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第三章 ランク戦開催
47話 ゲンサイの業
しおりを挟むその日、ジプト法国では巨大な討伐隊が組織されていた。
「皆、よく聞け!!」
隊長格の男が整列する兵士たちに声を上げている。
「我々の使命はただ一つ!この国に巣食う殺人鬼を捕まえ、処することである!そのためには命を惜しむな!国のために貢献せよ!」
その言葉に兵士たちは皆、自分を鼓舞するように大きく声を上げた。
それを横で見ている二人の男。
一人は立って腕を組む長髪、もう一人は石に腰を下ろて足を組んで頬杖をついている短髪の男だ。
「リーダーもわざわざここまでするかねぇ…」
座ったままつぶやく男に、立っている男が返す。
「狙われているのがプレイヤーばかりだからな。先日、うちのクランメンバーも殺られたらしいし…」
「だからといって法国軍まで動かすか?普通…」
「確かにな。だが、件のプレイヤー狩りはこの世界の人間には手を出さんようだからな。効果的ではあるさ。」
頬杖をついたまま、ため息をつく男。
「なるほどな、炙り出し…というわけだな。しかし、奴はもうこの国にはいないかもしれないぜ?この数日は"狩り"もぴたりと止んでるしな。」
「それが一番いい。だが…ことはそう上手くはいかんのさ。」
「またか…」
「あぁ、昨日な…」
「どこのやつだ?」
「うちだ…」
男は頬杖をやめて、立っている男を見た。
「…やられたのは?」
その問いかけに小さくため息をついて長髪の男は肩をすくめた。
「トカネリだ。」
「あいつか…で場所は?」
「昨日、奴は街外れの酒場にいたらしい。仲間と飲んだ帰り、一人路地に入ったところを襲われた。」
「なんでわざわざ一人で…」
「理由は分からん…だが、ほかのメンバーが言うには、突然先に帰れと言ったままどこかへ行ってしまったらしい。」
短髪の男は鼻を鳴らす。
「どうせあいつのことだ…"霧雨の悪魔"にかけられた懸賞金に目を眩んだんだろ。で、やはりか?」
「あぁ、やはりだよ。」
「そうか…やっぱりこの世界は腐ってやがるな!」
短髪の男はそうつぶやくとゆっくりと立ち上がり、歩き出した。
「どうする気だ?」
長髪の男の言葉に立ち止まる。
そして、彼は振り返ることなく吐き出すように言葉を綴った。
「決まってんだろ。"霧雨の悪魔"をぶっ殺すんだよ。」
そう言って再び歩き出す彼の背を、長髪の男は静かに見つめていた。
・
「なぁ、ゲンサイよ。」
「…んだよ。」
ウォタの言葉に振り向きもせず、剣を研ぎながら応えるゲンサイ。
「そろそろジパンに戻らんか?」
その言葉に剣を研ぐゲンサイの手が止まる。
「お主はここまでで126名を手にかけた。ジプトの半数近くを…だ。もう十分だろう。」
「何が十分なんだ…」
「イノチからもそれだけ"戦闘不能"にしたのならパーフェクトだと言われとるだろ…戻ってきて良いと。」
その瞬間、ゲンサイが声を荒げた。
「何がパーフェクトだ!こんなもんじゃ足りねぇ!もっと…俺はもっと…!」
「落ち着け…お主の体は今、かなり疲弊しとる。無理はしない方がいい。」
「大丈夫だ!昨日だって1人殺れたんだ!」
「ギリギリでな…いつもの力は出せてなかっただろう。」
「ぐっ…」
痛いところをつかれ、悔しそうに顔を滲ませる。
「それにな…今度はジプトの軍が動くぞ。」
「…軍…だと?なんで…」
「お前を狩るためだろうな…お前は殺し過ぎた。目をつけられるのは当たり前だろう。」
「…しかし、俺が殺したのはプレイヤーだぞ?この世界の人間には…」
「イノチも言っていたではないか。プレイヤーとやらも国の中枢に入り込んでいると…忘れたか?」
「…ちっ!くそ…」
ゲンサイは握りしめた拳を壁に叩きつける。
「まぁ良い。今夜、この街を出てエルの街に戻るぞ。そこから砂船で港町へ下る。この国を出るぞ。」
「…」
「主人の命だからな。お前を殺させる訳にはいかんのだ…かと言って我が手を出す訳にもいかん。今回は我慢せいよ。」
ゲンサイは歯を食いしばる。
小さな窓から見える空には、彼らの気持ちとは対照的に爽やかな青空が広がっていた。
その晩、ゲンサイとウォタは暗闇に紛れて街を出ると、エルを目指した。
そして、一隻の砂船を"拝借"すると、そのまま港町へとその足を急がせた。
星空広がる砂の海。
その海を駆け抜ける一隻の小さな船が、大きく帆を張って風を切る。
「順調だな。あとはこのまま港まで数刻といったところだ。明日の船には間に合う。」
「…」
ゲンサイはウォタの言葉に応えず、砂を切る船底をジッと見据えている。
「とりあえず…少し休めよ。」
ウォタはそういうと船首へと移動していった。
ゲンサイは舞い散る砂を見ていた。
月明かりを反射して、キラキラと輝く砂の粒子はまるで白い火花のように見える。
ーーー君ならまた来てくれると思ってたよ…
聞き覚えのある声が頭の中に響いた。
ーーー2回目だからボーナスあげる。欲しいものはあるかい?
子供っぽく悪戯に笑みをこぼす声。
ーーー強くなり続ける力?…できないことはないけど、リスクはあるよ。
驚いたような声色とは対照的に、その口元は笑っている。
ーーースキル『暴食』…プレイヤーを倒せば倒すほど君の基礎能力が向上するスキルだ。ただし…
彼は何かを考えるように一度言葉を止める。
しかし、すぐに口を開いた。
ーーー君の体がスキルに耐えられないかもしれないよ。制御できないかも…それでも望むというならこれを君にあげよう。
俺は躊躇うことなくそれを承諾し、そのスキルを手に入れた。
この世界に再び舞い戻り、最初のターゲットにしたのはログインしたばかりに新規プレイヤー。
"初めて"という隙につけ込んで誘い出し、殺した。
気づけばスキル『暴食』が発動し、俺のランクは一気に上がると同時に、基礎能力も大幅に向上した。
驚くべきはその上がり幅だった。
今まで1ヶ月以上かかって手に入れなければならなかった経験値を、たった1人手にかけるだけでいとも簡単に稼いでしまったからだ。
それから俺は、プレイヤーを見つけては誘い出して殺す、これを繰り返していった。
俺のランクは初期値に戻っていたが、平和ボケしたアホなプレイヤーたちを狩るのは簡単だった。
「まだだ…まだ足りない…」
視線の先で砂の粒子が煌めき、冷たい風が鼻先を切っていく。
ふと視線を船首へとずらせば、ウォタの後ろ姿が映る。
ーーーあの竜を倒せるほどの力が必要だ…
無意識にそんなことを考えていたゲンサイの耳に、そのウォタの声が突然飛び込んできた。
「敵襲だ!!なにかに掴まれ!!」
ウォタがそう叫んだ瞬間、船首の目の前に大きな砂柱が立ち上がる。
ウォタが思い切り舵を切る。
船は大きな振動とともに砂柱のギリギリのところをかすめていく。
吹き上がった砂がキラキラと月明かりを反射しながら舞い散る中、揺れる船体にしがみついているゲンサイはその視界に砂柱の正体を見た。
巨大な芋虫…ミミズのようなそれがクネクネと大きな体を動かしている。
そのまま船はバランスを崩して横転したが、ウォタもゲンサイも巻き込まれる前に回避し、少し離れた位置に着地した。
「なんだよ、こいつは…」
「サンドワーム…だな。しかし妙だ…」
ゲンサイの言葉に答えつつ、ウォタが首を傾げる。
「…なぜすぐに襲ってこない。こやつはかなり凶暴で肉食性の強いモンスターであるはずだが…」
そのつぶやきにゲンサイも答えを探していると、突然上から男の声が響いてきた。
「…てめぇが"霧雨の悪魔"で間違えねぇか!?」
二人が見上げると、サンドワームの上から飛び降りる人影が見え、目の前に静かに着地する。
鋭い目つきに服装は中東でよく見られる黒と赤を基調としたカンドゥーラ。頭にはターバンのようなものを載せていて、そこからは橙色の短髪が見える。
「聞こえなかったか?もう一度聞く…てめぇが俺らの仲間を殺した"霧雨の悪魔"かと聞いたんだ!」
怒気の混じる声とその鋭い視線は、ゲンサイに向けられていたのだった。
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