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第四章 全ての想いの行く末
エピローグ
しおりを挟む「お疲れ様ぁ~」
「お~う、お疲れ。」
薄暗い執務室の中で作業を黙々と続ける男に、運営スタッフの一人が声をかけると、彼は画面に向かったままそう返事をした。
「おいおい、また残業か?」
「あぁ、いろいろと後処理が残っててな。」
画面に向かったままの男はそうため息をつく。その様子を見た同僚は、彼の隣のイスに座り込んだ。
「サービス…終わるらしいな…」
「あぁ…今やってるのは、その後始末だからな。」
「まさか『アクセルオンライン』がサービス停止とは…これまでで一番面白い企画だと思ってたんだけどなぁ…。上の方達はもう飽きちゃったのかな。」
その言葉に、画面に向かう男は何も答えずに、手だけをキーボードの上で動かしている。その様子を見た同僚はため息をついた。
「これで俺らも当分、無職ニートか。まぁ、時間ができたと思えばいっかな。溜まってるアニメでも観られるし…」
だが、その言葉に作業をしていた男の手が止まる。キーボードを打つ音が消えたことに同僚も気づいたようだ。
すると、画面から顔を背ける事なく、男が口を開く。
「いや…たぶんそうはならないかもな。」
「え?」
突然の言葉に驚いた同僚は、その横顔に視線を向けた。
「どういう事だ?なんか知ってるなら教えろよ。」
その問いかけに対し、画面を見つめていた目を静かに閉じた男は、ゆっくりと口を開く。
「『アクセルオンライン』の終了には、"彼ら"が一枚噛んでいるらしい。」
「なっ!?彼らって…もしかして!?」
驚く同僚の言葉に静かに頷くと、男は再び開いた目を画面に向け、マウスを操作し始める。
マウスのアイコンは、『天運フォルダ』と記されたフォルダで止まり、カチカチッとダブルクリックの音が響く。
「おい…お前、これって…」
「あぁ、俺がこっそりと調べていた"彼ら"に関する記録だ。」
「な…!上官にあれだけ釘を刺されたっていうのに!天運については、ある意味トップシークレットなんだぞ!」
声を荒げた同僚に対して、男は「静かに。」と小さく宥めると、同僚は小さく謝罪しつつ、小声で男に問いかけた。
「バレたら監獄行きだぜ?お前、その事をわかってんのか?」
「覚悟の上だって…まぁ、なかなか苦労はしたよ。天運の行動ってさ、何かあるごとに誰かに書き換えられてしまうから、全然追えなくてさ…」
「誰か…って?」
男は肩をすくめる。
「そこまではわからん。だが、どうやってもわからなくて、悩み悩んだ末に俺はある事に辿り着いたんだ。」
「ある事…?な…なんだよ…それは。」
同僚の問いかけにニヤリと笑い、男はフォルダ内の一つのデータを開いた。
「アクセス…ログ…?なんだ、あるじゃんか。これ天運のだろ?」
「いや…上官のさ。」
その言葉に同僚は大きく吹き出した。
「おっ!お前!なんちゅう怖いもの知らずな…」
「ハハハハ…発想の転換さ。天運がダメでも、上官のログなら簡単に見れたんだ。そして、これはバシレイアへ上官がアクセスした記録の一覧なんだが、その中で一つだけ不自然に改竄された部分があってな…」
男はマウスでログデータを下へと進めていく。
そして、ある部分で手を止めて、マウスのアイコンで指し示したのだ。同僚はそれを見て首を傾げる。
「これか?俺には何もおかしくは見えないが…」
「普通ならそうだろうな。だが、これを…こうすると…」
男がキーボードを軽快に叩くと、何やらシステムが動き出し、その結果がテキストへと書き記されていった。
「これは俺がこっそり開発したクリーニングシステムな。単純に、このログデータを元に戻すために作ったんだけど…ほら、これだ。」
男が先ほど指し示した部分と、テキストに書き記された部分を照らし合わせてみると、テキスト側には『Forced logout( 強制ログアウト )』と書かれている。
「これって…自分でしたんじゃ…ないよな……?いったい誰にされたんだ…」
「それもこれでわかる…こいつだ。」
男が移動させたマウスの先には、『Unknown』という文字が書かれている。
「『Uknown』……?」
首を傾げる同僚に、男は説明する。
「バシレイアへのアクセスIDってさ、基本的には自分の名前が入るんだよ。それは知ってるだろ?」
「あぁ…上官なら『Hermēs.gd』だからな。」
男は大きく頷いて、説明を続ける。
「そうだ。神界にいるものなら、誰でも与えられるIDだな。でも…こいつにはそれがない。ないから誰だかわからない…まさに『Uknown』だな。」
「それじゃ答えになってないぞ。」
同僚のツッコミに男はクスリと笑った。
そして、小さく咳払いをすると、自慢げに同僚へ問いかける。
「"こちら側"に元々存在しない奴らがいるじゃないか。」
「こっちに元々存在しない………って…そうか、プレイヤーか!」
「そうだ!そして、プレイヤーの中でこんな芸当ができるとしたら…」
男の言葉に同僚は驚愕していた。
彼の頭の中に浮かんでいる人物こそ、"天運"と呼ばれたプレイヤーなのだから。
「マジかよ…奴はあの『ハッカーの極意』を使いこなしたってことかよ。」
「あぁ、その通りだ。神界に住む俺らですら手に余る神具だっつーのに、人間である奴は使いこなし、そして、上官の技能を超えたんだよ。」
男は震える手を抑えながら、口元に笑みを浮かべていた。
それを見た同僚は、背筋に寒気を感じてしまう。
気がつけば、自分の手も震えていた。心の底から震えが襲ってくるのがわかる。
だが、それが恐怖からなのか、それとも好奇からなのかは本人にもわからなかった。
同僚の様子を見て、男は大きく吸い込んだ息を思い切り吐き出した。
「ふぅ…だが、俺が辿り着けたのはここまでだ。そして、これ以上は調べようもない。アクセルオンラインは、もうサービスが終わるからな。」
「…だな。でも、これでよかったんだって…これ以上詮索しても、何のメリットもないんだからさ。」
男は「そうだな…」と呟いてイスに背をもたれた。
同僚もため息をつくと、仕切り直したかのように両手を叩く。
「さて!この話は終わりだな!あとどれくらいかかるんだ?飲みに行こうぜ!」
「……そうするか。どうせ今日中には終わらないんだしな!」
笑う男に、同僚は「そうだぜ!」と笑顔を浮かべる。男は「すぐに片付けるよ。」と告げて、デスクの整理を始めた。
その様子を見ながら、同僚の男はふと思い出したことを話し出した。
「そう言えばよ…下界ではついにフルダイブ型ハード機が開発されたそうだぜ?」
男は顔は向けずに、口だけで返事をする。
「へぇ~下界の娯楽は進んでるなぁ。奴らの技術力じゃ、仮想現実なんて当分先だと思ってたが…」
「……だよな。だけど事実らしいぜ。それに、新たに設立された運営会社のCEOが、めちゃくちゃやり手だってもっぱらの噂だ。」
「やり手って…それだけじゃ、仮想現実の世界なんて実現できないだろう。なんか裏がありそうだよな。」
「確かに。」と笑う同僚。
そんな彼に、整え終えた資料を鞄に片付けながら、男はふと問いかけた。
「その会社名って何なんだ?」
「会社名…?あ~っと…確か…」
同僚は頭を抱えて少し悩むと、思い出したように目の前のメモ紙に書き始める。
「えっと…『Gottspielen.inc』…だったかな。」
「…何で読むんだ?」
「……わからん。」
「調べとけよ…」
男はそうため息をつくが、同僚はお腹を抱えて笑っている。その様子にいっそうため息をつくと、男は立ち上がって「待たせたな。」と呟いた。
と、その時だった。
「あんたら、ここのSE?」
突然の声に驚いて二人が振り向くと、部屋の入り口の前に誰かが立っている。部屋の暗さで相手の顔は見えないし、この辺では聞き覚えのない声であるが…
上官ではないし…主神たちでもない…
だが、今まで感じたことのない得体の知れない感覚に、二人は冷や汗を流す。
「…誰だ?」
男が警戒して問いかけると、その人物は笑いながらこう答えた。
「俺が誰かなんて、今はどうでもいいだろ?ところであんたらさ、もし興味あるなら俺の会社で働かない?」
一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかったが、男はすぐにハッとした。
チラリと同僚を見れば、表情には焦りが浮かんでいる。
おそらく、彼は気づいていない。
目の前にいるのが…
誰であるかを…
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