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第四章 全ての想いの行く末
幕間 〜神々〜
しおりを挟む「おっ!戻ってきたのぉ。」
そう笑うゼウスの前に、オーディンが歩いてきて立ち止まる。
服はボロボロだが怪我などはない。だが、その顔は少し満足げであり、ゼウスはそれに気づいて小さく笑う。
オーディンの後ろには、彼の妹と弟、ヴェーとヴィリも付き添っているが、そちらの表情は少し暗い。
ゼウスがそれらを確認していると、オーディンが不意に口を開いた。
「ジロジロと…相変わらず礼儀のない奴め…」
「おぉ…すまんすまん。」
オーディンの指摘に詫びを入れつつ、ゼウスは彼に感想を尋ねてみた。
「どうじゃった…?彼らは…」
その問いに、オーディンは気に食わないと言った表情を浮かべるが、
「そうだな。なかなか…楽しませてもらった。この永遠とも言える長い時間の中で、あそこまで我らに敵意を向けて挑んでくるものは、これまでいなかったからな…」
ゼウスはその答えに、ひげをさすりながら満足そうな顔を浮かべた。
「やっぱり、わしの言った通りじゃろ?」
「それだけが気に食わんがな…」
「満足してもらえて何よりじゃな。あとはクロノスの奴をどうするかじゃが…」
ゼウスは少し考えるようにあごに手を置いて、悩む素振りを見せる。そんな彼に対して、オーディンはため息をついた。
「当て馬にすれば良い…どうせほとんど力を失った奴は、彼らには勝てない…」
その提案にゼウスはニンマリと笑った。
「そうじゃな。まぁ、アヌビスには一言伝えといてもいいか。奴には損ばかりさせたからな。」
大きく笑うゼウスを見て、オーディンは「勝手にしろ…」と告げて歩き出す。
「次のシナリオが出来たら、後で送るからのぉ~。」
ゼウスがそう声をかけると、オーディンは振り向く事なく、手を上げてそれに応えた。
その背を眺めながら、ゼウスは口元に笑みを浮かべる。
そこにヘルメスが姿を現した。
「ゼウスさま、アヌビスさまにはご説明差し上げてまいりました。」
「おぉ、さすがヘルメスじゃ。で、奴はなんかゆーとったか?」
「はい。僭越ながら申し上げますと…"クソジジイ"だそうです。」
「フォッ!あやつらしいな!」
「ですが、幾分かは楽しげでした。」
ゼウスはその言葉に満足げに笑う。
「そう言えば、クロノスさまですが…」
「どうせ、リシアにでも行ったんじゃろ?」
間を置くことなく告げるゼウスに、ヘルメスは「はい。」とだけ答えた。それを聞いたゼウスはひげをさすりながら思案する。
「リシアの彼らをジパンへ差し向けてくるのか…まぁ、今となっては、イノチ君たちの敵ではあるまいよ。放っておいて問題なし、じゃ。」
「左様で。アヌビスさまも、"ゼウスさまの思惑通りじゃ面白くない"と仰ってましたから、もしくは…」
「よいよ。イノチ君たちの強さを確認できる良いチャンスじゃろ。それに、結果的にはイノチくんの手駒が増えるだけじゃろうて…イノチ君たちも、我らへ挑戦するにはまだちぃ~とばかり手札が足りんからな。」
「そうですね。」
冷静に答えているヘルメスを見て、ゼウスはニンマリと笑みをこぼした。
「ヘルメス…嬉しいなら隠さんでええぞ。イノチ君のスキルに見惚れたか?」
その瞬間、タガが外れたようにヘルメスは恍惚な表情を浮かべ、興奮し始める。
「だって…だってだってだって…!!あんな…あんなスキルを見せられてしまっては、SEとして正気でいられる訳がありません!!確かに『ハッカーの極意』は特権で扱いも難しく、あそこまで使いこなせる者はこの神界にもほとんどいません!あぁ…あの正確さ、スピード、閃き…全てが完璧なのですよ!まさに神業…!!あんな人間がいるなんて…」
今までの凛とした姿からは想像もできないほど、トロンとした目を輝かせ、涎を垂らして悶えるヘルメス。
その姿を見て、ゼウスは面白そうに笑う。
「お主がそこまでなるということは、やはりわしの目に狂いはなかったな。イノチ君で正解じゃった。」
その言葉にハッとしたヘルメスは、咳払いをして普段通りの佇まいに戻る。
「…し…失礼しました。おっしゃる通りで…しかし、よくお見抜きになられましたね。これだけ人間が蔓延っていると言うのに…」
「あれだけのスキル、すぐに目につくわい。わしの下界観察歴を舐めるでない。それに加えて彼は真面目で、正義感に溢れておる。今時、珍しい若者じゃ!」
楽しげに笑うゼウスに対して、ヘルメスはため息をつく。仕事をサボって何かをしていたのは知っていたが、まさか下界観察をしていたとは…まったく、最高神ともあろうお方が…
だが、その理由もヘルメスには理解できた。
ゼウスも含めて、神々は暇を持て余している。悠久の時間を過ごす彼らにとって、平凡な日々は退屈でしかないのである。
時には地震や嵐などの天変地異を起こし、時には人に化けて国々を惑わして戦争させ、時に新型のウイルスをばら撒いては…
彼らにとって地球は統治すべきものであると同時に、遊び場でもある。そして、そんな彼らはこの盤上で自分達が楽しめる限りのことは、この数千年のうちにやり尽くしてしまったのだ。
そうして創られたのが、この"バシレイア"という擬似世界であり、神々が自分の駒として人間を送り込み、そのサポートをしながら自由にRPGを楽しむ世界…バシレイアは神々のためのソーシャルゲームという訳なのだ。
だが、ゼウスだけは違った。
バシレイアという盤上で遊ぶだけでは飽き足らなかった彼は、他の神には内緒である計画を進めることにしたのだ。
そして、その対象に選ばれたのが、イノチだったのである。
「さて…ヘルメス、次のシナリオを頼むぞい。」
ゼウスは、次は何して遊ぼうかと考えている子供のような表情を浮かべてそう告げた。
「御意に…」
ヘルメスはそう頭を下げると、「ご希望のメニューは?」と呟く。それに対して、ゼウスはひげをさすりながら少し考えて、閃いたようにこう告げた。
「プレイヤー、神になる…なんてどうじゃろうかのぉ。」
ヘルメスはその言葉にこくりと頷いて姿を消した。
それを見送ると、ゼウスは歩き出す。
長い廊下をゆっくりと…その足取りに楽しさを交えて。
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