177 / 290
第三章 ランク戦開催
50話 約束
しおりを挟む「…ハァハァ…おい、ウォタ…てめぇ…」
膝をつき、肩で息をするゲンサイの目の前には青き竜が立っていた。
月の光に照らされた鱗は蒼く美しい輝きを放ち、ゲンサイを見下ろす瞳は紫に輝いている。
「神獣強ぇぇぇ!!霧雨の悪魔が赤子扱いじゃねぇか!カハハハ!」
その後ろで笑うキリシメを、ゲンサイは睨みつけた。
「てめぇは絶対に許さねぇ…ハァハァ…俺が…ぶっ殺してやる…からな…ハァハァ…」
「おうおう、やってみてくれよ。まぁ、こいつをどうにかしないとどのみち無理だろう!」
その瞬間、ウォタのしっぽが再びゲンサイを襲う。
鈍い打撃音とうめき声が夜の砂原に小さく響く。
吹き飛ばされたゲンサイは、痛む体に鞭を打ってなんとか受け身を取った。
笑みを浮かべるキリシメに対して、怒りに満ちた視線を送るゲンサイだが、本調子でないことに加えてダメージを受け過ぎているため、体が思うように動かせない。
そんな苦しむ様子のゲンサイを見て、キリシメは笑みを深めるとその口を開いた。
「成功してほんとよかったぜ。こいつを手に入れられなかったら隷属モンスターを全て注ぎ込んだ意味がないからな。」
「ど…どういう意味だ…ハァハァ…」
「ククク…冥土の土産だ。教えてやるよ。」
キリシメは楽しげに話し始める。
「職業『魔獣使い』はモンスタースロットを10個持ってるんだ。それは俺が隷属できるモンスターが10体までということを意味する。要は10体を超えて隷属することは絶対にできないんだよ。」
「…しかし、てめぇはさっき自分は特別だと…あの量のモンスターは…」
「もちろん特別さ。さっきの大量のモンスターは俺がスキルでコピーして作り出したものだからな。あの量を作り出すにはかなりの魔力が必要だ。だから俺は特別なのさ。」
「…」
「こいつを手に入れるには一度隷属しているモンスターを0にリセットする必要があった。モンスターの強さによってはスロットを複数使うことがあるからな。"神獣"を隷属するんなら最大数を確保しとくべきだろ?」
悔しげな表情を浮かべるゲンサイを見て、キリシメはニヤリと笑う。
「あの大量のモンスターはお前を殺すための切り札だったが、こいつを手に入れられることができればそれも簡単に成せると気づいたんだ。だから、俺はそのために力を使ったというわけだ。どうだ、理解できたか?」
キリシメはそう言うと大きな笑い声をあげる。
「ほんとに助かったぜ。さっきの咆哮を最初から使われてたら、俺の作戦はパァだったからな!こいつがお前に戦いの指南を始めた時はしめたと思ったよ。」
「くっ…そ…!ハァハァ、ウォタ…!!てめぇ!悔しくねぇのか!」
キリシメの言葉を聞いてゲンサイはイラ立ちを覚える。
目の前に静かに佇むウォタへ声を荒げるが、ウォタ自身それに反応することはない。
「無駄だ無駄!こうなっちまえば、こいつが死なない限り解放はできないからな!!このドラゴンは死ぬまで俺の奴隷ってことだ!!」
「おい!ウォタ!!こんなことであの野郎に顔を合わせられんのか!?このままじゃ…ハァハァ…お前はそんなもんなのかよ!!」
キリシメの挑発を無視して、ゲンサイはウォタへ想いの丈をぶつける。
「何が神獣だ!何が最強の竜だ!ダンジョンの事といい、この現状と言い、お前はまったく良いところがないじゃねぇか!」
「…おい、無駄だと言ってんだろ?今のこいつには言葉なんか届かねぇよ。」
自分のことを無視してウォタへと話しかけるゲンサイを見て、キリシメも少々イラ立っているようだ。
「あのクソ女やイノチの奴に言ってやるからな!てめぇは使い物にならなかったとな!!戻ったら絶対にチクってやる!!ざまぁねぇぜ!」
「…お前、逃げられるつもりでいんのか?はぁ~ったく、頭ん中お花畑かよ。この状況でどうやって逃げ…」
「お前が黙れ!俺はこのアホ竜に話しかけてんだ!!」
「てっ…てめぇぇぇっ!」
言葉を遮られた上に罵られ、キリシメは驚きつつも湧き上がるイラ立ちをゲンサイに吐き捨てるようにぶつけた。
「よくわかった!お前は絶望して死ね!そもそもお前は仲間の仇だ。逃すわけねぇだろうが!スキル「幻操」!!」
キリシメがそう唱えると、砂の粒子が集まり出してウォタとまったく同じ姿をした竜が現れる。
「なっ…!?ウォタが…2体!?」
「これが俺のスキルだ。隷属したモンスターをコピーする能力。力も技も全て同じだ…てめぇは今からこの2体に遊ばれて死ね!!」
驚くゲンサイに向けて、指を差して怒りの中に笑みを浮かべるキリシメ。
ゲンサイはなおもウォタへと言葉をぶつける。
「ウォタァァァァ!!てめぇ、目を覚ましやがれ!!この超絶アホ竜がぁぁぁぁぁ!!」
「黙れ、この人殺し野郎!!お前たち、こいつを殺れ!存分に苦しめてなぁ!!」
そう命じるキリシメの瞳が紫に輝く。
そして、2体のウォタは無言のまま、同じように紫に光る2組の双眸をゲンサイへ向けたのだった。
・
とても眠たい…
微睡の中にいるような感覚だ…
我は何をしている…?
何をしていた…?
思い出せない…
意識が朦朧としていて、考えようとしても頭が回らない…
心に重たい枷をはめられているようだ…
ダメだ…眠い…
もう…目を瞑ろう…
ーーー起きなさい。
誰だ…我に声をかけるのは…
ーーー目を覚ましなさい…ウォタよ…。
我は眠たいのだ…放っておいてくれ…
ーーーダメです。あなたにはやるべき事がある。寝ている暇(いとま)はないのです。
関係ない…我は最強の竜種だ…指図される謂れはない…
ーーーあなたには守るべき約束があるでしょう。それを蔑ろにするのですか?
約…束…?
ーーーそうです。誰との約束か、思い出しなさい。そうすれば目は覚める。
約束…誰とした…我が…我は何の約束を…
ーーー忘れてはならない。忘れるはずのない古の約束。あなたはそれを守らなければならない。そして、約束を交わした者もまたそれを望んでいるのです。前を見なさい。
その言葉に従い、ぼやけた視界を前に向ける。
そこには、こちらを睨んで叫ぶ男の姿が映っていた。
ーーー彼を守るのでは?このままでは、あなたは守るべきだったはずの者に手をかけることになりますよ。
そうだ、我はこやつを守らねばならない…誰かに頼まれた…こと…誰に…誰にだ…
ーーーそうです。思い出しなさい、ウォタ。あなたには守るべき約束があるはずです。誰に…誰と約束を交わしたのかを。何を守るべきなのかを…思い出しなさい。
守るべきもの…守るべき約束…
ーーー目を覚ますのです、ウォタ。
その瞬間、微睡んでいた頭の中が晴れ渡る感覚を覚える。
もやもやしていたものが一気に消え去っていく。
そして、声が聞こえてきた。
『おい!ウォタ!!こんなことであの野郎に顔を合わせられんのか!?お前はそんなもんなのかよ!!』
偉そうに…何なのだ。あの野郎…とは、誰のことだ…?
『何が神獣だ!何が最強の竜だ!ダンジョンの事といい、この現状と言い、お前はまったく良いところがないじゃねぇか!』
良いところがない…?うるさい…我は最強の竜種だぞ…他人にどうこう言われる筋合いなどない…
いったい何なのだ。好き勝手言いおって…誰だ…誰が…
『あのクソ女やイノチの奴に言ってやるからな!てめぇは使い物にならなかったとな!!戻ったら絶対にチクってやる!!ざまぁねぇぜ!」
イノチ…?イノチ…とは…
そうだ!思い出した。
我はイノチと約束したのだ。目の前のこいつを守ると…
それは守らねばならぬ。
その約束は破れない。
古の約束まで破ることになってしまう。
それは…ダメだ!ダメだダメだダメだダメだ!!
我は起きなければならぬ!!
目を覚ますのだ、ウォタ!!
ーーーそう!目を覚ますのです、ウォタ!!
その瞬間、ウォタは今までにないほどの大きな咆哮を上げたのである。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる