117 / 290
第二章 始まる争い
52話 御用だ!
しおりを挟むオオクラは何が起こったのか、理解できずにいた。
目の前では、王が怒りの形相で自分に説明を迫ってくる。
「オオクラよ!今のはどういうことだ!!」
「え…?いや…今のは…その…」
「オオクラ殿!我々にも説明を!!」
横から外交庁国政部隊長シャシイも迫ってきている。
青ざめた顔で後退りするオオクラ。
その場にいる幹部たちの冷ややかな目が、彼に向けられていた。
(なんだ、これは…!何が起きているのだ!)
現状が理解できない。
奴らの死刑が執行されて、それで終わりだったのに。
奴らは死に、証拠はすべて消えるはずだったのに。
刑が執行される直前に、自分の声が大きく轟いたと思えば、民衆の怒号と、自分に向けられる怒りの視線。
オオクラは、悲痛の表情を浮かべていた。
・
王が手を上げると、絞首台にいる兵士は足場を外すレバーに手をかけた。
振り下ろされる合図を見守っていた次の瞬間、絞首台の上にいる女の首飾りから大きな声がこだました。
それは、イノチが『エンターキー』を押下した直後のことだ。
兵士はその大きさに我慢できず耳をふさぐ。
『…王があの罪人の死刑を考え直せと言っておる。』
『それはそれは…』
『ここに来て、迷うとは…まったくめんどくさいお方よ。…他に奴に被せる罪はないか?』
『あるにはありますが…』
『そうか…なら、全部かけろ。』
『仰せのままに…ところで…』
・・・
『はぁ…良い香りだ。…ん?これは"アマト"のスイーツではないか。なになに…ほう、ヘスネビが…奴もたまには役に立つな。しかし、あいつもバカな奴だ…『トヌス』だったか?たかが仲間一人のために、自らの命を投げ出すとはな。ククク…まぁ、そのおかげであの商人を殺した罪も、奴に被せることができたのだがな。バカといえばあの商人もだ。俺に従っておけば殺されずに済んだものを…』
その声はエレナの首飾りからだけでなく、周囲にある建物、強いて言えば街中の建物から鳴り響いた。
街のありとあらゆるところで、オオクラの言葉が発信されていったのである。
それを聞いた民衆は、驚き、言葉を失っていた。
そして、静寂が訪れた後には、どよめきが沸き起こる。
「あの声はオオクラ様よね?」
「え…あの罪人が殺したんじゃないのか?」
「今の話って…商人を殺したのはオオクラ様ってこと?」
「ヘスネビって、スネク商会の奴じゃねぇか?」
混乱する民衆。
すると今度は、そのタイミングを見越したように、一つの声が国の幹部たちへと向けられる。
「どういうことだ!国は、無実の人を処刑しようとしていたのか!?」
それに続くようにこちらでも。
「犯人はオオクラなのか!!!ちゃんと説明しろ!!俺たちは彼らに祈りまでしたんだぞ!」
ところどころで飛び交う声に、少しずつ民衆が反応し始める。
気づけば、それは強大な怒号となった。
民衆は、まるで一つの生き物のように声を合わせ、見物台にいる王たちへ説明を求めた。
その声を背に、ズカズカと歩み寄る王の迫力に、オオクラは尻もちをついてその場に座り込む。
「オオクラ!貴様、私を欺いたのか!?罪のない者に罪を被せ、私に処刑させようと…そう目論んだのか!」
「めっ…!滅相も…ごっ…ございません!私が王を欺くなど…なぜそんなことを!!」
「しかし、あの声はお前のものではないか!しかも、私をめんどくさいなどど…」
「違います!王よ!これは何かの間違い…誰かが私を陥れようとしているのです!あの声はそいつが偽造して…」
「声を模倣するような魔法はこの世にはない!!そのような道具もだ!!」
「…うっ!」
オオクラは言葉につまる。
「先の話が本当なら、『タカハ』の商人を殺したのはあなたということになりますな!オオクラ殿!」
今度はシャシイがオオクラを問い詰める。
「あれがあなたの声かどうかも含めて、詳しく話をお聞かせ願おうではないか!」
シャシイが、そう告げてオオクラに詰め寄る。
他の幹部たちも、ジリジリと距離を縮めていく中、オオクラは尻餅をついたまま、後ろに下がり声を上げた。
「…くっ!キンシャ!キンシャ、どこにいる!?」
「…ここに。」
「なっ…!貴様、何者だ!」
オオクラの呼び声に応えて、突然姿を現したキンシャに対して、シャシイは驚きつつも腰から剣を抜いて威嚇する。
他の幹部たちも王を守ろうと前に出る。
「おやおや、そんな物騒なもの…しまってください。」
「だまれ!お前の後ろの男には話がある!かばい立てする気なら容赦はせんぞ!」
「…フフ。」
口元で笑みをこぼすキンシャに対して、シャシイが訝しげな表情を浮かべたその時だった。
「あんたの相手はこのあたしよ!!」
突然、エレナが現れ、後ろからキンシャに対してダガー振り抜いた。
フード付きのローブが真っ二つに裂かれる。
が、それを難なくかわしたキンシャは、いつの間にか別の場所へ立っていた。
現れたのは長髪の黒髪に、横長の目つきの顔だった。
目の下には菱形の入れ墨があり、顔は面長。
中性的な顔立ちのキンシャは、笑いながらエレナへと話しかける。
「不意打ちなんて卑怯よ。」
「あらそう。残念だけど、あたしの辞書にはそんな言葉ないのよ。」
睨むエレナと笑うキンシャ。
一触即発かと思われた二人だが、キンシャは興が冷めたというように、大きくため息をついて口を開く。
「ここであなたと戦っても、私にはなんの得もないわ。なので、残念だけどここらでお暇させてもらいます。」
「はぁ…?逃がすわけないじゃない。」
「おっ…おい!キンシャ…何を言って…私を守れ!」
キンシャはオオクラを一瞥するが、興味なさそうな表情を浮かべ、その言葉を無視する。
そして、エレナに向き直ると、大きな笑みを向けた。
「フフ…また会えたらその時は…」
「させないわ!!」
逃がすまいとエレナが飛びかかった瞬間、煙幕が巻き起こり、見物台の上は何も見えなくなってしまう。
「王をお守りしろ!!」
シャシイが叫ぶと、幹部たちは王をかばいながら、その場を離れていく。
そんな中で、エレナは一人ダガーを振り抜き、手応えの無さに悔しさを滲ませつつ、こっそり逃げようとしていたオオクラの襟を掴み上げた。
「この際だからあんたでいいわ。覚悟しなさいよ…」
「ヒィィィィ!!ごめんなさい!ごめんなさいぃぃぃ!」
必死に謝るオオクラを、エレナは引きずるように引っ張り、見物台を後にしたのであった。
・
「フフ…もう少しここで楽しみたかったけど残念。やっぱりあれは録音機だったのね…しかも、遠隔の再生機能付きで…。それに街中に拡声器まで設置しているなんて…。あぁ…このスキル持ちにあってみたい。」
キンシャは遠くに見える王城を背に、街の中を走り抜けていく。
その顔には愉悦が浮かんでいて、頬を赤く染めている。
「ジパン国…まぁまぁ楽しめたわ。とりあえず、ジプトに帰ろうかしらね。」
嬉しそうに笑いながら、路地を曲がり、そのまま森の方へと向かっていると、突然投げナイフが飛んできた。
「誰!」
それをかわして、塀の上に飛び乗ると、ナイフが飛んできた方に視線を向ける。
すると見知らぬ傭兵が姿を現した。
「よう…お前か、今回の騒動を裏で糸引いてたやつは。」
「さて…なんのことでしょう。」
傭兵はクスリと笑う。
「城の中に変な気配があるとは思ってたが、まさかプレイヤーだったとはな!」
「なっ…?!…そうかあなたも…」
キンシャは少し驚きつつ、あごに手を置いてうなずいた。
そして、ニヤリと笑うと傭兵に声をかける。
「あなたはこの国を拠点とするプレイヤーですね。どうです?私と手を組みませんか?もうすぐランク戦が始まるでしょう?」
その言葉に傭兵はさらに笑みを深めて言い放った。
「あいにくだが…この国はぜぇ~んぶ、俺のもんだ!お前にゃやらねぇよ!」
その瞬間、ゲンサイはキンシャに飛びかかった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる