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第三章 ランク戦開催
60話 差出人:Z
しおりを挟む「ミコトたちは酒造りか…なんだか楽しそうだ。」
本音っぽくそうこぼすトヌスは、船首に寝そべって携帯端末を眺めていた。
ハチオ諸島。
トウトから50キロほど離れた場所に位置し、大小多数の島々が点在する海域にあるこの諸島に来た理由。
もちろんそれは、他国からの侵攻を防ぐべく多くの仲間を募るためである。
「トヌス殿、まもなく到着しますぞ!」
そう言いながら近づいてくるボアを見て、トヌスは起き上がる。
「てことは…」
「ですな。あれです。」
ボアが指差す先には、周りにある島よりもひと回りほど大きな島が見えた。
「あれがこのハチオ諸島に点在する島々の中心。ニシキ島です。」
「あそこにいるんすね。」
「そうです。まぁ、事前に話はつけてますから、今日は顔合わせみたいなものですがね。」
ボアの言葉を聞きながら、トヌスは遠くに視える島影をじっと見据えていた。
トヌスがスネク商会を訪ねた後、ボアはすぐに動いてくれた。
すでにジパン国への説明を終え、海域の防御についてはボアが人を手配することを前提に、タカハに軍を派遣することとなった。
それと同時に、ボアはハチオ諸島にいる知り合いにも連絡をとっており、すでに話もつけてくれているようだった。
「これから会う男はいわば海賊です。この諸島を支配しているね。」
「海賊…ですか。」
同じように島を見据えながらそう告げるボアは、歯切れの悪いトヌスの言葉に笑みを浮かべた。
「ハハハハ!海賊と言っても、太古よりジパン国からこの海域を取り締まる役目を担っている一族です。賊とは書きますが悪いことはしません。安心してください!」
「いや…別に不安なことは…」
トヌスは心の中を言い当てられたようで、なんだか複雑な気分だった。
確かにちょっと焦ったことは確かだが…
海面に目を落としたトヌスにボアは続ける。
「彼らはこの辺りの海域についてかなり詳しいですからね。彼らの協力があれば、いくら他国が大軍で攻めてきても大丈夫です。海を知っていたとしても、ここで彼らに勝つのは至難の技だと思いますよ。」
自信ありげに嬉しそうに話すボアに、視線を向けたトヌスが問いかけた。
「かなり信頼されているんですね。」
「それはもちろん。我らと彼らは同類のようなものですからね。」
「…同類?」
「えぇ、スネク一族も彼らと同じように、太古よりジパン国とのつながりが深い一族なのです。彼らが国の外を守り、我らが国の中の秩序を守る。そうやって我々は国のために生きてきたのです。」
ボアは真っ直ぐに島を見ている。
トヌスはその目の中に、懐かしさの他に強い意志のようなものが浮かんでいるように感じた。
「会長、そろそろです。」
「そうか、わかった。行こう。」
後ろから部下に声をかけられ、振り返ったボアはトヌスに告げる。
「まもなく彼らの縄張りだ。私は入島の手続きがあるので…トヌス殿は到着まで船内でゆっくりしていてくだされ。」
「わかりました。」
トヌスのその言葉に、ボアはうなずいてその場を後にした。
もう一度、島へ振り返ったトヌスは思う。
ウォタの件について報告を受けた後、あれからずっとイノチからの連絡はない。
だが、あのメールを見た時にトヌスは直感した。
あの文章からは彼の悲しみがひしひしと伝わってきた。
イノチがどれだけウォタのことを案じていたのかがよくわかった。
おそらくだが、彼はみんなに対してそうなのだろう。
仲間のことを一番に考え、仲間のために行動することができる人間。
それがイノチという男なのだとトヌスは理解している。
だから彼は、自分が一番危険なところへ…リシア帝国へ行くことにしたのだと思っている。
しかし、そのことにいつまでも落ち込んでいる暇はないのも事実だ。
冷たい言い方かもしれないが、イノチにはまだ"やるべきこと"があるのだから。
(首尾良くここまで来た。あとは旦那…あんたが立ち直ってくれるのを俺は待つぞ。)
確信はない。
だが、トヌスは信じている。
トヌスはそう心の中でつぶやくと、船首を後にした。
◆
「君たちのBOSSの調子はどうだい?」
エレナ、フレデリカ、アレックスの三人がある部屋の前で座り込んでいるところへ、レンジとスタンがやってきた。
その問いにエレナが悔しげな表情を浮かべて答える。
「…あれから全然出てこないわ。」
「BOSSぅ~心配だよぉ~むぅぅぅ…」
「そうかい…」
アレックスが頬を膨らませる中、エレナの言葉を聞いたレンジはそうつぶやくとドアの方を見据える。
「申し訳ないですわ。BOSSがあの調子では生誕祭に間に合うかどうか…」
「いや…仕方ないさ。大切な人を亡くしたんだろ…?その悲しみは僕らには計り知れないだろう。」
フレデリカの言葉にレンジは目をつむる。
その横でスタンも悲しげな顔を見せている。
「僕らは予定通り作戦を進めるよ。君たちと繋がっている内通者とはスタンが連絡を取り合うことにするね。正直、戦力的にかなり落ち込むけど、彼が立ち直るまで君たちは彼についていてあげてくれ。」
「言われなくてもそうするわよ。あたしたちはBOSSのためだけにいるんだから…」
エレナはそう言ってレンジを睨みつけた。
フレデリカもアレックスもその横で頭を縦に振っている。
「ハハハハ…参ったな。彼は本当に愛されてるんだね…うらやましい限りだよ。しかしまぁ、これなら安心できるな。彼の様子に進展があったら教えてくれ。それじゃあ、また。」
レンジは額に手を当てながら一本取られたという様子笑うと、そう告げて去っていった。
スタンも頭を下げてその後に続く。
その顔には物悲しさを浮かべながら。
「はぁ…ここに来て、こんな足止めを喰らうとは思わなかったですわ。」
レンジたちを見送ると、フレデリカが大きなため息をついた。
「本当だよねぇ…」
普段はニコニコしているアレックスも、今回ばかりは悲しげな表情を浮かべている。
「仕方ないわよ。あたしたちだってまだ信じられないもの…あいつが死んだなんて。BOSSもあの時とは比べ物にならないほど落ち込んでるし…」
「今回はミコトもいないし…ちょっとやばいかもですわね。」
再びため息をつくフレデリカ。
その横で、イノチのいる部屋のドアを見てエレナが言う。
「大丈夫…あたしたちはBOSSを信じるのよ…。あたしたちが信じなくて誰が信じるのよ。」
その言葉にフレデリカもアレックスも静かにうなずいた。
・
一方、その部屋の中…
薄暗い部屋の中で一人、イノチはベットの上に座り込んでいた。
髪はボサボサで目の下には大きなくまを携えている。
そして、ひどく泣いたのであろう…その目は真っ赤に腫れていた。
『大丈夫…あたしたちはBOSSを信じるのよ…。あたしたちが信じなくて誰が信じるのよ。』
部屋の外からエレナの声が聞こえてきた。
悲しみが混じっている…それでいてなお、心から自分を信じていてくれているとわかるほど、その一つ一つの言葉に強さを感じられた。
みんな、自分を信じて待ってくれている。
早く立ち直らなきゃ…
タケルもミコトもトヌスも…みんな心配してメッセージをくれたんだから…
そう考えるが、喪失感がイノチの心を食い荒らし、立ち上がることを許してくれないのだ。
作戦の日が近づいている…
ジパンを守らなきゃならない…
リシア帝国でのこの作戦を成功させなければ…
だが…
「ウォタ…」
小さく吐き出されたその声は、悲しみの色に染め上げられていた。
大粒の涙が再びイノチの目からこぼれ落ち、膝を濡らしていく。
それと同時に、悲しさがお腹の下から込み上げてきて胸がいっぱいになる。
嗚咽が止まらない。
何度拭っても、涙は止まってくれない。
悔しさ、悲しさ、後悔、自責…
さまざまな思いがイノチの心の中で吹き荒れていた。
無意識に右手をベットに叩きつけるイノチ。
その拍子に、ベットの上に置いていた携帯端末が床へと落ちた。
そんなことには気にも止めないイノチだが、落ちた端末から今まで聞いたことのない通知音が鳴った。
さすがに訝しげに思ったイノチは、涙を拭うと床にある端末を拾い上げ、その画面に目を向けた。
そこにはある通知が表示されていた。
差出人:Z
内 容:神獣の件
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