首を傾げて無表情でそう告げる様は、ホラーに近いだろう。
「くそぉぉぉ!おっ…覚えてろよ!!!」
チンピラのテンプレゼリフを吐き捨てて、ヘスネビは一目散に逃げ出したのであった。
「エッ…エレナの姉御、助かりました。」
トヌスの仲間である男が、鹿女に近づいていき、声をかける。
すると、鹿女は一言だけ最後のセリフを決める。
「誰のことかは分からないな…では我々はこれで!」
そう言い残して、鹿女と熊少女は店の外に出て行ってしまったのである。
イノチは思った。
ーーーうわぁ…なりきってるよ。寒っ…
と。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる